004.帰り道
黒髪の少女改め、真夜ちゃんと初めてまともに話した日。帰りの会が終わり、帰ろうとした僕前に、
「ちょっと待ったーーーーーー!!」
と叫びながら真夜ちゃんが立ち塞がった。
「!!ど、如何したの!?」
凄くびっくりした。今のなおドキドキしている。僕が固まっていると、真夜ちゃんはニコリとした。そして、
「お家行こう。」
と言った。
「??」
「私のお家行こう!」
(え?え?え~~~!?)
真夜ちゃんは僕の手を握り歩き出そうとした。
「だ、駄目だよ!」
僕はそう言って真夜ちゃんを止めた。
「何で?」
真夜ちゃんは僕の方を向き首をかしげた。
「寄り道は駄目って先生が言ってったから!」
帰りの会でいつも先生は「寄り道しないで帰ってねぇ~。」と言って生徒を見送る。何回も聞いているから真夜ちゃんも分かっているはずだ。
「え?でもそれはお家の人が心配するからでしょ?瞬君のご両親暗くなるまで帰ってこ無いじゃん。」
「何で知ってるの!!?」
「ん?乙女ゲームで、だよ?」
真夜ちゃんは当然のことのように言った。
「帰ってこないなら、帰ってないこと分からないじゃん。と、言うわけでLet's Goー!!」
と言い、真夜ちゃんは僕の手を握り歩き出した。これって、〝連行〟と言うやつなのでは・・・・・・・・・・?
「あ!チョウチョだーーー!!待て待てーーーー!」
「ま、真夜ちゃーん!」
チョウチョを見つけて、僕と繋いだ手を離し走って追いかけに行ってしまった真夜ちゃんを僕は追いかけた。後もう少しで真夜ちゃんに追いつきそうになったとき、
ズコッ
真夜ちゃんがこけた。
「真夜ちゃん!」
「痛い・・・・・・・・・・。」
真夜ちゃんが涙目になってしゃがんでいる。
「大丈夫・・・・・・・・?」
真夜ちゃんは膝を擦りむいていた。
「うん・・・・・・・・。」
すると真夜ちゃんから、魔法師にしか感知ができない魔力の流れを感じた。真夜ちゃんはどうやら魔法師だったらしい。ちなみに僕も魔法師だ。
「・・・・・・!」
(治ってる・・・・・・・!)
魔力の流れが止まったとたん、真夜ちゃんの怪我が治っていた。正確には、血が止まり瘡蓋になっていた。
「何で治ってるの!?」
僕はとても驚いた。
「私の魔法だよー。私、細胞活性化魔法が使えるの~。」
「サイボウ?カッセイカ??」
また難しい言葉が出てきた。真夜ちゃんは立ち上がり歩き出した。
「細胞っていうのはねぇ、生き物肉体を構成する単位みたいなもの、かな。」
どうやら、歩きながら説明してくれる気らしい。
「生き物はたくさんの細胞が集まってできてるの。私達人間も細胞の塊。細胞がたくさん集まって、胃とか腸とか皮膚とかができて、それがまた集まって生き物になるんだよ。まぁ、細胞について詳しくは理科の授業でやるからそのときにちゃんと学習してね。
活性化って言うのはねぇ、働きを良くする、活発にするって感じかな。」
僕が訊けば真夜ちゃんは必ず教えてくれる。
「細胞活性化魔法は強化魔法とか治癒魔法みたいな細胞、身体に仕組み関する魔法を複数使える魔法なの。で、今使ったのが治癒魔法。怪我や病気を治す、治癒するためには細胞の働きが必要不可欠なんだよ。だから、魔力を使って細胞さんに頑張ってもらったの。自然に治るより早く治ってくれるようにね。ほら、怪我とか病気って時間がかかるけど自然と治るでしょ?それは自分の細胞さんがちゃんと働いてくれてるからなんだよ。」
「でも、何で瘡蓋なの?」
ちゃんと治せばいいじゃないか。できないのかな?
「う~ん、まぁ、普通はそう考えるよね。でも、細胞さんも怠け者さんなんだよ。魔法でばかり治してると『僕は必要ないんだ~』って働くなっちゃうの。だから、こまめに働かせなくちゃ自分の身体が弱い身体になっちゃうの。もし、細胞さんが怠け者の弱いからだの人が魔力切れの状態で大きな病気や怪我をしたらどうなると思う?」
えーと・・・・・・・・・・、魔力切れってことは魔法では治せないよね。で、真夜ちゃんの今までの話からすると細胞が働かないってことは自然には治らないから・・・・・・・・・・。
「人が魔法で治してくれない限り直らない!?」
「そう、正解。」
真夜ちゃんはニコリと笑いながら「良くできました」というように言った。ちょっと嬉しい。
「まぁ、瞬君の言うとおり、人が治癒魔法をかけてくれば治ることには治るけど、怪我や病気になるとき必ず自分の傍に治癒魔法が使える人がいると思う?」
いや、そんなことは無い。むしろ傍にいる例が稀だ。
「いなよね、普通。だから、身体が自然と治る機能って言うのはとても大切なんだよ。分かった?」
「うん。」
分かったけど、こんな難しいことを知ってる子と、子供らしくチョウチョを追いかけていた子が同一人物だということがとても不思議だった。
その後も、道端で会う日と会う人に真夜ちゃんは話しかけられていた。そのため、なかなか進まない。
「あ」
真夜ちゃんが前を歩いていた、両手にビニール袋を持ったお爺さんに駆け寄った。
「持ってあげる~。」
と真夜ちゃんは言い、おじいさんが持ってたビニール袋を自分が持った。
「お家で良い?」
お爺さんは頷いたと、真夜ちゃんに「ありがとう」と言った。
「ま、真夜ちゃん!」
「ほら、瞬君も持って。」
と言って、真夜ちゃんはおじいさんがもう片方の手に持っていたビニール袋を僕にもたせた。ビニール袋には食料品がたくさん入っていた。
「真夜ちゃん、知らない人に付いて行っちゃ駄目って先生が」
「?知らない人じゃないよ。今田のお爺ちゃんだよ。」
いや、今田って誰?
「町内会の会長さんだよ~。『もう年だから重い荷物を持つのが大変だからお手伝いしてあげなさい』ってお母さんが言ってたもん。だから悪いことじゃないもん!あとね、」
と言い、真夜ちゃんは僕の耳元に自分の口を寄せた。急に距離が近くなって思わずドキドキした。
「今田のお爺さん、お手伝いするとお菓子くれるの。」
と小声で言った。その後、普通の距離感に戻って、
「だから瞬君もお手伝い。ね!」
と笑顔で言った。僕はコクコクと頷いた。まだ、ドキドキの余韻が残っていてそうすることしかできなかった。
「今田のお爺さん、週末お孫さん達来るの?」
と真夜ちゃんがお爺さんに話しかけた。
「そうじゃよ。」
お爺さんは嬉しそうに答えた。
「そっかぁ。じゃあ、将棋は来週にするね。」
と真夜ちゃんは言った。
お爺さんの家まで荷物を運んだ後、真夜ちゃんの言っていた通りお爺さんはお菓子をくれた。
真夜ちゃんが言うには、今田のお爺さんは早くに奥さんを亡くして現在、1人寂しく暮らしているそうだ。その寂しさを紛らわすため、町内会長をし子供向けのイベントを積極的に企画ているらしい。そんなお爺さんの数少ない楽しみが1人息子が子供、孫と共に遊びに来ることなんだそうだ。孫が遊びに来る週は、それに備えて大量の食糧を買い込む。僕達はその食料運びを手伝ったらしい。そしてそういう時は、子供が好きそうなお菓子を一緒に買い込んでいるのでお手伝いするとおこぼれがもらえるんだとか。でも、お孫さん達は近くには住んでいないので来れてもせいぜい一月に1回が限界。やはり寂しさは埋まらないだろう。そこで真夜ちゃんが週に1回、将棋をしに遊びに行ってるそうだ。
「て、将棋!?打てるの!?」
「うん。前世では暇つぶしに打ってたからね。ただ、相手がコンピューターだけど。」
きた、前世。でも、こうやって普通の小学1年生が知らなさそうなことを知ってると最初は信じられなかったけど信憑性が増してくる。
「それに今田のお爺さんのためだけじゃないんだよ。私も人と打てて嬉しい。ずっと1人だったから。」
1人?真夜ちゃんが?前世がどうのよりよっぽど信じられない。
「元気な身体って、良いね。」
と真夜ちゃんは言った。何かあったんだろう。いつか話してくれるかな?
(や、やっとたどり着いたーーーー・・・・・・。)
長い長い帰り道だった。いや、距離はそこまで無いが時間が・・・・・・・・。
「ただいまー!!」
「お帰り、やーちゃん。あら、お友達?」
入学式のときに見た真夜ちゃんのお母さんが言う。
「うん。瞬君~。」
「そう。いらっしゃい、しゅーちゃん。」
しゅ、しゅーちゃん?って僕のこと??
「お、おじゃまします・・・・・・・・。」
「ゆっくりしていってね~。」
「ね~。」
あのー・・・・・・・・・、小学生が寄り道してることには全くつっこまないんですか?
「お母さん、お菓子と飲み物ちょーだい!」
〝ちょーだい〟の言い方が可愛い。赤の他人ですら思わずあげたくなってしまうくらい。
お母さんがお菓子と飲み物を用意してる間、
「瞬君瞬君!」
「何?真夜ちゃん。」
真夜ちゃんはベビーベットの傍にいた。呼ばれたので僕もそちらに行く。
「瞬君、マコちゃん。」
真夜ちゃんが指差したのはベビーベットで眠っていた赤ちゃん。
「真琴、だからマコちゃん!」
と言うと、真夜ちゃんはマコ君(と呼ぶことにしよう)の方を向き、
「マコちゃーん。真夜だよー。お姉ちゃん、帰ってきたよー。真夜だよー。真夜だよー。」
(いつまで言い続けるんだろう・・・・・・・・?)
「・・・・・・・・うぅ~。今日も駄目かぁ・・・・・・・・。」
「何が駄目なの?」
「あのねぇ、マコちゃんにお名前呼んでほしいのー。」
「へ?」
「マコちゃんが初めにしゃべる言葉、『まや』が良いのー。」
「??」
「本当は『お姉ちゃん』が良いけど、言いにくいと思うから『まや』なのー。『ま』も『や』もア行だか発音しやすいかなぁ、って。」
うん、確かに。
「お姉ちゃんは『ママ』だったから、マコちゃんくらい良いでしょ?」
「ちなみに真夜ちゃんは・・・・・・・・?」
「おやつー!」
本当!?食い意地張りすぎだよ!!