エピローグ 推しの死を乗り越える方法
「また、死んだ……」
「部長の推しが死ぬのは、映画だけじゃなかったんですね」
ようやく前進した最初のデートは、意外にも映画ではなく観劇だった。
大変楽しい時間を過ごし、側のカフェでお茶をしながら私は舞台のパンフレットをめくる。
ただ、横に座る部長の顔は、今日も御通夜だ。
そう、部長の推しはまた死んだ。
「あの青年には、生きていてほしかった」
「いやもう、顔がいいし儚いし、出てきた瞬間から死にそうだって思いましたけどね」
今日見に来た舞台は、私たちが好きなアクション映画の関連作だ。
現代が舞台の大規模アクション映画が、なぜか舞台を戦国にうつして舞台化すると聞いた時は「何がどうしてそうなった?」と思ったが、これがなかなかに面白かった。
まあ、部長の推しは死んだが。
「そういえば、作中で死んだもう一人も部長好きそうでしたよね」
「ああ、ダブルパンチだった」
「部長の推しが死ぬのは、映画の中だけじゃないんですね」
言った途端、突然左手をぎゅうっと握られた。
「君は、絶対に死なないでくれ」
「私は儚いイケメンじゃないので大丈夫ですよ」
ごく普通の映画好きなOLに、儚いイケメンのような壮絶な死はそうそう訪れないと思う。
「それに私が死んだら、誰が部長を慰めるんですか?」
「そもそも、君が死んだら私はもう二度と映画は見ないと思う」
寂しげな、でもまっすぐな眼差しが私に向けられる。
想像だけで泣きそうになっているのか、その目は少し潤んでいた。
「君と映画を見る楽しさを知った今、昔のように一人で見ることはできないだろう。映画だけでなく、もはや私の人生は君なしでは完成しない」
「それ、凄い殺し文句ですね」
「いや、殺すつもりはないぞ」
せっかくの殺し文句も台無しになる情けない顔で、部長は私を見つめた。
「不安がらなくても、私は死にませんよ。私もまだまだ、部長と映画を見たいですから」
そして店員が見ていないうちに、そっと彼の頬に口づける。
「それで、この後何か見ていきます?」
「人が死ななそうな映画にしよう」
「あ、そういえば動物ものやってましたね」
「それは、逆に動物が死ぬ奴では?」
「死んだら、また慰めてあげます」
そう言って笑うと、不意に部長の手が頬に触れた。
「頼りにしている」
そして彼は私の唇をすばやく奪った。
もうすっかり恋人仕草にもなれきった部長は、すぐに唇にキスをしてくる。
嬉しいけど照れくさくて、私はパンフレットで真っ赤になった顔を隠した。
「うっ」
運悪く死んだ推しのページを見せてしまい、部長は胸を押さえた。
それに思わず笑っていると、「ひどい彼女だ」とすねた声が帰ってくる。
「でも、簡単には死なないところは、いい彼女ですよ」
「まあ、違いない」
そして私たちは、今日もまた二人で映画を見る。
部長の推しはよく死に、私の推しもときどき死んだりと辛いこともあるけれど、もう会社を休んだりはしない。
なぜなら私たちは、推しの死を乗り越える一番の方法を知っているのだ。




