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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
2章
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東灯台砲台防衛戦7

 警鐘が鳴り響く、メインマスト上の監視が注意喚起する。


 異変はすぐに知れた、今軍事行動をしているのはパルシェ准将以下別動三艦だけだ。


 緊急警鐘を鳴らす程の異変はパルシェ別動艦しか有り得ない。


「何事か!副官!状況を説明せよ」


 事態は知れている。だが、これはいずれ独立し艦長となる副官の教育である。


 瞬時に情報を入手し、事態を理解、解析し、最適解な判断をさせるための訓練でもある。


 艦長は、およそ100名の水夫の命を預かる。責任は大だ、判断ミスは重大事故に繋がる。


 艦長は孤独だ、海上では自分以上の権限者は居ない。己の判断で100名もの命を運用するのだ。


 だから、まるで突き放す様に、副官に情報整理報告を迫る。現場教育と云うやつだ。


 ジャール艦隊旗艦副官は、艦長補佐役を兼ね副艦長でもある。


 アルニンでは副官は艦長補佐であり、副艦長とは別の役職だが、連合王国海軍では兼任職だ。その代わり副官は二名定員で、交代で実務、補佐役をこなす。


 即座に、警鐘を鳴らした監視に手話確認だ。


「パルシェ艦、ベーリング艦、ガストン艦がテュネス砲台より砲撃を受けた模様、被害状況は続報待ち、砲撃は三回、現状は以上です」


 想定内の状況だ、ただ、読みが甘かった。テュネス海軍が、いつの間にか砲兵を手配していたか。


 ジャールはパルシェ艦方向、灯台砲台を見る。


「いや、継続して砲撃を受けている、砲火が確認出来る。パルシェ准将、油断のし過ぎだ」


「司令!如何いたしましょう、増援を送りましょうか?」


「それには及ばない、砲火を見た限りでは、砲手は定員割れしている。精々7~8門しか稼働していない。パルシェの指揮を……」


 こちらからでも、パルシェ以下三艦の主帆が弾ける様に散乱したのが見えた。


「なんだ?何が起こっている、何故帆が千切れる?副官!」


 監視に手話で確認する。


「砲火を継続確認、方法は不明なれど砲撃にて主帆その他を損壊した模様。あれでは動けない」


 後半に副官の主観が混ざる、だが咎める程の余裕は無い。帆の損壊した帆船が、敵砲門の射程距離内に有るのだ、即座にジャールは決断する。


「リール艦隊に通達!艦隊を以て灯台砲台を攻撃せよ、パルシェ以下三艦の救援に向かえ」


 艦隊の布陣からして、リール艦隊が直近である。三艦の救援に一個艦隊を向かわせる事は流石と言える。


 ただ、盤上遊戯よろしく最強の布陣とは、一手も駒を動かさない状態だ。


 リール艦隊を動かした事で、テュネス海軍も動きを見せる、簡単に言うとリール艦隊の動きに釣られた。




「砲撃止め!」

 三艦を無力化した所でレオンが停止命令を下す。沖を見ると敵艦隊に動きが見える。


 一個艦隊が帆を下ろしている事が確認できた。

 砲台上なので沖まで見回せられる。


「ダーレン曹長、敵艦隊が動いたが所見はあるか?」


「隊長、新型砲弾での砲撃ならば、この人員でも対応可能です、帆を破れば帆船は動けない」


 これは想定外だった。重火砲用の対物2号拡散弾は、帆船相手ならば効果絶大だ。


 ナザレの試射で、軍艦を的に出来る筈も無く、あくまで対物破壊用途しか考えていなかった。


 嬉しい誤算と云うやつだ。


 足を止めれば、一個艦隊だろうが的当ての的に過ぎない。


「曹長もそう考えるか、私もだ。

 よし、敵艦隊が射程距離に入ったら、二号拡散弾で艦主帆を砲撃せよ、航行不能にしてやれ」


 舵周辺の狙撃砲撃など、アル以外に出来る訳がない。

 しかし拡散する砲弾ならば、距離さえ合えば誰でも戦艦の帆を破り、足止め砲撃が可能なのだ。


 一個砲兵小隊で一個艦隊を相手にしようと言うのだ、本来なら正気の沙汰ではない。


 だが、兵員は誰一人不平不満を口にしない。

 やはり“神の眼”の存在が大きい。


 彼は一手で局面を返すのだ。普段はナンだが、絶対的に信頼出来る異能者だ。


 普段はナンだが。


 東灯台砲台では、艦隊の来襲を待ち構える。

 パルシェ艦以下三艦は、言うなれば撒き餌だ。

 生存者が確認できたら、救援に来ざるを得ない。


 そこを叩く。まるで海上の蟻地獄の様だ。






「連合王国海軍が動く。一個艦隊で灯台砲台の攻略か、テュネス海軍を木偶の坊と見たか」


 こちらはテュニス海上封鎖組だった、四個艦隊の内の一提督だ。ハラディン少将と云う。


「提督、総指揮官のバクスタール提督はテュニス防衛を指示されております」


「その通り、そして灯台砲台もテュニスである、だから防衛行動に問題は無い。日没が近い、動くなら今である」


「お待ちを、ならば、灯台砲台と連携をとりましょう。挟撃砲撃で敵艦隊を攻撃するのです」


 ハラディン少将の副官も武断派らしく、好戦的だ。そうと決まれば軍人に逡巡は無い。


 即座に各艦へ伝達だ、日没が近い、以降は灯火による通信になるが、誤認しやすい。


 行動を起こすなら今しかない。


 当然、この動きは、両陣営に丸見えだ。




「いよいよテュネス海軍が動くか、各員戦闘態勢!」


「不自然な、リール艦隊に釣られた?どう動く」


「みだりに動くな、ジャール総司令に伝達せよ」


「日没が近い、艦隊を動かすとは敵は素人か、各員戦闘準備!」


 両陣営共に投錨による停泊ではない、動くとなると即座に動ける。


 凪ではない、方向は安定していないが、常に北側から海風が艦隊を押す。


 ハラディン艦隊が、リール艦隊を灯台砲台と挟撃せんと動き始めた。


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