第301話
第301話です。
2人分のスニーカーの足音。
パタパタという音が耳に馴染む。
空は茜色に染まり始まりだした。それにつられるように街には光が灯り始める。
手には暖かい体温。
時折吹く風が心地いい。
パン屋さんの前を通った時にバターのいい香りが鼻孔をくすぐって、思わず本来の目的を忘れてしまいそうになる。けれど、気になるものは仕方がない。思わず目で追ってしまいながら、視界から外れるまで眺めていた。
「パン屋さん、気になるんですか?」
後輩くんは気が付いていたのか、私にそう尋ねてくる。
「ちょっと気になる。いい匂いがしたからさ」
「いい匂いしましたねぇ。帰りに買いますか?」
「え、いいのっ!」
しっぽを振る犬のように私はそう聞き返した。
「いいですよ。明日の朝ごはんも特に無かったのでちょうどいいですし」
「やったぁ!」
子供のようにはしゃぐ年上の彼女を連れる後輩くんは一体どんな気分なんだろうか、なんて思いながら、私はそのまましばらくはしゃいだまま。
そんなこんなでスーパーにたどり着いてからは足りない食材を買い足していく。
「あ、キムチ買わないと」
実の所、キムチ鍋がいいと私が提案していた訳だが、その肝心のキムチが無かったのだ。つまり、買い出しに行かなければキムチ無しのキムチ鍋を食べる派目になっていたというわけなのだ。
それってただの鍋では?という声が聞こえてきそうだが、ここはあえてキムチ無しのキムチ鍋で通させてもらうっ!
まぁ、ともはあれ。これさえ買ってしまえば今回は勝ちしか見えないヌルゲーとなってくれる。
「さぁ!パン屋さんに行こっ!」
私はレジを通して袋に食材を詰めながら、もう一度犬モードになってそう言うのだった。
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