第304話
第304話です。
あれからしばらく経った。
もうそろそろテレビの始まる頃だと思い、俺はリモコンを使って電源をつける。先程まで黒い鏡状態だったモニター部が明るく光って、広告を映し出した。
番組表に移り、チャンネルを変えて始まる時間を確認する。
番組の開始まであと10分。先輩も作詞セットを片付けて俺の横に座った。
「ちょっとだけ、緊張する」
「先輩がですか?」
「後輩くんは私の事をなんだと思ってるのさ。私だって人なんだから、緊張くらいするよ」
ぷくぷと頬を膨らませながら先輩は頭を俺の肩にコツコツと当てた。
「そうだ。テレビで私が噛んだりしてても笑わないでよね」
「噛むのが可愛かったら頭は撫でてあげます」
「それ、私の事バカにしてないっ!?」
「してません」
言ったそばから頭を撫でてみる。すると案外初心な先輩は顔をボッと染めるのだ。
「うぅ……」
まだ始まってない番組の前に先輩は俺の隣から立ち上がって、後ろにあったベッドに転がり始めた。
「見ないんですか?」
「後輩くん、いじわるするもん」
「いじわるって……可愛いから仕方がないじゃないですか」
「……可愛いって言えば機嫌を直すと思ってない?」
「思ってないと言えば嘘になりますけど、でもそれ以上にやっぱり可愛いのが事実ですから」
俺がそう言うと、ころんと先輩は背中を向けてしまった。
おーいと声をかけてもこちらを振り向いてはくれない。
上から覗き込むようにして見てみる。すると真っ赤な耳が視界に入った。
なるほど、なんて何に納得したのか分からない感想を抱きながら、俺は先輩に「見たくなったら一緒に見ましょうね」とだけ言ってそのままテレビを見続けることにするのだった。
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