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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
2章
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東灯台砲台防衛戦5

 “マークⅩ”は即座に移動される。12㍍もの巨大な架台だが、小回りが利く。


 地理的にも平地な為、訓練を積んだ軍人には手慣れたものだ。


 変則的になったが、砲台敷地外の薮が砲兵小隊の指揮所となる。即座に指示だ。


「各砲班単位で行動する!ダッド砲班を“マークⅩ”重火砲砲員として、アル技官のサポートとする。

 パルト砲班員は伝達要員、各砲班サポート要員として行動する。

 各砲班、砲台重火砲を点検し、最良と思える砲門を選択せよ」


「隊長殿!攻撃目標は何でしょうか」


 ダーレン曹長が尋ねる、沖の艦隊には備え付けの重火砲では届かない。


「無論、連合王国艦隊だ。新型砲弾の使用を許可する。

 そうだ、言い忘れていた。新型の軽量弾ならば、ここの旧重火砲でも砲弾は届く。ただ口径の規格が違うだろうから、砲門と新型砲弾のサイズに留意せよ」


「了解しました」


 砲弾は現地砲門使用の可能性を考えて、各国で大体流通しているサイズの物を用意してある。


「これは極秘伝達事項だが、本小隊の目的は連合王国の撃破に無い。

 各員の砲術向上及び“マークⅩ”重火砲の実戦試験が主目的である。

 アル技官の砲術は皆理解しているだろう、順に重火砲へ各砲班を呼ぶので、アル技官の指導を受ける様に」


「先生、ちょっと良いかい?」

 アルが口を挟む、いまさら誰も嗜めない。


「アル技官、都合が悪いのか?ならば指導の……」


「違う、違う。何かこっちに向かってきている艦がいるから、そいつを動けなくして、皆で的当て砲撃しよう」


 あっさりとエゲツ無い事を宣う。まあ、戦場だし。


「アル技官、そんな事が出来るのか?」


 何故、こちらに敵艦が向かって来ている事が分かるのか?の疑問が沸かない。“神の眼”だから分かるのだろう。で通ってしまうのだろう。


 “倒立カバの聖霊?”が憑いている事だし。


「何か、舵周辺を撃ち抜いて船の後側を浸水させれば良いんだとさ」


 下手にマスト周辺だと、火薬庫が有る。


「適当な距離で当てるから、後は皆で沈めて」


 簡単に言い切るが、実績から大口で無い事を皆承知だ。


「聞いての通りだ、アル技官の砲撃後、総員砲撃を開始せよ。

 連合王国艦隊が当方に注視しはじめたら、緩急をつけた砲撃で、射程距離を見誤らせろ、折を見てアル技官が敵艦を沈める」


『了解しました!』砲兵連中が応じる。


「各員作戦開始せよ!」

 ダッド砲班と、物資運搬用に輜重兵がこの場に残り、他砲班とパルト砲班員が砲台へ向かう。


 早い者勝ちだ、シルエットからあたりを付けた砲門へ各砲班が向かう。あまり古い型は遠慮したいのだ。


 砲台敷地内の点検を終えた歩兵には、そのまま砲台入口を固めてもらう。


「さて、開幕だ。3隻来ているね。通常弾で行けるな」


「ブブエロ、通常弾装填。ピエト、ラジオ、交換用の薬室を有るだけ用意。

 隊長、火砲火薬の封を解きます」


「おや、おや、軍曹、いつもの“早く早く”は無いのか」


「アル、これは実戦だ、戦場だぞ、真面目にやれ!真面目に殺れ!」


「根っこは変わってないのね、んじゃ遠慮無く。

 ブブさん火薬量は多目に、一割弱増し位。ピさん、三発は同じ通常弾だけど、四個目以降の薬室はまだ空にしておいて」


「軍曹とラジさんは“マークⅩ”の射撃角の移動調整を手伝ってくれ」


「なんデ火薬ヲ増すんダ?」


「撃ち抜きたいからね、余り仰角を取りたくない、だから砲弾推進力を大きくしたい」


 “マークⅩ”の調整が終わる頃には、各砲班砲門選定が終った様で、司令所に火薬と新型砲弾を取りに来た。輜重兵がそれを運搬助手する。


「さて、右端からいくか」


 ここからでは遮蔽物が無いので、目視で艦が確認出来る。


 向こうからは、薮が邪魔で余程注視しなければ分からない。


 距離はおよそ1500㍍、旧型の重火砲でも砲弾は届く距離だ。


 “マークⅩ”搭載重火砲ならば、余裕な距離だ。

 平坦な地形とは言え、流石に海面とは高低差がある。仰角はそれほどいらない。


 火薬量、火砲仰角、地角。

 距離は後で計測するとして、その他各種データはレオンが纏める。流石に手が無い。


 砲台から見下ろす形で、各砲班員がアルの挙動を注視する。


 砲撃準備は整った。後は“マークⅩ”の砲撃待ちだ。

 特に、アルに気負いは無い。何時もの如く、“はい軍曹、点火!”と言っただけだ。


 輸送艦で砲撃したときは、足場が無いので孫亀上での点火だが、通常砲撃だから、点火台を設置してある。


 ダッドがホイールロック式点火器で点火する。






「むっ?砲撃音?砲撃を受けている、副官!砲撃だ、被害状況を確認せよ!」


 パルシェ艦上だ、パルシェがいち早く灯台砲台からの攻撃に気がついた。


 いや、砲撃音を聞いた時には、既に着弾着水している訳だが、自艦に着弾した感は無い。


「自艦右手、ジャール艦隊のベーリング艦に着弾、被害状況は不明」


 パルシェ艦の僚艦として、ジャール艦隊から、ベーリング、ガストンの両大佐を借りて来ていた。いずれ部下になる人材だ。


 パルシェも自身望遠鏡で確認する。


「灯台砲台に砲手が居るだと、いかん、射程距離に入っている、まぐれ当たりだろうが、弾は届く」


 聞こえた砲撃音は一つ。ならば砲弾飛距離をあたる為の計測砲撃だ、ベーリング艦は不運だったが、お陰で灯台砲台が稼働している事が知れた。


「全艦散か……」


 パルシェが指示を飛ばす前に砲撃音が聞こえた。


 聞こえたと云う事は、


「自艦左、同、ジャール艦隊、ガストン艦に被弾。

 ん、ベーリング艦より通信……損害軽微、航行に多少の影響あり、以上」


「各艦通達、散開!まぐれ当たりがそうも続くか!……」


 パルシェが言いかけて、艦に震動が走る、砲弾が着弾した、いや、砲弾は艦を抜けた。


「馬鹿な!まぐれ当たりが三度だと!あり得ん!」


 砲撃音が響いた、自艦を撃ち抜いた砲撃のものだろう。


 直後、パルシェの背筋に悪寒が走った。

 一月前にも感じた物だ、パルシェは叫んだ。


「総員!即時退避!可能な者は退艦せよ!」


 次の瞬間、砲弾の雨が降り注いだ。()()()()が無かった事だけが救いだった。


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