vs魔人バギラス 3
ヘルベルトは二重起動したアクセラレート・フラクションの更に上に、また新たなアクセラレートをかける。
これこそが現在の彼の近接戦闘能力を最大にする新たな時空魔法――アクセラレート・スリング。
三×三×三、つまりは二十七倍もの速度によって繰り出される攻撃は、渾身の一撃も全てが連撃。
赤子ですら達人を切り伏せられるほどの神速の斬撃が、バギラスに襲いかかる。
「うおおおおおっっ!?」
バギラスの目の前にいるヘルベルトの姿がブレ、現れては消え、そして斬撃を食らったという結果だけが残り続ける。
飛び散る鮮血と、身体の芯にまで届く強烈なダメージ。
この瞬間初めて、バギラスの顔が苦悶に歪んだ。
「――ちいっっ!」
バギラスは空を飛んで緊急回避に入ろうとするが、今のヘルベルトは翼の羽ばたきすら動きすら許すことはない。
「ここで――決めるッ!!!」
ヘルベルトは、バギラスに反撃の一つを許すこともなく圧倒し続けている。
けれど彼の肉体からは、一撃を放つ度に音を出しながら血が噴き出していた。
通常の二十七倍という速度で一撃を放ち続けることは、人間の肉体の許容量を優に超えている。
限界を超えて超速で行われる攻撃の一発一発は、食らっているバギラスだけでなく、放っているヘルベルトの肉体をも蝕んでいるのだ。
ヘルベルトの振り下ろしが、バギラス目掛けて放たれる。
バギラスは魔人としての身体能力を頼りにしてそれを避けようとするが、回避軌道を取るよりもヘルベルトが一撃を放つ方が早い。
バギラスの顔に深い切り傷が生まれ、血が噴き出す。
けれど手を緩めることはせずに、ヘルベルトはそのまま足へ突きを放つ。
これもまた命中し、剣が骨をすり抜ける形で裏側へと貫通した。
バギラスがうめき声を上げるのと同時、ヘルベルトの腕の筋肉からぶちりと嫌な音がする。 どうやら筋のうちの一つを切ったようだ。
彼が己の時間を引き延ばしている間は、マーロンがかけている継続回復のリジェネの効果も高速で発動し、そしてその分だけ早く効果時間が切れる。
ヘルベルトの身体は攻撃の度に血を噴き出し、そして身体を覆う白い光がそれをたちどころに癒やしていく。
対しバギラスの方も、肉体の再生能力は常時発動している。
けれど先ほどグラハムともやり合っていたおかげで、その速度は目に見えて落ちていた。
傷が塞がれ、血が失われて血色が悪くなっていた部位に血液が補充こそされるものの、その速度はヘルベルトほど劇的ではない。
「ちいいっ、人間風情があああっっ!!」
バギラスは再び守りを捨て、防御をすることなくノーガードで魔法を発動させ始めた。
そのおかけでグラハムとマーロンの一撃はバギラスの身体を容赦なく打ち付け、全方位に風魔法を使う。
ヘルベルトとバギラスは全身から血を噴き出しながら、それでも互いを打ち倒すべく剣と爪を打ち合わせる。
鋭い一撃を避けることなく、そのままカウンターを放つ。
攻撃を避けるのではなく、受けた上でどうダメージを与えられるかを考える。
自らの損耗を度外視した二人の削り合い。
その軍配が上がったのは――
「がふうぅっ……」
強烈な一撃を叩き込んでみせた、ヘルベルトの方だった。
純粋な実力でも、魔法の扱いでも、身体能力でも、優れているのはバギラスの方だ。
しかしヘルベルトに一つだけ、勝っているところがあった。
それは彼が、一人ではないということ。
空へ逃げようとするバギラスを地面に縫い付けてくれるグラハム。
牽制をしながら、ヘルベルトのことを癒やしてくれるマーロン。
彼らの力を借りることで、ヘルベルトはこうしてバギラスを追い詰めることができている。
「すううっっ……」
グラハムとマーロンが生み出した隙を最大限活かし、一撃を放つための用意を調える。
呼吸を整え、精神を深く深く、意識の底へと沈めていく……。
「――おおおおおおおおおっっ!!」
スッと目を開き、先ほどまでぴたりと動きを止めていた身体を、烈火のごとく動かした。
溜めていた力を解放させ、休ませることで活力を取り戻していた筋肉を躍動させる。
全身をバネのように跳ねさせ、そこに回転の力を加え、魔法による力による二重三重の上乗せを行う。
今持てる力の全てを動員して放たれた渾身の振り上げは、見事バギラスの身体を強かに打ち付けた。
バギラスの身体が宙に浮かぶ。
ヘルベルトの全力の一撃は、バギラスの身体を信じられぬほどの高度まで打ち上げていた。
バギラスは度重なる攻撃を食らい満身創痍となり、翼は折れ魔力は枯渇していた。
今の彼に、空を制動し飛んでいくだけの余力は残っていない。
「行くぞ、ヘルベルト、合わせろッ!」
見ればの隣に、グラハムとマーロンが並ぶ。
どうやら既に最後の一撃を放つための準備を整えているようだ。
それを見たヘルベルトは、三重にかかったアクセラレートのうちの一つを解除。
そして九倍速で、高速で時空魔法を編んでいく。
アクセラレート・フラクションの中でより高度な時空魔法を使う際、必要な魔力は本来より遙かに高くなる。
既に幾度も傷を負っては治し、更にアクセラレート・スリングを使い続けていたヘルベルトの体力は、既に限界に近い。
そんな中で気力を振り絞り魔力をひねり出しているからか、くらりと立ちくらみがして一瞬視界が暗くなる。
けれどぎりりと歯を食いしばり、なんとかこらえてみせる。
ヘルベルト魔力の欠乏による虚脱感に耐えながら、己の放つことのできる最大威力の時空魔法を発動させた。
「オーバーレイ・インフィニティ!」
「世界破壊拳!」
「アンリミテッドピリオド!」
魔を滅ぼす白き光を宿した極太のビーム。
空間を利用して加速を行うことで、音速を超えてもなおスピードを上げ続ける拳。
そしてアクセラレート・フラクションの発動下で放たれることで初速が本来の九倍にまで上がった虹色の破壊光線。
ヘルベルト達の放つことのできる最大の一撃が混ざり合い溶け合いながら、バギラスへと向かっていく。
バギラスはそれを見ながら目を見開き、そして……
「ち……ちくしょおおおおおおおおおおお!!」
舐めていた人間達にいいようにやられた悔しさからあげた叫び声を最後に、バギラスは強烈な光に包まれ――そのまま跡形もなく、消滅したのだった。
好評につき短編の連載版を始めました!
↓のリンクから読めますので、そちらも応援よろしくお願いします!




