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八十一話 早起きは十両の損

次回は、9/29(日)0時~1時に投稿予定です。

 顔を上げで声のする方を見ると、二人組の男の子がこちらへ近づいてくる。

 同い年くらいで、片方は短髪で身なりの良さそうな服を着ている。

 もう一方は目立たない服装で、坊主に近いスポーツ刈りみたいな髪型。


「ええ、学園の試験を受けに来ました。少々早く着いてしまいましたが……」


「早くだと……? おい、ナシム。これは、どういうことだ?」


「はい、モルキノ様。試験の受付時間が、変更になっているのかもしれません」


「そうか……。七時からと聞いていたが、門も開いておらん。君、早く着いたと言っていたが、試験は何時からの受付だ?」


 身なりの良いほうがモルキノで、坊主っぽいのがナシムね。


 このモルキノって人、どっかのお坊ちゃまか?

 どうも、隣のナシムって子は付き人みたいな扱いと見受けられる。


「この近くに住む人に聞いたら、受付は十時からだそうですよ?」


「な……まだ二時間以上もあるじゃないか! 話にならん、一度、戻るぞ」


「は、はい、モルキノ様」


 戻るって……どこへ?

 それに、俺が嘘をついているとか思わないんかな……。

 あーもう、実は十時じゃなかったりしたら責任取らされるのも嫌だし。


「あの、僕は人に聞いただけですので、戻られるなら、ご自分で確認したほうが良いと思いますよ? 正確な情報かは分からないからここにいるわけですし……」


「……私に、ここで待てとでも言っているのか? 君は」


 なんなんだ、コイツは。

 さっきから、面倒な奴ばっかりやんけ。


「いえ、戻るのは、どうぞご勝手に。僕が言った受付が十時というのは、聞いた話であって責任は持てませんよ、と言っているんです」


「……お前! モルキノ様に失礼だぞっ! 適当な時間を言って騙すつもりだったのか!」


 なんだよ……こっちも面倒な奴や。


「すみませんでした。僕が言ったことはすべて忘れて下さい。余計なことをしました。僕は、あなた達に会っていない。そして、僕に話しかけていない。では、そういう事で」


「……なんだとっ! 私を馬鹿にしているのかっ!」


 吠える、吠える……。

 口調から、どっかのお偉いさんの息子っぽいが。


「……」


「…………えっ? ウチ?」


 ここで、勉強に集中していたテリアが参戦。

 俺が黙っていたから、自分に言われていると勘違い……もう、勘弁してくれ。


「いや、テリアは黙ってて。話がややこしくなる」


「なによ、その扱いは……あれっ? なんか揉めてる?」


 絡まんでくれ、頼む。

 もう、みんな好き勝手に言って、ゴチャついてる……はぁ。


「えー、テリアは、勉強を続けて。それから、そちらの二人! もう、こっちに関わらないで下さい。馬鹿にしているんじゃなくて、拒絶しているんです」


「……っく、もういいっ! 行くぞ、ナシム」

 

「はいっ、モルキノ様!」

 


 お坊ちゃまとその子分は、慌ただしく去っていった……。

 

 まったく、不可抗力とはいえ、早起きは三文の徳と言うが、こんな面倒くさい者たちと出会うなんて、損しかしていないじゃん。


「ねえ、イロハ。さっきの人たちって、誰?」


「僕は、知らない人だね。どっかのお坊ちゃんじゃないの? 付き人みたいなもん引き連れて偉そうだったし」


「ふーん、なんか怒っていたけど、大丈夫?」


「さあ? 勝手に話しかけてきて、親切にしようと返したら勝手に怒っちゃったよ……誰かさんみたいに」


「もう、ウチは謝ったじゃん。一緒にしないでよ!」


 そう言って背中に平手でバンバン……地味に痛いです。


「あ、冗談、冗談。でもさ、ここの受付時間ってちゃんと分かるようになっていないのも問題だよな? もうすでに三人以上が被害に遭っているぞ」


「ウチは、何年か前の試験対策に、受付は朝の七時って書いてあったからなー。それを見て、ここに来たって感じ」


「さっきの奴らもその口だろう。ということは、王都の人間じゃないってことだね。どっかの領主の息子だったりして……」

 

「げ……そりゃマズいよ。スレイニアス学園は、上等民の人たちも結構いるらしいから、失礼の無いようにしなきゃ」


 おいおい、それを君が言うんか?

 散々、俺に失礼を働いてからに……。


「しかし、もう追い払っちゃったしな……えー、君も共犯、ねっ」


「ちょっとー! ウチは何も言ってないじゃん! 試験勉強していただけなのにぃ……」


「僕に言ってもねぇ。それを決めるのは、あちらさんなんじゃないの?」


「うぅ……ちゃんと責任取んなさいよね!」


 嫌なこった、ここにいた君が悪い。


「大げさな、あのくらいじゃそんなに大事にはならないよ、たぶん」


「そうかなぁ……なんかすごく怒っていたように見えたけど。王都について早々にこんなことに巻き込まれて、災難だわ……」


 コイツ、自分がトラブルメイカーってこと分かっていないんか?

 

 確かに、今回は俺がまいた種かもしれんが、テリアは早々に問題を起こすタイプに見えるぞ。


「僕なんか、ここに来て出会った子供すべてに絡まれているよ……災難どころじゃない」


「えー? なんか言った―? 聞こえなーい」


 こんのクソガキめ……!

 ムカつく顔をしやがってからに……まぁ、こんなの相手にするだけ損だな、はぁ。

 

 あれ?

 正門の前に人影が……職員か?

 

「テリア、あそこにいる人って学園の関係者じゃないか?」


「どこ、どこ?」


 わざとか?

 明後日の方向を見ながらキョロキョロしている……。


「そこ、門の前だよ! なんで反対側向いてんのさ」


「あ、そっち? ほんとだ。誰かいるね」


「ちょっと行ってくる!」


「ま、待って! ウチも行くー!」


 そうは言うものの、私物を広げまくっているから、片付けに手間取っている様子。

 待っていたら、職員らしき人は行ってしまう……。

 テリアには悪いが俺が先に行って話しかけるしかない。


「モタモタしていたら、中に入っちゃうじゃないか。テリアは、その散乱している勉強道具を片付けてから来るんだな。ではっ!」


「あー! 手伝ってくれても……」


 後ろから泣き言が聞こえるが、そこまでお人好しではないし、悪いが()を優先させてもらう。



「はぁ、はぁ……おはようございます。あなたは、学園の関係者さんですか?」


「……そうだが? 君は、学園の生徒か?」


 怪しい者を見る目で問われた。

 見たところ四、五十代で、若干白髪交じりのスラッとした男性だ。


「いえ、試験を受けにきた者です」


「なるほど。しかし、試験の受付は十時だぞ? 随分と早いじゃないか」


「その、近年の受付時間を知らなくて、以前の資料に載っていた時間で来てしまいました」


「近年って……もしかして、七時頃からここにいるのか? もう八時だぞ」


「はい……正確な時間が分からず、ずっと待っていました」


「ふーむ。失礼だが、君は、事前申請をしなかったのかい?」


「えっと、事前申請ですか……? 試験は事前申請をしないと受けられないのでしょうか……?」


「いや、試験は、当日の受付に間に合えば受けることができる。前もって事前申請をしておくと、その年の大まかな試験内容や時間などが案内されるはずなのだが……」


 なにー!

 そんなものがあるなんて、聞いてないよ。

 ネイブ領の資料にも無かった……まあ、十年前の資料だしね。


「そ、そうなんですね。そういうものがあることを知らなかったもので……」


「君は、どこの領から来たんだい? まさか他国からってことも無いだろうし」


「ネ、ネイブ領の田舎の村から来ました」


「ネイブ領……そりゃまた、遠いところから来たんだな。資料も少ないだろうによく試験を受ける気になったものだ。まあ、せいぜい頑張ってくれたまえ」


 ネイブ領って言った途端、険しい顔というか蔑むような目で見つめられた。

 

 ふーん、差別的な感じの人だなあ。

 田舎者は、試験を受けるなってか?


「……そんなにおかしいですかね? 遠いところから来て試験を受けるってことが」


「あ、そういう意味ではなくてだな……地方となると、騎士学校と比べて情報があまり無いだろう? だから、試験に来る者も少ないんだよ。ネイブ出身の生徒もいるだろうが、ほとんどが元から王都住まいだと言うし、受けるだけと言うなら別だが……」


 あー、記念受験と思われていたのか。


「遠方が不利なことは分かっています。自分では、学力も伴っていると思い、試験に挑むつもりです。もしかして、遠方出身を理由に合格させない……なんてことは無いんでしょう?」


 記念受験ではないんだぞ、と。


「も、もちろん。学園は、そんなことはしない。私の発言で君を不快にさせたのなら謝るよ、すまないね。私は、この学園でとある指導をしているクラウトリーという者だ。内容は、学園の者にしか明かせないので言えないがね」


 ほう、ちょっと態度が変わったかな?

 クラウトリーさんね、なんの指導者だろうか。


「僕は、イロハと言います。合格した時は、よろしくお願いします、クラウトリーさん」


 ……!


「ウ、ウチは、テリアーナです! 絶対に合格するので、待ってて下さい、先生!」


 どっから湧いてきた、テリアよ。

 そして、先生って言葉が好きだなあ、君は。


「あ、ああ。二人も早く着いてしまったのか。学園の門にも日時の案内板か必要だな……いや、それよりも…………。あ、すまない。イロハ君にテリアーナ君だったね、それでどうするんだ、このままここで待つのかい?」


 なんだか、ブツブツ言っている、大丈夫か?


「そうですね、戻るにしても、微妙な時間ですし……」


「ウチは、ここで勉強します!」


「そうか……。試験日は、受付をしていない者は中に入れないんだ。待つことになると思うが、少し早めに受付をしてくれるよう伝えておくよ」


「ありがとうございます!」


「試験勉強は、ここでできるので、大丈夫です!」


 元気いっぱいだな、テリアは。


「では、私はここで。試験、頑張ってくれたまえ。学園で会えるのを楽しみに待っているよ」


 行ってしまった……。

 試験日は、特に中には入れないだろうね、不正とか疑われちゃかなわんし。


 しかし、後二時間くらいか……どうするか。

 今日は、ランニングをしていないし、軽くこの周りでも走って時間潰すか?

 その場合、あまり汗をかかないようにしないとな。


「なあ、テリア。ここでずっと勉強するのか?」


「うん? そうだよ、時間がもったいないじゃん」


「そうか。じゃあ、僕はちょっと走ってくるよ、日課なもんでね」


「走る? 今から? 何考えてんのよ、今日は試験よ! イロハも勉強したらいいじゃん!」


「だから、僕は、直前に勉強はしない主義だって。じゃあ、ちょっと行ってくるよ」


「ウチだけ合格しても知らないからねー!」


「はーい!」

 

 さて、学園周りはどんな感じかな?

読んでいただきありがとうございます。

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