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八十二話 朝の一幕

次回の投稿は、10/1(火)を予定しています。

 ただいまの時刻は八時半。

 

 三十分程度軽く流して戻ってこようか。

 クラウトリーさんも、早めに受付をするように言ってくれるってことだったし。


 学園の外周を回ればだいたい三十分ぐらいで戻れるかな?


 そう思っていたら、学園の外周は、ほとんど立ち入り禁止となっていて、さらに外周を走ることとなった。


 どういうことだ……?

 


 しばらく走ってみてるけど、学園付近はお散歩コースにでもなっているのかというくらいウォーカーが沢山いる。

 お散歩する人をウォーカーって言うのかは知らんけど。


「おはようございます!」


「あら、おはよう。朝から元気ねぇ」


 こんな会話を何回したことやら。

 他の街に比べて人口が多いのも納得、さすが王都だ。


 今日は、筆記試験のみだし、スキルの訓練もかねて、やるか。


 身体強化っ!


 うんうん、最近、身体強化の親和性が上がったからなのか、体の中を巡る()()がより実感できるようになった。

 

 ソラスオーダーを作った時に、コア研究者のトルフェムさんが言っていた血液の中にコアの成分がどーのこーのって言う話も、案外本当の話なのかもしれん。


 ここから部位強化へ切り替えると、全身を流れる……そうだな、スキルの素みたいなものが一部に集まっていく、それも一瞬で。

 集まったところは、ほんのり暖かくなってすぐに落ち着く。


 不思議な感覚ではあるけれど、スキルを使えている実感があって安心するよ。


 さ、お次は目の部位強化。

 王都の人々は何オーラかな……?


 黄、黄、黄、黄、黄……。

 おお、見事に黄色ばっかり、これが普通ではあるな。


 黄、黄、黄、黄、黄、黄…………橙、黄。

 

 橙か。


 うーん、子供だねえ、俺より少し幼い感じだ。

 なんでまた、こんな子供が橙なんて人間不信みたいなことになってんだ?


 身なりもボロボロで、布みたいな帽子っぽい物を被っている。

 着ているものすべてが汚れている感じだな、親もいなさそうだ。

 路地裏みたいなところで数人の橙オーラが肩を寄せ合っている……。

 

 うーん、周りの人は無関心という感じだけど、ありふれている光景なのか?


 王都なのに?


 孤児院とか無いんかね、助ける義理もないし、ここにいるくらいだからもっとたくさんいるだろう。

 関わらない方がいいのかもしれんが、見て見ぬふりは寝覚めが悪い。


 ……仕方がない、ここは善人ぶってみるか。


 ちょうど、向かいの通りに焼き始めたばっかりの肉串屋さんがあったので、自分の分も含めて買った。

 

 四人いたよな?

 二本ずつで八本、俺の分二本を合わせて十本……はぁ、なんでこんなことを。

 一応、何があってもいいように、身体強化へ切り替えておこう。



「おーい、君たち。お腹空いていないかい?」


 できるだけ優しめにコンタクトを取ってみた。


「……なに?」


 この中のリーダーっぽい男の子が返事をして、他の子は黙ってこっちを……いや、肉串を見ている。


「あのさ、ちょっと肉串を買い過ぎちゃって、余りそうだから一緒にどうかな? と思って」

 

「ぼくたち、お金、無い」


 よく見ると、四人中二人が恐らくビスト……つまり獣人さんだ。

 

 ちょっと強引だったか?

 

 いきなり食べ物をあげるよなんて言うと、警戒するよな。

 こんな時は、できるだけ簡単な対価を求めたら乗っかりやすいだろう。


「お金はいらないよ。僕は王都に来たばかりで、いろいろ知りたいんだ。君たちは、ここで何をしているの? それを教えてくれたらこの肉串をあげよう」


「えっ? そんなことで、いいの?」


「いいよ。四人で何してんの?」


「ここに、座っていたら、たまにご飯がもらえる……」


 その、()()()が俺で、ご飯がもらえる話を聞いて、ご飯をあげるという……なんのこっちゃ。

 

 そういう事だったのか。


「なるほどね。それじゃあ、君が言った通りご飯をあげよう! 一人二本ずつだ」


 ムシャ、ムシャ


 モグ、モグ


 相当お腹が空いていたのか、無言で一心不乱に肉串をモグモグやっている。

 無邪気に食べている子供は人種に関わらず可愛いもんだ。

 

 人族の子供と思っていた二人も、牙のようなものが生えているようなので、見た目が人に近い獣人さんかもな。

 

 俺も一緒になって二本をぺろりと平らげた。


「美味かったかー?」


「「うんっ!」」


「そりゃ、よかった」


「兄ちゃん、どこから来たのー?」


「僕は、ずっと南の方から来たよ。君たちは、ビストなのかな?」


「……」


 あ、聞いちゃまずかったか……。


「ごめん、ごめん。無理して答えなくてもいいんだよ?」


「……兄ちゃん、いじめ、しない?」


 うーん、こんな子供まで差別を受けているんだな……。

 ここは、目線を合わせてっと。


「ん? ああ、そんなことはしないさ。僕は、子供に優しいんだぞ?」


「……僕たち、四人、ビスト」


 ほう、見た目は人っぽい子が二人か。


「そっか。親は何しているんだ?」


「父さんは、山。母さんは、川に行った」


 えっ?

 まさか、そこの三人は、犬、猿、雉で……鬼退治に行くとかじゃないよね?


「桃から……いや、帰る家はあるの?」


「壁のところにあるけど、誰もいないから……。母さんが、明日、洗うお仕事から帰ってくる」


 壁が家? 洗う仕事?

 よく分からんな……。


 詳しく聞きたいところだが、こんな事をしている暇もない。

 

「いろいろ教えてくれて、ありがとうな。知らない人に、着いて行っちゃだめだぞ」


「うん、父さんにも、言われてる」


「じゃ、そろそろ僕は行くよ。では……」


「あ、待って! 名前、聞きたい」


「ああ、僕の名前はイロハだよ」


「ぼくは、コロ。こっちが、リス。あと、ナボとレアが兄妹なんだ」


 コロ君とナボ君が男の子で、リスちゃんとレアちゃんが女の子ね。

 ナボ君、レアちゃんが兄妹っと。


「分かった。コロ君、リスちゃん、ナボ君、レアちゃん、またね。上手くいけば、今後も王都にいると思うから、今度はご飯でも食べにいこっか」


「うんっ! またね」


「はいっ!」


「……ぅ」


「……肉、美味しかった」


 コロ君、リスちゃん、ナボ君、レアちゃんの順に、息がぴったりだ。

 ナボ君は、たぶん人見知りだな、小さい声で「ありがとう」って聞こえたよ。

 身体強化中なんで、若干耳が良くなっているんだよね。

 

 さて、思わぬところで時間を食ってしまったが、このまま外外周走を続けるか。

 もし、遅くなったとしても、受付が十時からってことだし、お昼くらいまではやっているだろう。



 残すところ四分の一付近まで、特に変わった事も無く心地よいランニングが出来た。

 

 そう、思っていたんだが……あれは、あの二人だよな?


 なんか、また揉めているよ。

 そーっと見つからないように近づいてみた。

 

 ……物陰に隠れて、聴力強化。

 


「……ルキノ様になんてことをしてくれたんだ!」


「申し訳ありません……」


「謝ったところで何も解決しないだろうがっ! どうしてくれるんだ! 今日は、モルキノ様の晴れ舞台なんだぞ!」


「はい……申し訳ありません」


 何やら、さっきのモルキノとかいうお坊ちゃんと付き人が、母子と揉めている様子。

 見たところ、三、四歳くらいの男の子と、地味な服装の母親のようだ。


 どうでもいいけど、この付き人、チンピラみたいだな……。


「服は、洗ってお返ししますので、どうか許していただけないでしょうか?」


「今すぐ必要なんだ! モルキノ様、どうしますか?」


「そうだな、服の代金を弁償してもらおうか」


「そ、そんな……」


 なるほど、状況的に、あの母子が何らかの形で、モルキノって奴の服を汚したっていうところか。


「この服は、今日のための特注品だ。君に払えるかね?」


「いえ……生活が苦しくて、お金を払うことが出来ません……どうかお許しを……」


「そうは言ってもな、君の子供が私の服を汚したんだぞ? 子の責任は親がとるべきだろう、違うか?」


「そうだ! モルキノ様の言うとおりだ。早く弁償するんだ!」


 うーん、汚れと言うが、ここからじゃ特に汚れた風には見えないが……。

 

「この始末、どうつけるんだ? 平民」


 平民って……やっぱり、モルキノはどっかのお坊ちゃんか?


 王国では、一等民以上の人たちを上等民や上流民というのに比べて、二等民以下を平民や下民などと呼ぶ習慣がある。

 差別用語とまでは行かないが、平民と呼ぶ以上それより上に位置する人間ってことだ。


「申し訳ありません。本当にすみませんでした……お許しください」


 周りにも人が集まってきたようだが、誰も助けようとはしないんだな。

 余計なことをして、自分に矛先が向くのを良しとしないってのは分かるが……。


 俺の周りの数名は、明らかに「かわいそうだ」とか「横暴だ」とかを小声で言っている人がいる。

 その人たちにご相談をし、ちょいと仕掛け人になってもらうことにした。


「あの、僕が話をつけてきますので、ゴニョゴニョ…………」

 

 きっと、表立って助けられない罪悪感なんかもあるんだろう、喜んで協力すると言ってくれた。

 

 ふぅ、朝からトラブルが多すぎるよ、まったく。

 


 さてと……。

読んでいただきありがとうございます。

感想や誤字報告などありましたら、遠慮なくお知らせください。


投稿頻度や時間帯等は、活動報告にてお知らせしております。

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