出し物
翌日、ヘルベルトとネルは短期留学生であるアリスを連れて生徒会室へとやってきた。
そこで自分達の腹案を話してみたのだが……話を聞いた生徒会長であるマリーカは、ふむふむとしっかりと話に頷いてから、俯いてしまった。
流石に提案がいきなりすぎたかと反省しようとしたその時!
マリーカはブルブルと震えだし、そして……ガバッと上体を起こした!
「庶務ヘルベルト君、書記のネルちゃん、そして臨時実行委員のアリスちゃん! 私は君達の成長が嬉しいよ!」
そう言ってマリーカはグッとガッツポーズ。
どうやら彼女は呆れていたわけではなく、感動に打ち震えていたらしい。
提案自体まだそんなに詳細も決まっていない素案も素案なので、そんなに強烈な反応をもらうとは思っていなかったヘルベルトは、ただきょとんとしてマリーカを見つめることしかできなかった。
「成長……ですか?」
「私に関しては今日が初対面ですよね……?」
「ええいうるさいっ! 細かいことは言いっこなし!」
マリーカはぶんぶんと手を振りながら、大げさな身振り手振りでヘルベルト達に語り始めた。
イザベラは慣れたものなのか何も気にせずに業務を続け、リガットの方はマリーカの意を汲んでどこかから取り出してきた木製の壇をマリーカの足下に置いている。
「私もね、あの襲撃事件で色々と思っているところはあったの。学院っていうのはね、貴族の子達にとっての最後の楽園、最後の砦、最後のモラトリアムなわけさ!」
たしかに貴族というのは案外、自由は少ないものだ。
女性であればお茶会やダンスパーティーを定期的に開いて社交界での立場を維持しなければいけないし、男性であれば領地経営から王宮内での官職など、自分達の息子やマゴに貴族位を受け継ぐことができるようにしっかりとした仕事をしていかなければならない。
「かくいう私も卒業と同時にお見合いラッシュが入ってる身、せっかくなら今後何十年も忘れないような濃い~~思い出を沢山作っておきたいわけさ」
「会長は十分色々やってると思いますけどね」
「こらイザベラ副会長、会長の演説の途中だぞ、慎みたまえ。でも……お見合いラッシュ、か……」
マリーカは飛び跳ね、壇上から転げ落ちそうになってから慌てて真ん中に戻り、ぺろりと舌を出す。
流石に仕事に身が入らなくなったイザベラが茶々を入れ、なぜか脇を固めているリガットは落ち込み始めた。
マリーカ・フォン・エーデルシュミットはウンルー公爵家を含めて三つしかない、公爵家が一つ、エーデルシュミット家の長女だ。
彼女が言っている通り、卒業をして学生の身分を辞めれば恐らくすぐにでもどこかに嫁に出されることになるだろう。
本人は言わないが、ひょっとすると既に婚約も成立しているかもしれない。
「せっかくそろそろ『覇究祭』の準備委員会が発足する時期だっていうのに、このお通夜モードはいかんともしがたい! 我々生徒会に与えられた予算を使うタイミングは一体いつか! そう、今に違いないのです!」
ドヤ顔をしながら、胸を張るマリーカ。
低い身長に不釣り合いなほどに立派な胸部が、たゆんと揺れる。
一瞬目がそちらにいってしまいそうになるヘルベルトだったが、ネルの氷のような視線を感じて即座に顔に目線を固定させる。
「実はリガット君と話をつけて、予算額に関しては決めてたんだ。細かい話を詰めようとしたところに……ヘルベルト君達が自分から話をしにきてくれたってわけ。これはお姉さんとして、喜ばずにはいられないわけですよ。あなた達三人には、マリーカポイントを五点あげます」
「ちなみに俺は三十七点持ってるぞ!」
「その補足いりませんよ、リガット先輩」
どうやらヘルベルト達と同様、マリーカ達もイベントを打とうと準備を始めようとしていたところらしい。
あちらでも既にアイデア出しをしていたらしく、それにヘルベルト達が練っていたものを足し合わせる形で候補が続々と出てくる。
なんだか急激にわちゃわちゃとしてきたが、少なくとも今この生徒会室の中では、機嫌が悪くなっていたり、不安そうな顔をしている人間は一人もいない。
できれば学院全体がこんな風になればいいなと思いながら、ヘルベルトは初対面の人にも物怖じせずに突っ込んでいくアリスを横目に、自分も意見を述べていくのだった。
話し合いはトントン拍子で進んでいき、ああでもないこうでもないとアイデアが記されている紙が、散らばっているのを、ヘルベルトがひとまとめにする。
そこに記されているのは本当に実現できるのかどうか怪しいものから、名前すら聞いていない謎のものまで非常に様々。
ヘルベルトが出したのは皆での立食式のパーティー。
自身ではかなり芯を食っていていいと思っていたのだが、マリーカが出した数々の奇想の前では明らかに霞んでいた。
『水着メイド喫茶ロワイヤル』ってなんだろうと、ちょっと興味が出てきてしまうようなばかりなのもたちが悪い。
「よし、それじゃあ皆の意見を聞いた上で、独断と偏見で私が出し物を決めたいと思いますっ!」
生徒会は絶大な権力を持っているが、やはりそれを最も強力に行使できるのは生徒会長だ。
基本的に生徒会での決議は多数決なはずなのだが、マリーカはわりと強権的に自分の好きなことをすることが多い。
普通ならそれだと同じ生徒会役員からの反発がありそうなものだが、少なくともヘルベルトはマリーカの悪口を、生徒会の内外を問わず聞いたことがない。
マリーカが催す出し物は、意外なことに一件むちゃくちゃなものに見えても、最終的には皆が満足して終わることが多い。
公爵家の長女である彼女は基本的に頭が切れるのだが、それを常人には理解できないような方向に発揮させることが大の得意なのだ。
今代の生徒会はパワフルな生徒会長を皆で引っ張っていくような形になっているため、基本的にヘルベルト達は彼女のフォローをする側だ。
けれどたしかにこれも、学院生活を楽しんでいると言え……なくもないかもしれない。
「今回生徒会が主催する出し物は――」




