第49話 絶望的な状況
立ちはだかるゴーレムをすれ違い様に屠って進むと、ジェシカはいくつも枝分かれした細い道から広間に出た。
――最奥だ。
ジェシカは直感で理解した。
高い天井から星の数ほどある魔鉱石の光が降り注ぎ、地上の室内と変わらない視野を得る。
同時に、とんでもない光景をジェシカは目の当たりにする。
「うっわ!」
夥しい数のゴーレムの群れ。
そしてその中で一際巨大な、数十メートルはあろう人型のゴーレム。
クハナの迷宮に巣食っていい魔物ではない。人型のゴーレムは間違いなく上級以上の代物だ。
ジェシカは周囲を見渡してゴーレムに囲まれている人間の姿を確認する。
数は五人。
その内の一人、甲冑を纏う男が女性に抱きかかえられていた。
さっきの声は甲冑の男のものだろうとジェシカは当たりをつける。
男の胸に手を当てて回復魔法をかける女性の背後で、猿の姿を象ったゴーレムが両腕を豪快に振り上げる。
「……え?」
ハッとして背後を振り向く女性。
まずい、このままでは二人とも叩き潰される。
ジェシカは他の冒険者に目を向けるが、みんな自分のことで手一杯の様子だった。
間に合うか。
内心で自問する以前にジェシカの体は動いていた。
足元で聖なる力を爆発させる捨て身の加速。自身ですら過ぎ去る景色に戸惑う中で一心に両手の剣を振る。
ほとんど体当たりにも等しいジェシカの特攻は猿型のゴーレムの上半身を吹っ飛ばし、魔鉱石もろとも粉々にする。
ゴロゴロと転がって受け身をとると、ジェシカは猫のように跳ねて臨戦態勢に入る。
あまりにも速すぎた一部始終を唖然と見ていた女性は、数秒置いて自分が命を助けられたのだと気づきジェシカに振り向く。
「あ、ありがとうございます!」
「礼はいいからさっさと倒れてる奴連れて全員で迷宮を出ろ」
「で、でも」
「道中のゴーレムは片付けてある。固まって行動すれば大丈夫だろう」
「そういうわけには……私たちも!」
「弱い奴は足手纏いなんだよ! はやくしろ、このノロマ!」
殺意を込めて女性を睨むジェシカ。
ジェシカに凄まれた女性は、年下とは思えない覇気に気圧されて意識を失っている男を抱えて立ち上がる。
他の冒険者たちも状況を把握したようで、回れ右で走り出すと女性が抱える男を代わって担ぎ、五人で道を引き返す。
「すまない嬢ちゃん。この恩は必ず返す! 名前を教えてくれ!」
「いらない。消えろ」
「……絶対に報いる。死ぬなよ!」
拒まれてもなお恩を返すと口にした冒険者を横目で見送り、ジェシカは鼻を鳴らす。
「礼よりもまず、自分が生き残ることを考えろよ」
吐き捨てて失笑する。
ついさっき自分の命を顧みずに突撃した人間のセリフではない。
「ああくだらない。やっぱ私、冒険者向いてないわ」
常々思っていたことを改めて確認したジェシカは大きなため息を吐く。
ゴーレムの集団が標的をジェシカに定める。
敵の数を目測で確認し、十を超えた時点で『いっぱい』と判断。
目立ちすぎて嫌でも目に留まる巨躯のゴーレムも数に含むと、勝算は……。
「らくしょーだ、クソッタレ」
強気に笑って踏み込む。
風を切って跳躍すると、雑魚のゴーレムを踏み台にして一気に巨躯のゴーレムの眼前にまで迫る。
巨躯のゴーレムは岸壁にも思えるほど大きい腕を振るが、ジェシカは器用にそれを足場にして走る。
狙いは間接。まずは腕を落として核の在処を探る。この巨体だ。きっと核である魔鉱石も相当に大物だろう。
核を見つけさえすれば一撃で終わる。見た目ほど強くはない。
「おっせえぞ木偶の棒!」
腕から跳び上がり、肩に向かって聖なる力を込めた剣を叩きつける。
少しだけ痺れる両手を意にも返さず全力で剣を押し込むと、腕はあっという間に切断される。
凄まじい音を鳴らして地面に落下する腕と共に、ジェシカも着地する。すかさず巨躯のゴーレムを見上げて核の位置を確認。そして、
「な、」
あまりの光景に言葉を失った。
全身――胴はもちろん、頭からつま先まで。
巨体に見合わず小さな魔鉱石の光が夥しく煌めく。
――なんだこれ。
理解が追いつかない異常な現実に立ち竦むジェシカをよそに、切り落とされた腕が凄まじい音を立てて変形する。
見つめていると、腕は人の形となって巨躯のゴーレムの四分の一ほどのゴーレムへと姿を変えた。
迷宮に湧いていたゴーレムは目の前の巨躯のゴーレムから分離したものだったのだとジェシカは悟る。
「こんなゴーレム見たことねえよ!」
お構いなしに攻撃してくるゴーレムの群れを掻い潜り、なんとかダメージを負わずにやり過ごすジェシカは冷や汗を流して叫んだ。
巨躯のゴーレムは無数の核を持つ魔鉱石の集合体だった。ならば倒す手段は一つだけだ。
囲んで飛びかかる獣型のゴーレムを強引な横薙ぎで粉砕すると、ジェシカは怒りと狂気の混ざった笑みを浮かべる。
「ぜんぶ壊す」




