第八話 カンナ・ヒイラギ-3
暗くなる前に夕食の準備をすることになった。食材はテトが大量に殺生してしまった湖の魚たちである。浮いている魚たちを一つ一つ、全て回収すると相当な量になった。それでも、殺した命は決して無駄にしないのがウォーカーの流儀だ。
「料理の担当を決めようか」
カンナの言葉に、テトとマリアは「リョウ……リ?」と首を傾げた。
予想通りというか、二人は冒険者の癖して一度も自炊の経験がなかった。
「君たち、今までどうやってフィールドで生き長らえてきたのかな……?」
「どうって……ぜんぶ焼いて食べる?」
「生で食う」
貴重この上ない、原始人と野生動物の回答である。
テトは論外として、俺の料理スキルもマリアと大差ない。白皇に料理が全く期待できないせいで、ここ一ヶ月ようやく俺も自炊の必要に迫られただけのこと。
「じゃあ、マリアちゃんは丸焼き担当ね。先に火を起こしておいて。シオン君はじゃんじゃん捌いて、生で食べられそうな部分はそのまま刺し身にしちゃって。私はシチューでも作るから」
「ねぇおれはおれは?」
「テト君はそうねー、味見係」
「おぉー!」
さすがカンナ、適材適所だ。俺も刃物の扱いだけなら自信がある。
マリアが薪を集めて火をおこしている間に、湖の水で洗った大きな平たい石をまな板代わりに使い、大量の魚を捌いていく。すべての内臓を取り出し、身の柔らかさや臭みから、生で食えそうなものと火を通すべきものを半ば直感で選別し、後者はカンナに預ける。
サバイバルにおいて特に不足が心配されるのはビタミンだ。特に野菜や果物の採集が難しい環境では、長引けば壊血病といったビタミン欠乏症を患う危険もある。
ビタミンは熱で破壊されるため、いけるものはなるべく生食するのがサバイバルの鉄則。ナイフで大量の刺し身をこしらえ、洗った石の上にこんもり盛った。醤油があれば最高なのだが、贅沢は言っていられない。携帯している塩を振りかけていただく。
マリアは俺が内蔵を抜いた魚を串で刺して豪快な丸焼きにした。カンナは湖畔で採れた僅かな野菜・キノコ類と余った魚介を、持参した自家製らしいルーで煮込み、素晴らしい芳香を上げるブラウンシチューを作った。出揃った品々の味はすべて、味見役のテトのお墨付きだ。
「こんな大きな鍋持ち歩いてたのか」
「鍋はいいんだよー、なんでも余すことなく食べられる。背嚢に入れていれば、いざというとき鎧の代わりになるしね」
たっぷり四人前は入った鍋の前で、カンナは笑った。食べようかという時に、夜が訪れた。消灯した空の下で、マリアの作った不格好な焚き火の明かりが、それを囲む俺たち四人の顔を闇の中に浮き上がらせた。
「夜に間に合ってよかったね。それじゃ、皆さん手を合わせましょう。いただきます」
「いただきまーす!」
ご飯は美味くて、何気ない会話は楽しくて、こんなに明るい夜は久しぶりだった。
事件は、夜中に起きた。




