最初の一晩は無料(全書完)
旧風笛へ戻ったとき、雨はまだ降っていなかった。
宿も崩れていない。
どちらも祝うに足りる。
十年後の旧風笛は、まだ三階だ。
左側の塔は直してある。林檎の木だけは、窓を貫く枝を残した。ガルドは荷重を壊すと言った。僕は木のために窓を二枚開け、彼は異形窓枠代をもう一筆取った。
門口の木札は四度替わっている。
今はこう書いてある。
|旧風笛旅館。|
下にフィアが足した小さな字がある。
|風路の起点の一つ。風向は保証しない。|
「なぜ保証しない」と聞く。
「苦情を避けるため」
「風路総責任者も苦情が怖いのか」
「だから怖さがわかる」
扉を押して入る。
銅の鈴が一度鳴った。
カウンター裏の若い当直が顔を上げ、僕を見て、先に登記表を出す。
「店主、おかえりなさい。何晩泊まりますか」
「ここに住んでいる」
「規則では、全員が登記します。共同経営者もです」
セインの悪い癖が、宿まで浸透している。
十年と書いた。
当直が一目見る。
「長期宿泊は最長一年です」
「なら一年だ」
フィアが隣で、わかりやすく笑っている。
彼女も一年と書いた。
部屋は三階の星見部屋のままだ。
十年前、戻ったらまだ自分のものかと聞いた。今、部屋札には二つの名がある。部屋の半分は観測紙、半分は僕の古い帳簿、中央の机はどちらも完全には占めていない。
枕元に灯が二つある。
一つは普通の油灯、一つは登記済みの分火だ。
分火が出すのは安全、方角、救援だけだ。湯を代わりに温めてはくれない。フィアはそれを忘れ、蛇口をひねってもしばらく湯が出なかった。
「ボイラーが壊れた?」と彼女が叫ぶ。
階下から返事が来る。
「竜運隊の燃料が今日は遅れています。湯は三十分遅れます!」
「ベリーに苦情を言う」
「総隊長だぞ」
「総隊長こそ苦情を言う」
宿の夕食は七時だ。
祝勝の宴ではない。
厨房は月豆スープ、焼き餅、牛肉の煮込みを作った。献立は最初の日、壁に残っていた黴びた紙とだいたい同じだ。今は字がはっきりし、値段もある。
ボニーは引退したあと、週に二度まだ来る。
いちばん厨房に近い席に座り、新しい菓子職人が木苺パイを切るのを監督する。ベリーは院の外に伏せ、広げた窓から頭を入れ、客が全員分け終わってから自分の一切れを得る。
ブルームは別の窓で紅茶を飲んでいる。
杯の収集が増えすぎ、竜谷に小さな館を一軒開いた。
ジェリーは、まだ井戸に住んでいる。
公衆衛生局は正式制服を三度渡した。全部食べられた。今は小さな帽子だけを被り、卓の下を回り、月末の硬貨吐きを待っている。
アランは宿賃表の隣に掛かっている。
剣身の十二色紋は落ち着き、僕が握らなくても封じられた道路は見える。毎日いちばん大きな仕事は、濡れた外套で鞘に触るなと客へ注意することだ。
「吾は十二城の手で再鍛され、黒日の総路を斬った伝説の開路剣——」
新しい客が顔を上げる。
「登記名は何と書けばいい」
「グランセル・オルヴィア・フォン・カス<PRIVATE_ADDRESS>」
「欄が足りない」
「アランと書け」と僕は言った。
「十年だぞ。もう少し大きい登記表に替えてもいいだろう!」
夕食後、フィアと一緒に巡房する。
彼女は屋根と風窓を見る。
僕は鍵、湯、荷物、宿泊客の苦情を見る。
二階で誰かが隣の唱歌煉瓦をうるさいと言う。あの煉瓦は第一窯の古物で、夜中に湿気を受けるとガルドの鼾を真似る。壁から外し、明日、遮音煉瓦に替えると約束した。
三階で子供が毛糸の鳥を一羽なくした。
以前なら帰途の感知を使った。
今はフィアとベッドの下に十分這い、最後はジェリーが清掃車から吐き出した。
「なぜ何でも食べるの」とフィアが聞く。
「本当に止められる者がいないからだ」
「公衆衛生局の責任者じゃないの」
「だからなおさら、誰も止めない」
廊下の先、窓の外でようやく雨が降り始める。
雨粒は先に黒日の外殻で作った駅屋根へ落ち、遠く低い太鼓が聞こえる。次いで風が南斜面の田、十二城の魔導車線、最初の白石小径を越え、旧風笛の屋根へぶつかった。
窓は飛ばない。
ガルドの修繕は高い。確かに頑丈だ。
広間へ戻る。
夜勤の当直が交代しようとする。先に帰れ、と言う。十年巡礼の最初の夜、カウンターは共同経営者二人が守る。過度な残業とまでは言えない。
「明朝、何椀だ」と聞く。
フィアが登記冊を開く。
「宿泊客六十二、従業員十三、臨時救援ベッドを十残す。ベリーは半椀」
庭の外から抗議が来る。
「聞こえた!」
「彼女は三椀」フィアが言い直す。
「合計は」
「八十八」
「八十五だ」
「先に結論を出して、あとで計算を補う」
彼女が筆で数え直す。
僕は杯を一つ拭き、カウンターの部屋札を番号どおりに並べる。
この癖は、ずっと直っていない。
大陸がこれで永遠に平和になったわけではない。
石梯堡と帝国東部は軌道費用で争い、赤盾公国は司法文書の統一を拒み、銅湾は今年また河路委員会からの離脱を匂わせている。道路共同体は毎月、成員が増え、出ていく者もいる。
オードランの公開裁判は三年続いた。
終身監禁となり、軍と道路権は二度と持たない。彼は僕を認めず、誰かの仲間にもならなかった。帝国各地は連邦を残したところ、独立したところ、あとでまた結び直したところがある。
世界は、面倒なままだ。
だから宿には、まだ仕事がある。
遠出する者が全員、永遠の家を見つけると保証はできない。
扉が開いたとき、乾いた手拭い一枚、熱いスープ一杯を先に渡し、宿賃と退店の路を説明することだけはできる。
フィアが明朝の椀数を数え終え、登記冊を押しよせる。
「八十五。ベリーの三椀は入っている」
「在庫は」
「月豆は九日、粉は六日、酸果は半月」
「いい」
「大陸全体は聞かないの」
「聞かない」
「本当に辞職したみたいだ」
雷が荒野から転がってくる。
風が外窓を半枚、突然押し開く。
アランが壁で叫ぶ。
「敵襲!」
「ただの豪雨だ」
「豪雨も柄に触る!」
フィアが窓を閉めに行く。
乾いた手拭いを二枚取り、門辺の無料急宿札を確認する。札は十年使い、角が少し巻いている。規則はまだはっきりしている。
本当に困っている人は、最初の一晩を無料にできる。
二晩目からは部屋代を払う、当番をする、公共受け入れを申請する。
誰でも出ていける。
そのとき、外でノックがした。
弱い。
すぐ、二度目が来る。
風除けの椅子をずらす。
門外に灰耳族はいない。
豪雨の中に、見たことのない旅人たちが立っていた。
透明な鰭のような耳を持ち、滴る長い外套を着て、後ろでは貝殻、道具、濡れた布団を積んだ車を引いている。先頭の者が熱のある子供を抱き、緊張して広間を見た。
フィアがそばに立ち、乾いた手拭いを渡す。
見知らぬ旅人が、雨の向こうから聞く。
「すみません……こちら、まだ旅人を泊めていますか」
扉をいっぱいに開けた。
「泊まれる」
「最初の一晩は、無料だ」




