四十一話 秘密兵器
「グオォォオオオオ!」
大気を震わせる雄叫びを上げながら、俺達を見下ろしていたドラゴンの頭部が眼下の獲物へと迫り来る。
「タカシ!」
瞬間、手を握られたような感覚があったかと思うと、視界が景色を置き去りにしていた。
肩が外れるかと思うほど急激な負荷を味わいながら、足元と視界が安定し辺りを見回すと、どうやら俺はカー子に引っ張られて最上階の端、入り口付近までひとっ飛びで高速移動していたらしい。
「マジか――おい、カー子。あれってドラゴンだよな?」
「ドラゴン……ですね」
視界の先では巨大な竜の頭部が、先程まで俺たちの居た場所を陥没させている。
隣に立つカー子からも緊張が伝わってくる。
「そんなにマズいのか?」
「はい、大分……」
距離を取り、全身を視界に収めてなお圧迫感を感じる圧倒的存在。
あれをやらないと駄目なのか……
「ちなみにカー子、天井に穴も空いた事だし《深炎の御柱》で倒せたりしないか?」
「無理ですね。飛竜程度ならまだしも、真性の竜種の外皮は炎を吹く生物というだけあって、火属性の魔法に対しては特に強い抵抗を持っています」
マジか、火属性魔法が得意なカー子とは相性最悪じゃないか。
というかヤバイな……ドラゴン。ワイバーンの土手っ腹に一撃で大穴を開けた、カー子の《深淵の御柱》が通じないとは……
「大規模魔法は以前使えませんし、《深淵の御柱》程度では傷を付けるのが精一杯でしょう」
その言葉にピクリと反応する。
「傷なら、付けられるのか?」
「ええ、範囲を狭めればあの鱗を焼き切って傷を負わせるくらいは……しかし何度も同じ場所に当てるのは流石に不可能ですので、流石に手数が足りませんね」
「いや、一手あれば十分だ。ちょっと耳かせ」
そして俺はカー子に作戦を伝える。
「え? そんな? いや、でも……やるしか……わかりました」
「おいおい、そんな遠くで内緒話していないでこっちにくればいいじゃないか」
嫌味ったらしく勝ち誇ったように、レーカスの声がここまで届いてくる。
「それに、その程度の距離、ドラゴン相手では離した事にならないのだが?」
次の瞬間、ドラゴンが長い首を下げると、地面に下顎を着けて大きく口を開いた。
「いけません! 来ます!」
俺は再びカー子に引き寄せられると、今度は彼女に抱きしめられていた。
「おい、一体何を!?」
「いいからッ! 黙ってて!」
そう言ってカー子は更に身を寄せると、俺を庇うようにドラゴンに背中を向ける。
彼女の背中から生えた三対六枚の翼が光を増して結界のような膜を展開する。そして――
次の瞬間、俺達の周囲三百六十度全てが紅蓮の炎に包まれた。
「熱ちちちちッ!」
恐らくカー子が展開したのであろう防御魔法を持ってしても、その全てを遮断する事は叶わず、肌はヒリつき、呼吸をすれば喉が焼かれているのかと錯覚する程の高熱が俺たちを襲った。
意識が朦朧とする。俺が酸欠で倒れるかという寸前で炎の嵐はようやく静まるのだった。
これはもう一度喰らったら本当に終わりかもしれない。
覚悟を決めて先程の作戦を決行するほか道が無いようだ。
「カー子、頼む!」
「言われなくっても!」
意を決して構えた俺は、再びカー子に掴まれてドラゴンの目下までやってくる。
レーカスの奴は余裕の現れなのか、ほう、と腕組みをしながら興味深そうにこちらを見据えてやがる。
覚悟しろ、その度肝一撃で根こそぎ抜き取ってやる。
「来やがれ木偶の坊が!」
「ギャオオオオオオン!」
あながち断頭台のギロチンといったところか。
巨大なドラゴンの下顎が、俺達を押し潰そうと、確実な死の気配を引き連れて頭上から落ちてくる。
迫りくる死に抗おうと震えを押さえつけて自らを鼓舞すると、俺は左手に持った小型ナイフで先程傷つけたばかりの右手の甲を再び傷付けて流血させて、ポケットから取り出した手袋を右手に填めて雄叫びを上げた。
「カー子ぉぉおおおおッ!」
手の平から最大出力で魔力を放出させながら、そのまま地面に押し当てる。
目の前では、カー子が頭上に向かって限界まで範囲を狭めて火力を追求した極細《深炎の御柱》をドラゴンの下顎に打ち込んでいた。
「今です!」
カー子の合図と共に俺は、手袋越しに地面を掴み、そして引き抜いた。
そのまま持ち上げた俺の右腕にカー子の両手が添えられ、目標に誘導される。
「くぅたぁばぁれぇぇえええ!!」
目の前の視界が閉ざされる。
何も見えない空間で感じるのは、強烈な振動に高速の回転音、そしてガリガリと何かが削られるような音が鳴り響く。
やがて振動と掘削音が消えて、俺とカー子の周りに空気を裂くような回転音だけが聞こえるようになった事を確認すると、俺は魔力の供給を止めて魔法を解除した。
「うおー、空だー!」
「なんとか……なったようですね」
俺達の足元にはドラゴンの背中が、そして丁度この位置が先程ドラゴンが破壊した天井の真下になるのか、見上げれば頭上には夜空が見えていた。
どうやら俺達はドラゴンの下顎を突き破って首の中を通り、ドラゴンの背中を突き抜けて脱出したようだ。
「き、貴様ら一体何をした!?」
ご自慢のドラゴンを討伐された事が余程想定外だったのか、ようやくレーカスから困惑と動揺の表情を引き出す事に成功していた。
「何って、秘密兵器だよ。ひみつへいき」
絶命したドラゴン背の上から、眼下のレーカスを見下して俺はこれ以上無い程のドヤ顔を決めてみせる。
先程俺が装着した手袋は構想俺、魔法陣開発カー子による共同製作の新魔法だ。
手袋の手の平側には、設置させた地面から大量の土砂や鉱物を掻き集めて、俺の潤沢な魔力で限界まで強固に形成、圧縮した、螺旋模様の入った巨大円錐状の物体を作り上げる土属性魔法陣。
そして手の甲側には、やはり俺の潤沢な魔力で、その威力を直接的な破壊では無く、限界まで回転力を加える事に費やした暴力的なまでの回転を誇る風属性魔法陣。
「どうだレーカス。二十年ぶり拝んだ科学の力、故郷の破壊力は!?」
未だ空間に魔法陣を描くだけの知識も、手の平以外から魔力を放出させる技術も持たない今の俺が、己の適性と魔力量を最大限生かす為に精霊の知恵と技術を借りて試行錯誤を重ねた俺限定、俺専用の新魔法、その名も――
「これが俺の、俺達の《男の浪漫》魔法だッッッ!」
J('ー`)し ついカッとなってやった。別に反省も後悔もしていない。




