王都でいちばん高い便所
僕がはじめて王都へ入ったとき、儀礼官十二名が城門で待っていた。
二人は授爵用の赤絨の外套を捧げ、四人は銀縁の礼冠を担ぎ、残り六人はいつ跪くかを教える係だった。
僕は三車の荷物を持っていた。
一車目は旧王道の崩落図。
二車目は晴風千七百六十二戸の増築申請。
三車目は公衆便所の排水管。
儀礼官は泥のついた陶管を長く見つめた。
「天野陸閣下、摂政院は今回のご入京を、北境七盟のための正式な爵位請求と理解しております」
「違う」
「では封地の請求か」
「それも違う」
僕は車から筒にした図面を抜いた。
「北門外の旧王道は七区間、路盤が沈下している。晴風と北境七盟がともに覆うのは一万二千人超だ。雨季までに架空屋を少なくとも六百直せ。王都から青麦鎮までの駅亭の便所は、穴が一つしかない」
儀礼官の顔から、少しずつ表情が消えた。
アランが腰で小さく言った。
「同情し始めた」
「昨夜は駅亭の便所が剣架に近すぎると嫌ったくせに」
「同情は、妥当な意見を出す妨げにはならん」
唱名の役人が咳をした。
「それらの件は、ご受封のあと属官にお任せいただけます」
「予算も属官が出すのか」
「……お入りください」
王都の城壁は牛車三輛が並んで走れる。門内の道は一輛も動けないほど詰まっていた。
貴族の馬車が中央を行き、野菜車が壁に沿い、水を担ぐ者が車輪のあいだを抜ける。両側は五階建ての白石楼で、上階には天使が彫られ、下の排水溝には菜葉が漂う。
フィアが長く空を見た。
「ここの風は乱れている」
「人も乱れている」セインが通行文書を胸に守る。「列を離れるな。特に飛ぶな」
「いつ街なかで乱飛した」
僕らは揃って彼女を見た。
「わかった。あの屋根はもともと脆かった」
車隊は白鐘街で三十分止まった。
前方の糞車が軸を折り、汚水が石の隙間を低い方へ流れる。二軒の店主がそれぞれ板で自家の扉を塞ぎ、結果として水を隣の地下住屋へ全部押し出した。
中の者が濡れた敷布団を提げて飛び出してくる。
「陶管を持ってきた理由だ」と僕は言った。
セインがため息をつく。
「摂政院は、糞水で最初の陳述を始めるのを好みません」
「彼らの広間は上り坂にある。好まないのは当然だ」
摂政院は王宮の東側にある。
床は黒曜石の一枚張り、柱は旧風笛亭の塔より太い。摂政九名が半円の高台に座り、真ん中に空の王座がある。
老王は三年病んでいる。
セインの説明によれば、摂政院は本来半年の国政を代行し、その後王国議会が権限を再確認する。
その「半年」は四度過ぎていた。
首席摂政メルヴィン公爵は、とても穏やかに見えた。
部屋代の後ろに清掃費を七項足す旅館の店主のような穏やかさだ。
「天野陸管理人、北境七盟は王国の授権なく連合軍を立てた。それでもあなたを派遣したのは、王国への忠誠の証でしょう」
「道路申請を出しに来た」
第一巻の図面を卓に置く。
「旧王道北段は王国管理だ。昨年の会戦で橋を三座潰し、今年の春も二区間崩れた。晴風は人手を出せる。王都は石材と運賃の半分を出せ」
摂政の一人が眉を寄せる。
「軍の話をしている」
「軍も橋を渡る」
第二巻を置く。
「七盟病院は毎月、王国の負傷者を四百受けている。今の病棟では足りず、増築が要る。王都が滞納している治療費は金貨百九十三。晴風商隊が負う入城税を差し引き、まだ百七十一足りない」
「それは財政庁の件だ」
「財政庁は、摂政院が資金を凍結したと言った」
第三巻を置く。
陶管が黒曜石の卓面を半周転がる。
九名の摂政が同時に後ろへ凭れた。
「王都南区の公衆衛生改修だ。南区八千人に対し、公衆便所は三座。うち一座の扉は女浴室に開いている。ガルドは直せるが、王都が排水旧図を開かねばならない」
メルヴィン公爵が僕を見る。
「権力の中心まで遠路来て、それだけを話したいのか」
「宿泊もある」
僕は請求書を出した。
「大使館が十二室用意したが、実際に住めるのは七室だ。フィアが昨夜カーテンを引いたとき、壁が一塊落ちた」
「指二本しか使っていない」フィアがすぐ補う。
「だから部屋替えを求める。あるいは旧風笛亭の雨季料金で六割引」
高台の右側で誰かが一度笑い、すぐこらえた。
メルヴィンは笑わなかった。
「天野陸管理人、爵位があればこれらの問題は解きやすくなる。徴税権、徴兵権を持ち、それらの異族を代表して永久帰属契約に署名できる」
「住民には自分の手がある」
「何だ」
「自分の名は自分で書ける。書けない者も手印は押せる」
広間がしばらく静まった。
彼らを失望させたのはわかっていた。
用意されていたのは領土と忠誠の交渉だ。僕が持ってきたのは詰まった排水管だった。だが地下屋に住む者にとって、今夜床下へ流れる汚水の方が、誰が高台に座っているかより政治らしい。
メルヴィンはついに道路予算を開いた。
「王国はこれらの費用を負える」
後ろのセインが紙をめくる手を止めた。
条件が易しすぎるときは、たいてい値段が次の頁にある。
案の定、公爵が目を上げた。
「晴風が、もともと王国の財産である一つを返すだけでいい」
教団祭司二人が側門を押す。
空の黒鉄炉架を担ぎ入れ、炉口には外へ放射する印が十二道焼いてある。
先頭の老人は白地金紋の長袍を着、指には炉形の指輪が六つ嵌まっていた。
空の王座にまず礼をし、それから僕を見た。
「炉印教宗ヘルマーだ」
彼は言った。
「晴風が不法に占有する帰巣炉は、即刻消し、王都へ引き渡せ」




