第六話 飛竜狩り-4
「うぇっ、あっちぃ……!」
テトがバテた犬のように舌を出して言う通り、中はまるでサウナだった。地面や壁のあちこちで溶岩が滲み出し、火山の内部を赤や黄色の光で彩っている。両脇をドロドロのマグマが運河のように流れていて、踏める場所も限られている有様だ。
「落ちたら骨も残らないでしょうね……」
マグマの間を慎重に渡る。すぐに全身汗だくになり、一時間も歩くと熱が頭に昇ってぼうっとしてきた。休める場所を見つめてはこまめに腰を下ろし、水を飲んで休憩した。首の後ろや脇、ももの付け根などを少量の水で濡らし、少しでも体温を下げては先に進む。
風穴から火山の内側に入って三時間近く。豊富に持ってきた水もほぼ尽きかけていた。
「よし、行こうか」
カンナが立ち上がったのは、三度目の休憩を初めて二分も経っていないときだった。テトが悲鳴に近い声を上げる。
「まだ座ったばっかだぜぇ……」
「ここを抜けない限り、どこで休んだって体に熱が籠もり続ける。誰か一人でも倒れたら、一気に動きにくくなって全員共倒れだよ。そんな死に方は《守護石》だって防いでくれない」
理屈はそうだ。だが、俺を含めて三人とも相当体力を消耗しており、熱で頭もクラクラして、その上あとどれくらい歩けば向こう側に出られるのか、全く終わりが見えない。今からまた歩き始めることを全身が拒絶している。
「もー少しだけ休ませてくれぇ……」
「俺もテトに賛成だ……もうしばらく歩けない」
「私もです、すみません……」
三人そろって情けなく地べたに尻をつける。一人涼しい顔のカンナは、困った顔で「うーん」と唸ると、にっこり笑って言った。
「弱音吐く元気があるならまだまだ大丈夫! ほら、行くよ!」
耳を疑った俺たちを、カンナは一人ひとり、優しくも有無を言わさぬ力で起こして立たせた。「お、おい」と文句を言いかけた俺に、ほとんど飲んでいなかった自分の分の水筒を突きつける。
「好きなだけ飲んでいいよ。その代わり、もう弱音は許さないからね」
こんなに暑いのに、寒気がした。優しく笑っている分余計に怖い。この女のパーティーメンバーに抜擢されたユーシスが、以前カンナのことを異常に怖がっていたことを思い出した。
持たされた水筒に目を落とす。中はたっぷり水で満ちていた。悪魔の契約と分かっていてもその欲求にはあらがえず、ガブリと飲む。まだ十分冷たい水が、食道を通って胃に入り、僅かに活力を取り戻す。マリアとテトにも回してやると、二人とも結局飲んでしまった。
「よし! じゃあここからもう休憩はなしね。倒れそうになったら、私の服を掴んでも、肩に体重を預けてもいい。だから歯を食いしばってついてきて。いいかな、みんな?」
指を立て、天使の笑顔で小首をかしげるカンナに、俺たち三人は首を縦に振ることしかできなかった。
ユーシスが怖がる理由がよく分かった。この女は優しくても、決して甘くない。それが最善であれば、どんな苦行も仲間に課す。「ついてこれないなら、まだ私と来るには早かったよ」と、その背中が優しく、非情に語る。もしここで倒れたら、カンナは置いてこそいかないだろうが、きっと、もう二度と俺を誘ってくれないだろう。
振り返りもせず歩き出したカンナの後ろ姿に見える、プロの冒険者として、パーティーを率いるリーダーとしての品格。「おい」と、俺はマリアとテトの間から二人の背中を叩いた。
「根性見せようぜ……」
「……おぉっ!」
「……あたしは全然へばってないわよ」
三人で顔を見合わせ、腹から力を絞り出すようにして俺たちは歩き出した。




