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瞳を魅せる男の異世界譚  作者: ヤギー
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40話 Bランク昇格試験③

 アンナが啖呵を切ったことで慎也が感じたのは驚きや苛立ち、ましてや恐怖ではなく安堵だった。


(良かった。

 胸の谷間を露出させてしまったことは怒ってないようだ……。)



 ふと、慎也は少し離れた場所にアンナがいることに既視感を覚えた。

 そして、嫌な予感で頭がいっぱいになる。

(いつのことだ?

 いや、そもそも過去にアンナと会ったのは1度だけ。

 距離が離れているのは最初と最後……最後?)


 慎也はとっさに剣で防御態勢を作る。

 短刀と慎也の剣がぶつかる音と衝撃で、慎也はアンナの攻撃をようやく認識した。


「よく防いだわね。

 あんたはムカつくけど、強い男は嫌いじゃないよ。

 次はどうかしら?」

 アンナは笑顔で言う。

 その様子は、戦うことが好きで好きで堪らない人だ。



 アンナの動きは風のごとく速く、短刀での攻撃も相まって『かまいたち』のようだ。

 片方の刀は防ぐことが出来ても、もう1刀で攻撃を喰らってしまう。

 慎也は、徐々に切り傷が増えていった。


 完璧なヒット&アウェイによる攻撃で、慎也が反撃しようと思うときにはもうその姿はない。

(このまま新手にあっさりやられちゃ、今までと同じだ。

 どうにか反撃を……)



 アンナはいつの間にか遠く離れていて、また攻撃を仕掛けようしている。


 慎也は剣を両手で逆手に持ち、アンナの攻撃のタイミングに合わせて地面に突き刺す。

 慎也の周囲に円を描いて、魔法を発生させた。



 アンナは直前で察知して、バックステップを取っていた。


「危ない、危ない。

 意外とやるようね。

 特別にそろそろ本気を出してあげるわよ!」

 アンナは嬉しそうに言う。



 アンナは風を圧縮し飛ばしてきた。

 慎也は防御態勢を作るが、衝撃で体勢を少し崩される。

 体勢を立て直そうとしていると、いつの間にかアンナが近づいていて剣を振るう。

 慎也は慌てて回避行動に移るが、避けきれず傷を負ってしまう。


 遠距離攻撃と近距離攻撃を織り交ぜ、動きも攻撃自体も高速なため、一方的な展開になっていた。

 慎也は中央で四方八方から来る攻撃にひたすら耐えるしかない。

 もう慎也の体も満身創痍(まんしんそうい)で、アナセンが試合を止めるのも近いのではないか。

 誰もがそう思っていた。



「兄ちゃん、がんばれ~!!」

 賑やかな中でもルーイの声が慎也にしっかりと届く。


(ルーイ……

 分かってる。分かってるけど……いったいどうしたらいいんだ)

 慎也の頭には、自分の持っているあらゆる技をあっさり避けられ、反撃を喰らうイメージしかなかった。今は、攻撃を待っているため何とか耐えれているが、反撃に出てカウンターを喰らえば、それに耐えるのが難しいことは容易に想像できた。


 客席では、アンナの本気にどよめきが起こっていた。

 アンナのスピードは遠目に見ていても、目で追うのがやっとの速さだった。

 観客は口々に賞賛の言葉を漏らす。

 ルーイの声援以外で慎也の耳に届くのは、アンナの実力に対する驚き・賞賛ばかりだ。



 そんな中で、慎也の耳に(かす)かに届く声があった。

「……が……っ……」


 その小さな声はほとんど周りの音にかき消されていたが、慎也には確かに届くものがあった。

「……がんばって……」



 ―― side アンナ ――

 アンナは楽しい時間を過ごしていた。

 戦うことは昔から好きだったが、イリス様の下で働けることになってからは、本気で戦える機会などなかった。

 屈強で、偉ぶっている男たちを手も足も出せない状態にしてやっつける。

 これは、アンナの心を快感で満たす行為だった。

 今までも、しぶとい相手はいたが、反撃できない状況を作れば、体より先に心が根を上げる。

 一回、相手に諦めが生まれてしまえば、もう自分の勝利は揺るぎ無いものとなる。

 そして、今回ももうすぐ決着がつく……はずだった。


(なかなかしぶといけど、そろそろ終わりよ。

 ……遠距離魔法の乱れ打ちで一気に追い込んでやるわ。)

 アンナは、右手を慎也に向かって突き出し、魔法を放つ。

 同時に、慎也の周りを高速で回り始めた。

 これによって、慎也に様々な方向から魔法が襲うことになる。

 全てを防げないと予想し、アンナはある程度魔法を放つと中央の慎也に接近する。



 しかし、そこにあったのはアンナの魔法を喰らっても大して体勢を崩さずにいる慎也の姿だった。

 悠然と待ち構える慎也と視線が交差する。

(そんな!!

 あれだけの攻撃を全て防いだっていうの!?


 ……魔法を全身から出して打ち消すとか、どんな魔力してるのよ。)

 アンナは、慎也の体の周りに電気が走って、火花が散っていることに気が付いた。

 慎也は、体全体に魔法を纏わせることで飛んでくる魔法は無効化し、かつ体勢を崩さずに反撃の準備を整えた。


(けど、あれだけの魔力を使って、もう魔力が残ってるはずはない。

 こっちだって余裕はないけど、まだ少しなら……

 接近戦でかたをつける!)


 序盤と同じ過ちを犯さぬよう高速で慎也の背後に回り込み、切りかかろうとする。

 しかし、アンナは慎也が振り返りもしないことに一瞬違和感を覚えた。


 その時、上から轟音とともに雷が落ちてくる。

 アンナは一瞬違和感が()ぎったのもあり、バックステップで間一髪回避する。

 しかし、バックステップの着地点にすかさず次の雷が飛来する。

(ちっ、あいつの魔力は底なしかって言うのよ!

 ゴツい男を気絶させるほど強力な魔法を連発するとかどうなってるの!?)

 アンナは、長い詠唱が必要な上級魔法に相当する魔法が連続して放たれることに焦りを感じながら、間一髪で避けていた。


 ふと、慎也の方を見て、アンナはぞっとした。

 慎也はこちらに向けて魔法を放とうとしているのだが、右手から放たれる前の魔法の余波が漏れており、その魔法が小さな家の1つくらい吹き飛ばしてしまいそうなほど巨大であることが容易に想像できた。

 アンナは、両手を体の前でクロスさせ、出来る限り威力を軽減させようとする。



 しかし、その衝撃は来なかった。

「そこまで。

 場外により、勝者は慎也くんです。」


 アナセンの声にハッとして、辺りを伺うと自分はいつの間にか場外まで飛び出していた。

 アンナは自分の負けを悟り、脱力してその場に座り込んでしまう。

 アンナとしては負けた悔しさよりも安堵の方が大きかった。

 気の強いアンナがそう思ってしまうほど、強力な魔法を連発する終盤の慎也の姿は畏怖を覚えるほどだった。



 ―― side out ――

 決着がつくと観客からは盛大な拍手が送られ、急展開からの決着に最高潮の盛り上がりを見せた。


「今の試合は非常にハイレベルな攻撃の応酬でした。

 片方が力強さを見せれば、片方はスピードで圧倒する。

 それに対して、また対応策をたてるといった展開から、最後は強引なまでの魔法攻撃で……」

 アナセンの解説が、前回同様に行われる。


 しかし、慎也の頭にはほとんど入ってきていなかった。

 魔力切れ寸前でふらつく体。

 そして、魔力切れ以上に異常をきたしている部位があった。

(……眼が焼けるように熱い。)


 痛みとともに視界がぐるぐると回り、(ひざ)に手をつく。

 ついには慎也はその場に倒れこんだ。

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