東灯台砲台防衛戦6
「足は止めたな。よく知らんが、舵周辺に浸水すると舵がよく効かなくなって、後に重心が傾いて最悪転覆するそうな」
と、そう“倒立カバ”が言っていた。
「アル技官。次の分離薬室には何詰める?」
ピエトだ、装填手の見習をしている。必要経験期間が足りないので装填手になるのはまだ先になるが、必要な試験には通過している。
何気にコロンボより優秀だ。ブブエロも読み書は達者なので、装填手試験には通っている。
「通常弾で、燃焼飛散弾だと、火薬に誘爆するからね、的が無くなる」
「おいアル、見ていて感を掴んだ、俺に撃たせろ」
「火薬量を通常に戻すから、仰角調整を忘れずに。先生、上の重火砲の様子を見てきて良いか?」
「順に各砲班をここに呼ぶけど、初めて見る重火砲だろうけど分かるのかい?」
「多分ね。あと、先生が一番感が良さげだから、軍曹とたまに代わると良い」
アルはそう言い残して砲台に向かう。記録をしているので、レオンもそれに続く。
ダッドが、奇声を上げ始めた。調子が戻って何よりだ。
「次弾装填!仰角上げ!」
「薬量が掴めんな、スペック表は……読めん、誰かアルニン語に訳を……」
「馬鹿!重火砲だぞ!そんな鞴で奥まで掃除出来るか!」
「いまいち砲の癖が分からん。お、アル技官ちょうど良い」
目敏くアルを見つけたのはマリウス軍曹だ。何やら軍曹だらけだが、ナザレの各砲台からの選抜砲手揃いだから仕方ない。
マリウスは姓だ、フルネームはルシオ.マリウス。
古代ロマヌスの四大一門名を姓としている。
帝政崩壊後、共和政体移行時に、
(かなりすったもんだした。最盛期はほぼ内海全域が帝政ロマヌスだ、現在のアルニン半島に国土が落ち着くまで、数世紀要した)
一門制度廃止令により、割りと多い人々が一門名を姓とした。同僚のバリウス軍曹も同様だ。
全くの余談だが、古代ロマヌスの主流一門が“バリウス”“マリウス”“アピウス”“クラディウス”の四大一門で、これはかなり大雑把な分類だ。
古代ロマヌス人は雑だ。確かにロマヌス発祥時より先祖代々受け継いだ一門も有る。分家、養家もあり血統的に継いだ一門名も有る。
ただ、基本勝手に名乗れるのだ。戸籍登録したら変更は出来ないが。後は代々受け継がれる。
解放奴隷が雇用主から記念に付けてもらった例もある。
だから、四大一門名を姓にしているからと言って、旧貴族だの名家とは限らない。
紛らわしいが、一門名は姓ではない。縁故によるグループ分け呼称が近い。
初代皇帝のバリウス帝で説明すると、彼はフルネームだと、ガリウス.バリウス.カイサルとなる。
ガリウスが個人名、カイサルが姓、バリウスが一門名と云う具合だ。
尤もカイサルの一門名は由緒正い物で、適当にでっち上げた物ではない。
大幅に話が反れた。
「ああ、マリさんその火砲やめた方が良い、砲身に抉れがある、一号が集っているから、破裂するかも」
マリウスだからマリさんだ。名前で呼んでやれ。
「そうなのか?いや、アーガイルの新型重火砲みたいに薬室分離じゃないから分からないな」
「隣のヤツなら大丈夫、試してみ」
レオンの班員のコートがレオンに駆け寄り報告する。
「隊長、弾薬庫を見つけました。開封の許可を」
現地調達出来るなら調達したい。幸い弾薬庫の鍵はすぐに見つかった。司令室に掛けてあった。
「許可する。輜重兵、いや、外から歩兵を借りて……いや、言葉が通じないか。やはり輜重兵を回して各砲班に配備してくれ」
灯台砲台上は、割かし呑気なものだ。ちょこちょこと、アルがアドバイスをして回ると、確かに命中率が上がる。
レオンは、いちいちそのアドバイスや、そのときのデータを記載していく。
戦場とは思えない、砲撃訓練より気さくで気楽な雰囲気だ。
的となったパルシェ准将以下連合王国海軍海兵は堪ったものじゃない。
砲撃の間隔や着弾着水地点がバラバラで、退避が容易でない。
既に三艦共に自力航行不能状態だ。
「救援信号!本体艦隊に救援要請を!」海軍士官の誰かが叫ぶ、その間にも砲弾の雨だ。
10砲班の砲撃で、砲弾の雨とは大袈裟な……とはならない。艦を航行不能にするため初手は新型砲弾だ。
重火砲用の拡散弾で、1000㍍位から砲弾が弾け始め鉄片が降り注ぐ。野戦砲弾と違い砲弾が対物仕様なので鉄片自体が大きい。
帆を破り、マストを抉り、外板を穿ち、海兵を戮す。
重火砲用二号拡散弾。効果は絶大だ、現在は文字通り、的当て練習だ。通常弾で砲撃感を養う。
パルシェ艦の水兵達は退艦が早かった為、比較的マシだ。
ベーリング艦、ガストン艦の水兵の被害は甚大で、両大佐共に消息不明だ。
初手に後部操舵を撃ち抜かれてから、10分と経過していない。
油断が有ったことは否めない。だが、砲台からの砲撃で、ここまで短時間で軍艦が航行不能になる事など、これまでの海戦に無かった事だ。
パルシェ准将は、ここ一月程の間に二度アルに撃沈された事になる。
救命艇にパルシェ以下水兵達がしがみつく、乗船すると転覆する恐れが有る、
我先に救命艇に乗り込もうとするからだ。
戦時パニックはむしろ軍人に起こるのだ。
一般人より、死が近いからか。
「なんて事だ……テュネスの砲兵は悪魔か死神か……」
パルシェが呟く、ただ、彼を二度にわたり海中に叩き込んだのは、悪魔でも死神でもない。
陽気なキチがいである。
2章完まであと10話となりました。カウントダウン開始です。




