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宇宙人総理  作者: 竹内遼
1/7

#1

10月12日 

朝日が窓から直線的に照らす。光の先に草薙総理は重厚なソファに座っている。埃一つなく整理整頓された部屋で、ツーブロックをジェルで整えた髪型の草薙は、小さく一息つく。

「…これからだ」

机の上には、10センチほどの鉄の棒が置いてある。草薙が鉄の棒を指で振れると、ビジョンが現れる。鉄の棒にはJAMという文字が刻印されている。株式会社JAMは、Ωの新元素を使いビジョンの技術とPCUの技術を発展させて「JAM PC」を開発した。JAMのようΩの新元素を使い、世界的企業に成長した日本企業は多い。日本のGDPが2位まで返り咲いたのは、2年前になる。

机上のビジョンには、英語で書かれたプレゼン資料が写っている。草薙は小さく「government」呟く。世界がいくら進歩しても英語を喋らなければいけない事にはヘキヘキとする。草薙はゆっくりと立ち上がり、机の上の埃を指でなぶる。几帳面な性格と、英語の発音が苦手なのは小さい頃から変わらない。

 部屋のドアが開き、秘書の熊倉望が入ってくる。黒く長い髪を後ろで一つに結んでいる姿は、表に顔を出す時では見せない髪型だ。総理秘書の品性を表に出す時は、下された長い髪が凛とした印象を与えるようだ。まぁ、どちらでも構わない気はするが。

「どちらでもいいんですか?」

草薙は自分の考えを読み取られているのかとハッとした。

「歴史に残るであろうスピーチがどちらでもいいとは思いませんが」

彼女はいつもこちらのことを見通すような真っ直ぐな視線を向ける。度々の外交や政治家の重鎮の陰謀を見抜く才能を鑑みても、彼女が総理になったほうがいいのではと思うこともある。

「あぁ…そのことか。だったらAプランでいくよ」

「だったら…。そうですか。では、そろそろ向かいましょう」

扉に向かう草薙は、後方を振り変える。整理整頓された部屋を見ると、自分の心の平穏も生み出す。自然と草薙の視線は本棚の小さな戸棚に向かう。ざわつく心を鎮めるように、草薙は息を吐く。ゆっくりと部屋のドアを閉める草薙の表情には、1国の総理大臣に相応の決意と正義が満ちる。その瞬間、「World Government」と映されたビジョンが消えた。


同日

 「World Government」と大々的に書かれたビジョンが、演壇の上にデカデカと映されている。あまりにも大きなビジョンと嘘のような大きな話が相まって、21世紀初頭のアメリカ映画のような演壇になっている。演壇の前には、300人を超える記者がずらりと座る。世界中の記者とジャーナリストが集う中、異様な緊張感と高揚感が会場を包んでいる。周りの記者たちは興奮を抑える為に、電話をしたり隣の記者と喋ったりと、平静を装っているように見える。記者の中心には、東方ジャーナルの水口瑞樹が座る。水口もまた緊張の渦中に飲み込まれていた。口をつぐみながらも、早く始まってくれと望む手には力が入る。その緊張を劈くように、水口の手が振動をする。手首の銀色のリングに触れて、手の指を耳に当てる。

「おい、水口。どうだ?そっちは」

上司の滝上はいつも電話で声がでかい。リングが電話機能を持つ「JAM PHONE」は、発した音声を自動で調整すると何度言っても「昔のスマホは声を出さないといけなかったんだ!」と騒いでいる。歳をとると変なものに固執をして、昔の体質を変えられない。本当に心から反面教師としたいが、親指と小指を立てて、電話のように耳に当てている自分自身も古い流行が体に染み着いている。

「まだ始まってませんよ」

「中継で見てるんだから、んなことわかってるよ。現場では何が起こってるんだって聞いてんだよ」

「えっと…特に誰も出てきてませんよ。まだ各国首脳が談笑しながら腹の探り合いでもしてるんじゃないですか?」

「それだけか?ち、ったく記者にしても目が悪いんだよ。俺がいけば良かった」

「それはどうもすみませんでした」

と、演壇の横のドアが開く。

「もうすぐ始まるみたいです。それでは」

一気に記者たちのフラッシュが光る。扉からは草薙総理がゆっくりと出てくる。相変わらずカメラ慣れしている元アナウンサーだ。草薙は笑顔とも真剣とも取れる表情で登壇する。水口は「JAM PHONE」に触れて、キーボードとビジョンを出す。青い紬の冊子を演台で開く草薙総理は、髪をかきあげて、ゆっくりと息を吐く。彼のいつものルーティンだ。一瞬の静寂で、記者たちが前のめりになったのを感じる。

「ご列席の皆様、歴史上人類は多くの犠牲を払いながら、愚かな戦いを繰り返してきました。宗教、人種、土地、エネルギー、食料、あらゆる問題で起こってきた戦争から人類は学び、さまざまな世界組織を作っては、壊すという愚行と言わざるを得ないことを繰り返してきました。しかし、今日この日。愚行の輪廻から完全なる脱却を宣言いたします。地球は大きな危機に晒されています。皆様もご存知の通り、宇宙からの未確認の攻撃が続いています。そこで人類を存続させるために、この危機に立ち向かう組織が必要となりました。そして先ほど、様々な国や人種が、人類という大きく偉大な枠組みの元、人類史上初めて一丸となったのです。皆様本日は歴史上最も偉大な人刻まれることでしょう。ここに世界政府の設立を表明いたします」

 一気に記者たちのフラッシュと、拍手が会場を包むのだった。

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