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魔術の研究を進めることにしました

 魔術学園には図書室があることを知ったので、現代魔術のことをもう少し詳しく知るために図書室に行くことにした。

 図書室で現代魔術に関する本を探していると、本棚を見上げて立ちすくんでいる少女を見かける。

 透き通るような白くて長い髪、光の薄れた灰色の目……最後の一人をようやく見つけた。

「取れない本があるなら取るよ。」

「魔術啓典の4巻を取って欲しいです。」

「珍しいもの読むんだね。はい、どうぞ。」

「神からの啓示と言って、昔の魔術協会があれやこれや書いたと言われてるらしいですね。これ。」

「へぇ……魔術協会が書いたものなのか、これ。」

「興味がありそうですね。魔術協会のことをご存知で?」

「そりゃもう、旧代魔術派なので。」

 魔術協会はもともと魔術の研究を行うことを目的とした魔術師の集団だった。前世の僕も魔術協会に属していた時期がある。

 だが、新代魔術に移行してからは魔導書をかき集めようとするだけの集団に落ちぶれてしまったから、僕が崩壊させたんだっけな。

「旧代魔術派……それこそ珍しいですね。」

「そうだろうね。」

 というか、やけにフラフラしているように見えるけれど大丈夫かな。

「本、取ってくれてありがとうございます。では……。」

 よろめきながら本を抱えて去っていこうとしたが、途中で力尽きるように倒れてしまう。

「きゅー……。」

「大丈夫!?」

 簡単に抱き抱えられるくらいに軽い体……相変わらずだな。じゃなくて、急いで保健室に連れて行こう。


「ニアちゃん!大丈夫です!?あれ、おにいちゃん?」

 保健室に連れて行くと同時にウォナが駆けつけてくる。

「図書室で倒れたところを連れてきたんだよ。」

「さすがです。おにいちゃんが一緒で良かった、です。」

 ひとまず、保健室のベッドで寝かせることにした。

「ミトカくんの顔を見る機会が増えて先生嬉しいな。」

「それより、大丈夫なんですか。」

「ザバニアちゃんは元々体が弱くて、よく保健室に来てるの。図書室で倒れてるところをよく見つかってるの。」

 そんな生息地が図書室みたいな。

「いつもはウォナちゃんが連れてきてくれるのよ〜。」

「中等部の棟から図書室まで行くのに遠くて、ニアちゃん体力がもたない、です。だから、いつも付き添いしてた、です。今日は気づいたらいなくなってたから、もしかしてと思って駆けつけた、です。」

「そうだったのか。」

 学園でのウォナの様子はわからなかったけれど、ニアと仲良くしてるんだな。

「あ、そうだ、ミトカくん。」

「はい、なんですか?」

「今度、また補修あるからよろしくね。」

「あ、はい……。」

 落ちこぼれ扱いの僕は定期的にリベルの補修を受けている。それでも魔法を使うのは下手なのだから、なかなかに困ったものである。

「それじゃ、僕は用事があるので。ウォナ、ニアのことよろしくね。」

「はい、です。」

 ウォナの頭を軽く撫で、保健室を後にした。


 図書室に戻り、魔術に関する本を探して回った。

 いくつか気になった本を集めて貸し出し、一旦仮部室に置いておくことにした。

「そういえば、魔術啓典は思ったよりいくつかあったな。どこまでのことが書いてあるんだろうか。」

 魔術啓典の最新巻を見てみると、発行日がそんなに古くなかった。

 魔術協会が書いているとニアは言っていたけど……それだと、魔術協会がまだ存在していることになる。

 不思議と気になってしまい、魔術啓典の最新巻を読んでみることにした。

 ーー魔術協会が壊滅した後、残った旧代魔術派の魔術師によって魔術の研究は密かに続けられていた。

 魔術協会の研究によって転生の魔法の存在が確認された。

 転生の魔法によって、人間を別の世界軸または時間軸へと転生させることができることがわかった。もちろん、転生前に戻ることも可能であることもわかっている。

 転生の魔法で転生してしまった魔術師のためにこの本に書き記しておこうと思う。

 転生前と転生後を繋いでいる魔素のパスが存在しており、そこに魔力を流し込むことで戻ることができる。

 ただし、魔素のパスの場所は我々では分かり得ないため、転生先の人間が自力で見つけるしかない。特徴も特にない、強いて言えば魔素が濃い場所であることくらいだ。探すのは容易ではないだろう。

 ちなみに、もしこれを読んでいるのが俺の半身ならば、伝えておかなければならないことがある。

 膨大な自分の魔力に反応して転生の魔法が暴発して広範囲の転生が行われてしまった。

 だが、魔素のパスを通れるのは一人ずつだし、何度も使用出来る保証もない。

 あまり転生前に帰って来れるという期待はしない方が良いだろう。

 あと、転生前の記憶は完全には失われない。記憶の混濁にも個人差があるから注意するように。

 魔術協会に縁のあるお前なら、おそらくこの魔術啓典にたどり着いていることだろう。

 ということだ、後は好きにしてくれたら良い。

「もはや、途中から僕に向けて書いてるじゃないか。僕らしいと言えば僕らしいけど……。」

 この魔術啓典を書いているのは、僕の魔力によって誕生の魔法を体現させてしまったことで生まれた、いわゆるもう一人の僕みたいなものだろう。

「転生の魔法で転生してしまっていたのか。まあ、それなら仕方ない気もするか。」

 転生前の記憶にも個人差がある……か。でも、関わってきた9人とも特に転生前の記憶がある様子はなかったけれど……。

「むしろ、僕が転生前の記憶が残り過ぎているのか……?それは、あり得そうだな。僕の魔力に反応して転生の魔法が広範囲で起こったみたいだし。」

 ともあれ、転生前に戻るのも困難みたいだし……9人とは改めて関係を結ばないといけないことには変わりなさそうだ。

「前世とは違う形で楽しませてもらいましょうかね。」

 ひとまず9人との接点自体はできた。

 リズは幼馴染……まあ、実質転生前と同じ関係性なんだけど、雰囲気は誰よりも違っている。おかげで距離感が一番近いはずなのに、一番遠く感じている。

 シュカは同じクラスの学級委員長……転生前は王女様だったのもあり、どうしても僕が少し距離を置きがちになっている。ただ、前世同様やけに向こうから僕に対しての距離が近い気がする。

 ウォナは義妹……まさか兄妹関係になってしまうとは思わなかったな。転生前のこともあり妹として扱いながらも、そうも見れない自分がいる。ウォナだからなのか妹だからなのかわからないけれどこれまた距離感が近いんだよな。

 リベルは担任の教師であり養護教諭……転生前同様に一人だけ年が離れていたのもあり、転生しても年が離れている。また、転生前と同様にアベラとは親子のようだ。

 アベラとナフェルは高等部の後輩……転生前との距離感が違うから新鮮味のある二人だ。だからこそ、どうやって距離を縮めていくかも考えなければならないが……。

 ルアとウカは中等部の後輩……転生前と同様に、出会ってすぐだからまだ警戒心を持たれている印象だ。魔術研究部を通して心を開いてくれるように頑張るしかないな。

 ニアも中等部の後輩でありウォナの友達……と言ったところかな。転生前もそうだが、最初の関係性が少し遠い。関わりを増やす方法も考えておく必要があるかもしれないな……。

 そして、当面の目標としては魔術研究部の設立。

 部室には困らなさそうだし、部員を集めればリベルが顧問になってくれると言ってくれている。どうしても後一人足らないのであれば入ってくれるとアベラは言っていたし……なんだか、親子揃って似たようなこと言ってるな。そして、問題はルアとウカか……ルアはウカの心配をしていて、ウカは自分でも魔法を使えるようになれるのだったらと言っていた。

 それで今、魔力が少なくても魔法を使えるようになる方法を探しているわけだが……。

「そもそも魔力量は魔法の強さに影響はするけど、魔法を使える使えないに影響するのか……?」

 魔導書があれば魔力を込めるだけで魔法を使えた新代魔術の世代もあるんだ、ウカが魔法を扱えないのは、魔力が少ないだけが理由じゃないんじゃないか?

「魔素と肉体の関係……?」

 なになに……筋力に比例して魔素は馴染みにくくなり、魔力量が増えにくいのと、魔力が分散しやすく魔法の体現が難しくなる……?

 生物が魔素を取り込むのは一種の防衛本能みたいなもので、自分の身を守る力が備わっている生物ほど魔素を取り込む量が減ってしまう傾向にある……か。

「リズが魔法を使うのが苦手なのも、もしかしてこれが影響してるのか……?僕と同じくらい魔力を練ってきているのに僕と比べると魔力量も少なめだし、あり得るな。」

 転生前のウカは魔力がまったくない代わりに異常なまでに筋力があった。もしかしたら、前ほどではないにしろ今のウカも筋力が備わっているのかもしれない。

「確かこっちに……魔導戦士の本があったような……。」

 国間での争いが激しい地域では、騎士だけでも魔術師だけでも戦力として足らなくなり始めたころがあった。一時期、生物を飼い慣らして戦場に送り出していた国もあったくらいだ。その中で、人々の研究によって生み出されたのが魔導戦士。

 魔術師の魔力を騎士に魔力供給を行うことで、魔法を扱える戦士を生み出したというもの。

 ただ、魔力供給によって得られる魔力は永続ではないし、一度魔力供給を受けると他の魔術師からの魔力供給を行う際に魔力の混濁が起こり、うまくいかないらしい。

 そして肝心の魔力供給の仕方は……書かれてないな。

「とりあえず、魔力供給ができれば問題解決できそうだな……。」

 まだ確定ではないが、間違いなく前には進んでいる。これで良いんだ。

「少し疲れたな、ちょっと休もうかな。」

 気を休めるのに少しの間、目を瞑ることにした。


 真っ白な空間……おそらく夢だろう。

「マスター。」

「リズ!」

 どこを見ているかもわからない昏い瞳、正気が失われたように脱力した佇まい。他でもない、僕のリズだ。

「マスター、私のことを思ってくれるのはとても嬉しいです。ですが、転生してしまった以上、もうマスターの望む私はいません。」

「それは……!わかってる……。」

「いいえ、マスターはわかっていません。」

「……!」

 リズはそっと顔に手を当てる。

「良いですか、マスター。マスターが目指すことは何ですか。」

「それは、みんなとまた……。」

「そうです。マスターはもう今でのマスターではありませんし、私たちももうマスターの知る私たちではありません。」

「それはわかってる。だから、ちゃんと……。」

「でしたらマスター。私も同じです。」

「リズ……。」

「心配しなくても大丈夫ですよ、マスター。私は転生してもマスターのことが……」

 リズの声が段々と遠ざかる感覚と共に意識が遠のいていく。否、覚醒していく。

「ミトカ、ミトカってば。」

「……リズ?」

「図書室で寝てたら風邪引くよ。ほら、早く教室戻ろ。」

 どうやら、少し休むつもりが寝てしまっていたようだ。

 リズに起こされ、教室へ戻った。


「ミトカさん、どこにいたんですか?」

「図書室で寝てたみたい。」

 教室に戻るとシュカが心配したように駆け寄ってくる。

「お疲れなんですか?」

「ああ……ちょっとね。魔術のことで調べ物してたから。」

「熱心なのは良いことですけど、無理はダメですよ?」

「わかってるよ、心配してくれてありがとう。」

 席に戻ろうとした僕の手をシュカが握る。

「あ、あの。よかったら今日……ミトカさんの家にお邪魔、しても良いですか?」

「もちろん、構わないよ。」

 魔術の勉強も進めないといけないだろうし、少しずつでも前に進むためにも、こういう機会は逃せない。

 ……リズ、僕はちゃんと頑張るからね。

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