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vs魔人バギラス 1


「ゼアッ!!」


 爆発的な魔力の高まり、そして次いで爆発。

 攻撃のために魔法発動の用意を整えていたヘルベルト達は、まったく反応することができなかった。


 ドゴオオオオッッ!


 とてつもなく大きな質量を、ただひたすらに重たい鈍器で叩いたかのような、腹の中にある臓器まで震わせるほどの大きな音が鳴る。

 見ればヘルベルト達の前にはグラハムが立っており、既に界面魔法を発動させているのがわかった。


 どうやら今の音は、バギラスとグラハムの一撃がぶつかった音のようだ。


「補助魔法の力があれば、大分余裕があるな。能力の引き上げは加算じゃなくて乗算か……ふむふむ、これなら……」


 攻撃同士がぶつかった余波によって発生した衝撃波が髪をめくり上げる。

 強風でオールバックになり、爆風を全身で感じながらも、グラハムはにやりと笑っていた。


 そしてそれを見たバギラスも目を細めてから、口角を引き上げた。

 赤く変色している、長い犬歯が顔を覗かキラリと光る。


「てめぇら、気ぃ抜くんじゃねぇぞ! いくら目の前に最強の俺様がいるったってな!」


 グラハムはそのまま界面魔法を発動。

 距離を無視する回避不能の一撃を放つ。


 けれどバギラスはそれを風魔法を使った探知により察知してみせる。

 更にそこから己の身体の後方に風を発生させ、翼の羽ばたきと合わせて急加速。

 さして厳しそうな様子もなく、回避へとつなげる。


 しっかりと事前に溜めがあった上での大きな一撃となると、今のバギラスのものは早すぎて目で追うことができない。

 けれど魔人としての身体能力と風魔法による加速であれば、今のヘルベルト達でもしっかりと目で追うことができる。


「ライトアロー」


 マーロンは相手の回避速度を考えて、五本の光の矢を横に並べて一度に放つ。

 バギラスが再び急制動、右側から順に襲いかかる光の矢を曲がりながら避けていく。


 初級魔法であるライトアローには誘導性もないが、光魔法には魔物に対する特攻を持っている。

 恐らくそれを知っているのであろうバギラスは、その攻撃をしっかりと視認した上で避けることを決めたようだ。


 初級魔法であるため速度もそこまで早くはないため、かわすのはさして難しいことではない。

 けれどそれ故に、緩急をつけるにはもってこいだ。


「クロノスショット!」


 ヘルベルトは方向転換をしたバギラスへ、クロノスショットを放つ。

 中級魔法であるクロノスショットの速度は、ライトアローと同等。


 そのため同じような気構えで避けようとするバギラス。

 その瞬間ヘルベルトは、アクセラレートを使いクロノスショットを加速させた。


「――ぐおっ!?」


 突如として急加速したクロノスショットに対応できず、バギラスはその一撃をしっかりと食らった。

 彼の身体が紫色に変色し、ディレイの効果がかかることで動きがわずかに鈍る。


「今度こそ食らえやっ!」


 クロノスショットのノックバックを受け一瞬意識に空白ができた瞬間を見逃さず、グラハムが界面魔法によって急加速させた拳を叩きつける。


 ボキリと何かが折れるような音と、たしかな手応えを感じ拳を握り直す。

 見れば今度こそ攻撃を食らい、バギラスは腹部に拳型の痕を残していた。


「捉えたぜ」


 先ほどまでグラハムは補助魔法なしで戦い続けていた。それでも微不利な状況で粘ることができていたのだ。

 そこにヘルベルト達が加われば、形勢は一気に変わる。

 マーロンのバフとヘルベルトのデバフは、着実に戦局を変えてみせていた。


 グラハムの連打が、バギラスの身体を強かに打ち付ける。

 時に足技や頭突きさえ織り交ぜた手数重視の連撃は、しかし界面魔法の加速によってその威力を尋常ではなく底上げさせる。


「ライトアロー!」

「クロノスショット!」


 更にそこに追い打ちをかけるように、マーロンとヘルベルトは魔法による援護を行う。

 魔物特攻が付いている魔法と、食らえばデバフになる魔法。

 結果としてバギラスはその双方を避けざるを得ず、回避行動によって生じた隙を逃さず、グラハムが一撃を叩き込み続ける。


 三人の連携の息はぴったりと合っていた。

 伊達に何百と手合わせをしているわけではなく、お互いが相手に何ができて相手がどのように考えるかを予想し、その先回りをしておく程度のことは簡単にできるのだ。


 グラハムの一撃を当てるためにマーロンは牽制を行い、攻撃の継ぎ目がなくなるようにヘルベルトは魔法にアクセラレートをかけたりかけなかったりすることでバギラスの判断を迷わせる。


 攻めに転じようとすればその機先をヘルベルト達が潰すため、攻め手と守り手が入れ替わることなくヘルベルト達が一方的に攻め立てることができている。


「――シイッ!」


 ヘルベルトは常時展開させているリークの魔法を使い、遠距離から放たれる風の刃を避ける。

 今回はどうやら三重になっていたようで、見える刃とそれに隠れるもう一つの刃、更に二つ目の刃を避けたところに飛んでいく刃という三段構えだった。


 その一つ一つのスピードが洒落にならないため、己の感覚を頼りに一発目、二発目を避ける。三発目の攻撃も辛くも避けることができたが、よく見れば服がわずかに切り裂かれていた。


 ――グラハムが言っていた通り、バギラスが放ってくる風魔法は厄介であった。

 一直線に向かってくる暴風、風の刃、己の囲うように展開される竜巻。

 それが目に見えるものと不可視のものの二パターンずつあるため、視認で全てを処理していくのは不可能に近い。


 全てを回避することは難しかったが、それでもヘルベルトはリークの魔法を使うことである程度攻撃を回避し、致命の一撃を食らう事態だけは避けることに成功していた。


 リターンを使って傷を治しながら確認してみれば、マーロンの方は完全に勘頼りで風魔法を避けていた。

 それでヘルベルトより食らっている頻度が低そうなのだから、彼の戦闘勘には頭が上がらない。


 けれどそれでも、バギラスは倒れない。

 その耐久力は、異常の一言に尽きる。

 ドラヌスのような再生能力を持っているのか、最初にグラハムがつけたはずの拳の痕は、既に跡形もなく消えていた。


「――チイッッ!!」


 攻撃を繰り返しこのまま押し切れるかと考えていると、バギラスが動きに変化をつけた。

 彼は守りを捨て、そのままマーロン目掛けて一直線に向かっていったのだ。

 ヘルベルトのクロノスショットととグラハムの拳打が当たってもお構いなしで、傷をつけながらも一目散にマーロンへと滑空していく。


 マーロンは魔法による迎撃を諦め、腰に提げていた剣を取る。

 その身体には自身がかけている補助魔法が乗っており、彼の身体は強い白い光に覆われていた。


「俺だって……魔法戦しか能がないわけじゃない」


 向かってくるバギラスが、口を大きく開いた。

 事前に教えられていたブレス攻撃の予兆だ。


「って、いきなりそれはないだろ!?」


 バギラスの喉が大きく膨らみ、そのまま口から光線を吐き出した。

 その光線の周囲には風の刃が渦を巻きながら、螺旋状に展開されている。

 間違いない、あれが――ドラゴンが放つことができるドラゴン唯一の固有魔法と言われているブレス攻撃だ。

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