↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/32

第1話 目覚め

『昨夜、市内中心部で発生した能力者による暴行事件について――』


 朝っぱらから、また能力犯罪のニュースだった。


 テレビには、無惨に破壊された店舗が映っている。


 砕け散ったガラス。大きくへこんだシャッター。路上には規制線が張られ、その向こうを警察官たちが行き交っていた。


 俺――御影朔は朝食を口に運びながら、それをぼんやりと眺めていた。


『警察は能力を使用した人物による犯行とみて、特異能力社会調整機構《ARC》と連携して、男の行方を追っています』


「…………」


 またか。


 最近、本当に多い。


 画面が切り替わる。


 誰かがスマートフォンで撮影したものだろう。画質は荒く、映像は激しく揺れている。


 映っていたのは、一人の男。


 男が笑いながら拳を振り抜く。


 ――バァンッ!


 その瞬間、拳の前方から円状の歪みが一気に広がった。


 次の瞬間。


 数メートル離れていた人間が、真正面から叩きつけられたように吹き飛ぶ。


 悲鳴。


 逃げ惑う人々。


 その中心で、男だけが笑っていた。


『犯人は現在も逃走しており――』


「……また能力犯罪かよ」


 思わず口から漏れた。


 しかも、ニュースはそれだけでは終わらなかった。


『続いて、昨夜発生した別の能力事件について――』


「…………」


「最近こんなんばっかだな……」


 テーブルの端に置いていたリモコンを手に取り、電源を切る。


 プツン、と画面が暗くなった。


 別に能力者が嫌いなわけじゃない。


 ただ――テレビをつければ能力犯罪。ネットを見ても能力犯罪。


 能力を手に入れたからといって、好き勝手に暴れる連中。


 そんなニュースには、いい加減うんざりしていた。


「くだらねぇ」


 俺は鞄を手に取り、部屋を出た。


     ◇


 街は、いつもと変わらなかった。


 通勤や通学に向かう人々が行き交い、道路を車が走っていく。


 俺もその中に混じって歩いていた。


 今朝見ていたニュースのことなんて、もう頭にはない。


 能力者が起こした事件。


 そんなものはニュースの向こう側の出来事だ。


 俺には関係ない。


 ――そのはずだった。


「…………?」


 前方が、妙に騒がしい。


 何人もの人間が、こちらへ向かって走ってくる。


「逃げろ!!」


「能力者だ!!」


「……は?」


 次の瞬間――


 ドゴォォォン!!


「!?」


 少し先にある店の壁が吹き飛んだ。


 砕けた破片が道路へ降り注ぎ、辺りから悲鳴が上がる。


 逃げ惑う人々。


 そして、立ち込める煙の中から一人の男が姿を現した。


「…………」


 その顔を見た瞬間、俺は固まった。


 見覚えがある。


 というより――ついさっき見たばかりだ。


「……マジかよ」


 今朝、ニュースに映っていた男だった。


「ハハハハ!」


 男は楽しそうに笑いながら周囲を見渡す。


 そして、道路脇の看板へ向けて軽く拳を振るった。


 ――バンッ!


 拳の先から、円状の歪みが広がる。


 目に見えるほどに空間を震わせながら、衝撃波が看板へと走った。


 ドゴォン!!


 看板が根元から吹き飛ぶ。


「誰も俺に近づけねぇ!」


「…………」


 朝から能力犯罪のニュースを見て。


 外へ出たら、その犯人本人。


「勘弁してくれよ……」


 もちろん、戦おうなんて考えはなかった。


 俺はただの一般人だ。


 能力者を相手にして、どうにかできるはずがない。


 周囲の人間と同じように、その場を離れようとした――その時。


「お母さん!!」


「……?」


 声の方を見る。


 小さな子供が道路脇で座り込んでいた。


 逃げる途中で転んだらしい。


 少し離れた場所で母親が叫んでいる。


「早くこっちに来て!!」


「うぅ……!」


 子供は立ち上がれない。


 まずい。


 そう思ったときには、男も子供に気づいていた。


「邪魔だ」


 男が拳を振り上げる。


「……!」


 考えるより先に、身体が動いた。


 子供へ向かって走る。


「伏せろ!!」


 その身体を庇った直後――


 ――バンッ!!


 背後で、空間が震えた。


「ぐっ……!!」


 衝撃波が背中を直撃する。


 巨大な何かで殴りつけられたような衝撃に、身体が浮いた。


 そのまま地面へ叩きつけられ、何度も転がる。


「いっ……てぇ……」


「お兄ちゃん……!」


「いいから行け!」


 母親が駆け寄り、子供を抱えるようにして走り去っていく。


 よかった。


 そう思ったのも束の間だった。


「何だお前」


 男が俺を見ている。


 痛む身体を無理やり起こした。


「……ただの一般人だよ」


「一般人?」


 男が笑う。


「だったら大人しく逃げとけよ」


「俺だってそうしたかったよ」


「だったら消えろ」


 男の拳が動いた。


 ――バンッ!!


 円状の歪みが、真っ直ぐ俺へ広がってくる。


「ぐあっ!」


 避ける間もなく衝撃波をまともに受け、身体が吹き飛んだ。


 地面に肩から叩きつけられる。


「分かったか?」


 男が拳を見せつける。


「俺の能力は《衝撃》!」


「…………」


「触れる必要すらねぇ!」


 拳が動く。


 ――来る。


 ――バンッ!!


「がっ……!」


 まただ。


 今度は背中から壁へ叩きつけられた。


 肺から空気が押し出される。


 苦しい。


 でも――。


 殴られてはいない。


 男の拳は、俺に触れてすらいない。


「拳を振るだけで――」


 男が、もう一度拳を振り上げる。


 今度は目を逸らさなかった。


 拳が振られる。


 その直後――拳の先から、円状の歪みが生まれる。


 ――バンッ!!


「ぐっ……!」


 歪みが俺へ届いた瞬間、衝撃が身体を突き抜けた。


 また地面を転がる。


「テメェなんか吹っ飛ばせる!」


「…………」


 痛ぇ。


 身体中が悲鳴を上げている。


 何なんだよ、こいつ。


 能力があるってだけで――


 なんでこんなに好き勝手できる。


「どうした!」


 男が、また拳を振り上げる。


「…………」


 ――来る。


 何度も食らった。


 直接殴られているわけじゃない。


 拳を振る。


 その動作に合わせて衝撃が生まれる。


 拳を起点に、円状の歪みとなって広がり――離れた相手へ届く。


 ――衝撃そのものを、飛ばしてるのか。


 男が笑った。


「俺の能力がどんだけ強ぇか分かったか!」


「…………」


 俺は、ゆっくりと立ち上がった。


「……ああ」


「あ?」


「もう、お前の能力がどんだけ強ぇかは十分分かったよ」


 口元の血を手の甲で拭う。


「何回も喰らったからな」


「だったら――」


 男が拳を大きく振りかぶる。


「これで終わりだ!!」


 拳が振り抜かれる。


 ――バァンッ!!


 空間が大きく歪んだ。


 これまでとは比べものにならないほど巨大な衝撃波が、円状に広がりながら真っ直ぐ俺へ迫ってくる。


「……!」


 避けられない。


 身体も、もうまともに動かない。


 なのに――


 その瞬間、頭に浮かんだのは能力のことでも、自分が助かる方法でもなかった。


 ただ、無性に腹が立った。


 能力が強い。


 誰も自分には近づけない。


 何度も、何度も。


 そんなに自慢の能力なら――


 自分で喰らえばいいのに。


 そう思った。


 ただ、それだけだった。


 気づけば――


 俺は迫る衝撃波へ、両手を伸ばしていた。


 能力を使おうとしたわけじゃない。


 何かをしようと考えたわけでもない。


 ただ、無意識に。


 その瞬間――


 何かが。


 反転した。


 ドゴォォォォォン!!!


「ぐああああっ!?」


「!?」


 衝撃波が――逆方向へ走った。


 広がっていた円状の歪みが、まるで映像を巻き戻したかのように向きを変え、男へと襲いかかる。


 直撃。


 男の身体が激しく吹き飛び、地面を転がっていく。


「な……」


「…………」


 俺は呆然と、自分の両手を見た。


「なんだ……今の……」


 分からない。


 今、何をした?


「ふざけんな……!」


 男がよろめきながら立ち上がる。


「もう一発――」


 拳を振り上げる。


「…………」


 さっきとは違う。


 一度だけ――起きた。


 迫ってきた衝撃波が、逆方向へ返っていく。


 あの現象が。


「喰らえぇぇ!!」


 男の拳が振り抜かれる。


 ――バンッ!!


 円状の歪みが生まれ、再び俺へ迫る。


 さっきの現象――


 もう一度、起こせるか……?


「…………」


 試してみるか。


 今度は逃げなかった。


 右手を前へ出す。


 さっき起きた感覚を思い出す。


 ――逆だ。


 こっちへ来るなら。


 向こうへ。


「……返れ!!」


 ドゴォォォォォン!!!


「ぐあああああ!!」


 衝撃波が再び反転する。


 男の身体を直撃し、そのまま大きく吹き飛ばした。


 地面へ激しく叩きつけられ――


 今度こそ、動かなくなる。


「…………」


 静寂が訪れた。


 さっきまでの騒ぎが嘘だったように、遠くから聞こえてくるサイレンだけが街に響いている。


 朝までの俺は、能力犯罪のニュースを眺めながら、


 ――またかよ。


 そう、うんざりしていただけの。


 ただの一般人だった。


 なのに。


「…………」


 倒れた男を見る。


 そして、もう一度自分の右手へ視線を落とした。


「俺も……?」


 握って、開く。


「能力者……なのか?」


1話--END

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。