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四十話 召喚魔法

 改めて向かい合うと、レーカスは四十歳を超えた初老の男性とは思えないほど力強さに満ち溢れ、そして何より圧倒的な魔力量を誇っていた。


(これは……俺と同等以上、というかカー子並みなんじゃないか?)


 俺とカー子があちら側の戦力を推し量ろうと様子を伺っていると、先手を取ってレーカスが動き出した。


「仕掛けてこないのであれば、先に準備をさせてもらおうか」


 レーカスが手に持っていた杖で地面を付くと、そこに幾つもの魔法陣が現れたのだが、彼の周りには描かれた魔法陣が光るばかりで魔法が飛んでくる様子が無い。


「し、失敗?」


 俺の疑問を確かめる様に、カー子が空間に一門の魔法陣を描くと、そこから巨大な火の球が出現し、レーカスに襲いかかる。

 所謂ファイアボールという奴なのだろうが、向かってくる火球を前にしてもレーカスは一向に動く様子が無い。

 そしてファイアボールがレーカスを捉えようとしたその瞬間――


「ウオォォオオオッ!」


 地面から巨大な影が現れて、カー子のファイアボールを打ち消したのだった。


「あれは、ゴーレム……なのか?」


 俺たちとレーカスの間には、体を岩石で構築された三メートルほどの巨人が立ち塞がっていた。


「土魔法のお遊びですか?」 


「さあ、それはどうかね?」


 カー子からすれば土魔法を使い生成した巨人を操る事など、お遊びと称するに過ぎない魔法なのだろう

 続け様にカー子は複数の魔法陣を展開させてレーカスに追撃を掛ける。


「ならばこれは!」


 展開された魔法陣から生まれた激流で形作られた巨大な水龍が、ゴーレムを打ち砕きその勢いのままレーカスを飲み込むのが見えた。


「や、やったのか?」


 しかし、水龍が消えた空間からは、まるで鎧のような皮膚で全身を覆った巨大なカエルが現れて、ギョロリとこちらを睨みつけた。

 そしてカエルの口が開かれると――


「嘘……」


 開かれたカエルの口の中から、無傷のレーカスが姿を表した。


「アーマードフロッグ、生きた魔物が何故ここに……それでは先程のゴーレムも土魔法の作り物じゃなくて……」


「そうとも、ご明察の通りこれは召喚魔法なのだよ」


「そんな、ありえない!」


 目の前の光景とレーカスの言葉に、カー子が驚愕している。


「おい、カー子どういう事だ。説明しろ」


「……召喚魔法は魔法によって隷属させたモンスター達を、魔法陣を通じて召喚する、()()()転移魔法の上位に存在するとされる魔法です」


 理論上と言うからには、恐らく彼女にも使えない魔法なのだろう。


「それってそんなに難しいのか?」


「双方に魔法陣を設置して互いから魔力を送りようやく転移を実現させる転移魔法を一方的に、それも無理矢理呼び寄せるんです。人間業じゃない上に、そもそも実現不可能とされて研究段階で放置されていた魔法のはず……」


 驚愕するカー子の様子に機嫌を良くしたのか、レーカスが饒舌になっていく。


「おいおい、私が二十年間、一体何の研究をしていたと思っているのかね」


 レーカスが望んでやまなかったのは、異世界転移の魔法術式とその実現だろう。

 つまりその過程で転移、召喚に類する魔法は研究し修めていたという事か。


「さあ、いつまで呆けているのかね。早くしないと手に負えなくなってしまうぞ?」


 レーカスが喋っている間にも、床に無数の魔法陣が増え始めて、次々と魔物達が召喚されて来る。中にはかつて俺が死を覚悟した、ジャイアント・オークやワイバーンの姿も見られた。


「カー子! 大規模殲滅魔法を!」


「駄目です! それではキキーリアちゃんや他の人々を巻き込んでしまいます」


「そんな事言ったってこのままじゃ詰んじまうぞ!」


「言われなくたって!」


 そう言ってカー子は一筋の光となって魔物の中に突っ込んでいく。

 そして手の平を当てては、範囲を絞ったゼロ距離魔法で魔物を灰塵に帰しては、また舞い踊る。

 途中、両手で足りない場面では、いつしか見せた背中の翼で迫り来る魔物を切って伏せる。

 そうして召喚された魔物の群れの中を、舞うような動きで燃やし、切り伏せ、縫い進みながら、レーカスの元へと辿り着いたその瞬間――


「残念だが、私は魔力適正だけでは無く、身体適正もAランクなのだよ」


 俺には早すぎて目で追い切れなかったのだが、レーカスが持つ杖が光ったかと思うと、次の瞬間にはカー子がこちらまで吹き飛ばされていた。

 俺の隣まで吹き飛ばされてきたカー子は傷こそ負ってないものの、その横顔には明らかに疲労と焦りが見て取れた。


 しかし身体適正もAランクになると、人間離れした化物級になるとは冒険者ギルドで聞いていたが、あれは誇張表現でもなんでも無い真実だったようだ。

 いつだったか、彼の事を差して俺よりもよっぽど異世界転移チーターが似合うと称した事があったのだが……何の事はない、紛うことなき異世界転移チート野郎だったという訳だ。


「っていうかおい! アンタ魔力適正Bランクじゃなかったのか!?」


「そんなもの、情報操作でどうとでもなるに決まっているだろう」


「それじゃあいつも着けていた高級そうな魔法具はっ!?」


「あれは強すぎる力を『世界の意志』や精霊に感知されない為の、いわば抑制魔法具さ。さしもの私も、万全状態の精霊に見つかって襲われては、勝算が低いからねぇ」


 それでも、多少なり勝算があるあたり、やはり正真正銘の化物なのだろう。


「おい、カー子。少しは休めたか?」


「厳しいですねぇ、召喚した魔物の数からして、そろそろ魔力が尽きかけてもおかしくない筈なのですが……」


 その間にも最上階のフロアには魔物が補填され続けていた。

 先程カー子が減らした分はもう補充されてしまっただろうか。

 しかし当のレーカスからは、一向に魔力切れを起こす様子が見られない。


「おやおや、もう限界ですか? ならばこちらも手札を切りますよ」


 そういってレーカスが再び地面を力強く突くと、先程までとは比べ物にならないほど巨大な魔法陣が現れた。

 そして次の瞬間――


「グオォォオオオオオオン!」


 両手で耳を押さえつけてもガンガンと頭痛がしてくるような巨大な咆哮に、全身を鱗で覆われた凶悪な皮膚、爬虫類じみた巨大な頭部に背中から翼を生やしたその生物は、この広く広大な情報通信局最上階に召喚されて尚、天上を突き破り俺達を見下ろしていた。


 そう、俺とカー子の前にはファンタジー世界の代名詞ともいえる存在、生物の頂点、暴力の化身――ドラゴンが現れていた。


J('ー`)し 戦闘描写のセンスがあまりにもない……

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