第五話 紅雲大火山-2
「球皮のあちこちに噴気口があって、進みたい方角に合わせてここから風を出す向きと強さを調節するの」
「すげえな……。煉器っつってもここまで来ると、科学との見分けがつかん。だいたいなんだよ煉器って。俺にはさっぱりだ。地球人には想像もつかない理論があるんだろうな」
「ユーシス君が前に『命令式を組み込む』って言ってたよ。私たちで言うところの、パソコンのコードみたいな感じかな」
なるほど、と妙に納得した。ナチュラルにとっては、地球のパソコンやスマホの方がよっぽど意味の分からない存在に違いない。
「テト。お前はどんな風に煉術を覚えた? 俺、今煉術の修行しててさ」
「へ? シオンって地球人だろ?」
「そうなんだけど、わけあって煉術が使えるんだよ」
どんなわけだよ、とテトは狐に化かされたような顔になった。
「んー、そーだなー。おれは生まれたときから使えたから、分かんねーな。意識したことない。なんで手や足を動かせてるのか説明できないのとおんなじ」
向かい合わせた親指と人差指の間を、青い電流がバチッと走る。敵の動きを止め、自分の肉体を活性化させる電撃――あんな力が俺にも使えれば、と思ったのだが、師匠には全く向かなそうだ。
四人でしゃがみ込み、膝を突き合わせて談笑する間にも、気球は順調に北上を続けた。普通、気球には高度計、風速計、球皮内温度計などの必須計器が搭載されているが、さすがにそんな精密機器はこの世界にない。
よって、どのように気球を操るのかと言えば、カンナ曰く「自分の感覚を信じる」のだそうだ。目や肌で地上との距離感を測りながら、バーナーの威力と風の推進力を調節する。
やがて、気球は大地の裂け目に差し掛かった。大陸をぶった斬ったようなねずみ返しの崖。その下に広がる、血の海のような樹海。天空から見下ろすと一層圧巻だ。あの辺りに俺は落とされて、あの辺りで死にかけて、あの辺りで――眼下の樹海をなぞっていくと、辛いばかりではなかった記憶が蘇る。俺を助けに来てくれた友と、必死に生き延びた数日間の記憶。
「あっ、見えたよ!」
カンナの声に、俺達は一斉に北を見やった。
そこに広がっていたのは――真っ赤な雲と、それに山頂を突っ込んだ、信じられないほど巨大な褐色の霊峰。
気がつけば血溜まりの樹海を飛び越え、俺達は今まさに、大地の裂け目の対岸へ渡ろうかというところだった。眼前に広がる、燃えるような真紅の雲海。そこへ突っ込むと、視界が赤一色に染まった。まるで赤い霧の中。カンナはバーナーを緩め、高度を下げる。
たった二時間あまりの空の旅。俺達は、紅雲大火山の麓に着陸した。




