4、初めての体験
前話のわかりにくそうだった部分を一部修正しました。
4、初めての体験
襲いかかってきた黒の魔女に体を抱きしめられ、そのまま押し倒される。
彼女の柔らかな肉体が密着し、それを意識してしまった私の体温が上昇する。
「まさか、お前を私の下に組み敷く日が来ようとは、思ってもみなかったぞ?」
気がつけば両腕は彼女の両手でおさえられ、足も、彼女の両足でおさえられていた。
勝ち誇ったような顔でこちらを見下ろしてくる彼女の赤い瞳。そこには、隠すつもりが一切ない欲情の炎が燃え盛っていた。
(こいつ、本気か……!)
私は黒の魔王としてこの世界を支配した。
その方法は、この黒の魔女から授けられたスキル「絶対命令」によるところが大きい。
このスキルを使って命令を下せば、その命令は命を賭してでもなすべき「絶対命令」となる。
かなり便利すぎる力なのだが、効果が強すぎるのでここぞという場面でしか使えない。
故に、私は迷う事なくその力を使った。
「黒の魔女よ! 私から離れろ!」
力ある言葉が放たれ、魔女の耳へと届くのを感じる。
「……」
彼女の動きが止まった。私はその隙を逃すまいと抑えられていた手足に力を込める。
――おかしい。手足の拘束がまったく揺るがない。それに、私は「離れろ」と言った。
「止まれ、とは言ってないはずだ。お前は今、そう考えているな?」
「!?」
心の中を読まれ、動揺してしまう。そんな私を見て、黒の魔女は今まで見た事がないような満面の笑みを浮かべた。
「お前はいつも詰めが甘いな。男だった頃のお前の甘さは私を苛立たせたが、女となったお前の甘さは、最高にかわいいぞ」
そう言って、彼女は私の首元に顔を埋めてくる。同時に、何かざらついた感触が首筋を撫でる。
「っ!」
背筋にぞくぞくとした感覚が流れて、思わず体がびくりと反応した。
「お前からはかすかに甘い匂いがするな。花の蜜のような、甘い香りだ。食欲がそそられる」
顔を上げ、笑みを浮かべながら、彼女はこちらを見つめてくる。
その妖艶な表情に、胸が高鳴っている自分がいた。舐められた首筋からも、熱いうずきのような感覚がじわじわと広がっていく。
全てを忘れ、彼女に身を任せる。それが至上の幸福のように思えてならない。
いつの間にか下着姿になっている彼女の体は、出るところは出ていて、くびれるところはくびれており、美しい彫刻のようだった。
その褐色の肌にはうっすらと汗が滲んでおり、触れたらどんな触り心地なのかを確かめたくなる。
(……違う。おかしい。これは、おかしい)
頭がぼうっとしてきて、ふわふわとした心地良さを覚え始めている。
だが、頭の片隅ではしきりに警報がなっていた。この状況から早く逃れろと、理性が遠くから叫んでいる。
「まだ抵抗するのか? ここぞの精神力はさすが元魔王といったところか……」
黒の魔女はそう言って、自身の胸の谷間から何かを取り出した。それは小さな小瓶で、中には何かの液体が入っているようだった。
「……私に、それを、飲ませた……のか?」
どうやら私は彼女に一服盛られたらしい。彼女からもたらされる刺激が途絶えた事により、少しずつ頭が回るようになっていた。
「ああ、先ほど飲ませた水に入れてあった。目を覚ましたお前が勝手に飲めば話が早かったんだがな」
彼女はそう言って小瓶のふたを空け、中身を一気に口に含む。そして――。
「んんっ……!?」
目にも止まらぬ早さで私の唇を奪い、強引に口の中へ液体を流し込んだ。
思わずそれを嚥下してしまった瞬間、先ほど感じていた熱いうすきが一気に全身へと広がる。
(やられた……!)
かーっと全身が熱くなって、じわりと汗が滲んでくる。同時に体が強い渇きを感じ始めて、思考する力がどんどん失われていく。
この渇きを満たして欲しい。理性をねじ伏せ、本能が願望を叫び始める。
(ダメだ。これは……ダメだ……)
小さなカケラほどに残った理性で、何とか体を奮い立たせようとする。
だが、自分を組み敷いて嗤う肉食の獣のような目に、私のそれも捕らえられてしまっていた。
女の顔がゆっくりと近づいてきて、そのまま耳元に息を吹きかける。
「……っ!」
涼しいそよ風のような感触が、背筋を貫くような快感へと変わる。
そのまま彼女は耳に口付けるような形で、こう囁いた。
「お前が何をして欲しいのか、私は全てわかっているぞ」
甘く、どこまでも甘く、全てを溶かすようなその声の一つ一つが快感となって襲い掛かる。
その瞬間、私の心と体は、完璧に屈服していた。