21話 初めて聞いた
2人は部屋に入ると、1日の疲れもあって、意図せず同時に、荷物を置いて座り込む。
そして、言葉もなく、見つめ合う時間が少し続いた。
最初に話を切り出したのは、慎也だった。
「…なんで、また2人で1部屋なんだよ?
金はまだあるぞ?」
慎也が、不服そうに言うと、
「馬車乗るんに、結構お金使ったんちゃう?
…あたいの分は払えんくらいやし。
節約や、節約♪」
ステラは、少しお姉さんぶって言った。
馬車の代金の話を出されると、慎也としては反論できないが、最初、ふとん1つでいいとステラが言ったのは、節約にしては行き過ぎてる…と、思ったが、大した理由はなさそうなので止めた。
「じゃあ、それはいい。
それよりも聞きたいことがある。」
「あたいもいっっぱいあるで!」
2人は少し睨み合う。
「じゃあ、1つずつ交互に質問して、時間が遅くなったら終わりでいいか?」
慎也が提案し、ステラが了承したので、質問タイムが始まった。
「さっきは慎也が質問したんやから、あたいからやな!
何で…目に金色の輪っかが入ったりすんの?」
慎也は、ステラの質問に、いきなりど本命だな…と思いつつ答えた。
「……知らん。
まぁ…世界を支配する証ではないな。」
ステラは、知らないと言われて、しょうがないか、と諦めた。
「次は、オレだな。
答えやすいとこからいくか…。
ラナースで、ステラを捕まえた男は、ステラが仕事の話をする時にもいた男か?」
「おったよ?
おったけど…2人くらい、別におったよ。
ちょっと太った商人っぽい男とか、剣を持った怖い目をした男とか…」
慎也は、ふ~んと、何やら納得した様子を見せた。
「…なに、1人で『分かってるよ、相棒!』みたいな顔しとんの?」
「……絶対にそんな顔してないけど…
まぁ、この件は深く突っ込まない方がいいから、説明はしない。
…まぁ、それを質問に入れるならいいけど。」
慎也は、嫌そうな顔で答えた。
ステラは、少し悩んだ表情をしたが、笑顔を作って言った。
「…じゃあ、それをあたいの2つ目の質問にするわ!
あたい、中途半端って嫌いなんよね。」
「まぁ…いいか。
推測に過ぎないが、オレたちの目の前で作った砂の男は簡単に作れるけど、服とかまで再現させるのは、かなりの労力を使うと考えられる。
そうでなければ、商売用のやつと殺し用のやつで使い分けた方がいい。
オレたちの前に現れたやつが、特別に作りやすいという可能性もなくもないが、商人や護衛を作れるなら、その可能性は低い…。
…そして、これは勘に近いが、人を使って集めたかったのは、金もそうだが、一番は新たな人形を作るための材料の可能性がた……」
慎也は、そこまで一気に喋って、ふとステラを見ると、ぽかんとしていた。
「…というわけだ。わかったか?」
「…えっ……なるほどね!」
「よし、今度はオレの番だな。」
ステラは、あっと少し悲しそうな表情をしたが、慎也は無視して言葉を続けた。
「これは大事な質問だぞ、いいか?
…何で、ラナースを出たのに契約の魔法の効果があったんだ?」
慎也は真剣な顔で言う。
何でも屋に行った時は、逆に使えて助かったのだが。
「あ~…それはね…
あたいが、解除してへんから♪」
ステラは、てへっと舌を出した。
慎也は、一瞬理解できなくて、それが表情に出た。
「ほら…契約の魔法って片方が有利で、片方が不利じゃん?
だから、期限が過ぎたり、目的が達成されると、不利な方…つまり、あたいが解除するんよ。
まぁ、指にこうして痕もあるわけやし、忘れる訳ないから問題ないんやけどね。」
慎也はまだ腑に落ちなくて聞いた。
「…それで、何で解除されていないんだ?」
ステラは、急に大人しくなって言った。
「…だって…あんた、そのうちどっか違うとこ行くんやろ?
…あぁ、これがあたいの3つ目でええよ。」
「…答えになってないだろ?
…言ってなかったかもしれないけど、オレはもともとパール王国に行く予定だったんだ。
だから、準備が整ったらここを出る。」
ステラは、少し泣きそうになりながら言った。
「……どうせ、連れてってはくれないんやろ?
そんな話、初めて聞いたし…。」
慎也には、まったくもって連れていく気はない…というか理由がないので困った。
ステラの様子に安易な言葉はかけられないが、適当な言葉が思い浮かばない。
ステラは自嘲気味に、ふんっと鼻を鳴らしながら笑って言った。
「…頭ええんやから、考えたら分かるやろ?
おやすみな…。」
ステラは、横になって布団をかぶり、慎也に背を向けた。