↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最低ランク《鎮静》の俺、その正体は催眠能力者 ――勇者のヒロインを静かに奪う  作者: 催眠スキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/26

閑話 普通のデート

 待ち合わせ場所に現れた澪を見て、一瞬、別人かと思った。


 ◇


 休日。


 駅前広場。


 約束の時間より、十分早く着いた。


 人の流れを眺めながら待っていると、横断歩道の向こうに澪が見えた。


 長い黒髪。


 歩くたびに揺れる、小さな鞄。


 そこまでは、いつもの澪だった。


 違ったのは服装だ。


 淡い青のトップスは、両肩が大きく出ていた。


 丈も短い。


 歩くたび、裾と黒いスカートの間から、白い腹とへそが見える。


 その白い肌は、腰のくびれをくっきりと浮かび上がらせ、細く締まったウエストが、上下の豊かな曲線を際立たせていた。


 スカートも、澪が普段は選ばないくらい短かった。


 そこから伸びる脚は、ストッキングも靴下もない生足だった。


 太ももは内側にわずかな隙間を残しつつ、外側に向かってなめらかに膨らみ、膝から下はすらりと長く、歩くたびに柔らかく揺れる。


 足元は、細い紐のついた黒いサンダル。


 身体に沿う服が、普段の制服や清楚なワンピースでは隠れていた線を、そのまま見せている。


 細く締まったウエスト。


 その上で際立つ、豊かな胸元。トップスの布が、張りのある双丘を下から持ち上げるように形を取り、歩くたび、わずかに上下に揺れた。


 短いスカートがなぞる、丸みのあるヒップ。後ろ姿からは、尻の膨らみが布を押し上げ、太ももとの境目が、歩くたびにわずかに覗いた。


 露出しているのは、肩と腹と脚だけだ。


 街中に同じような服の人もいる。


 それでも。


 澪が着ているというだけで、別の服に見えた。


 信号が変わる。


 澪がこちらへ歩いてくる。


「おはよう、透」


「おはよう」


 澪が俺の前で足を止めた。


「何?」


「いや」


「さっきから見てるでしょう」


「見てた」


「どこを?」


「服」


 澪が自分の肩からスカートまでを見る。


 何がおかしいのか、本当に分かっていない顔だった。


「変?」


「変じゃない」


「なら何よ」


「似合ってる」


 澪の目が少しだけ大きくなる。


「……そう」


「うん」


「それだけ?」


「きれい」


「急に言わないで」


 澪が顔を逸らす。


 肩は隠れない。


 髪を前へ持ってこようとして、途中でやめた。


「自分で買ったの?」


「当たり前でしょう」


「いつ?」


「一昨日。デートに着ていく服を探していたら、これが一番よかったから」


「澪が選んだの?」


「私が着る服なんだから、私が選ぶに決まってるでしょう」


「そっか」


「何よ、その反応」


「澪らしいと思って」


「そうでしょう?」


 澪は少しだけ満足そうに答えた。


 ◇


 俺は、今日の服を指定していない。


 店も。


 色も。


 形も。


 何一つ選んでいない。


 ただ。


 今日までの間に、短い言葉をいくつか置いた。


 透とのデートに着ていく服は、いつもより大胆なくらいが自然。


 肩が出ていても。


 腹が見えていても。


 脚が出ていても。


 鏡に映った自分を見れば、それが一番自分らしく見える。


 自分で探して。


 自分で試して。


 自分で買う。


 誰かに選ばされたとは思わない。


 実際。


 俺は今日まで、澪が何を買ったのか知らなかった。


 澪は自分でこの服を見つけた。


 自分で代金を払った。


 今朝も、自分の手でこれを選び、着替えてきた。


 そのすべてを。


 澪は自分の好みで決めたと思っている。


「透」


「ん?」


「行かないの?」


「行く」


「せっかく早く来たのに、ここで立っていたら意味ないでしょう」


「どこから行く?」


「本屋」


「最初から?」


「あなたに読ませる本を探すの」


「今日はデートじゃなかった?」


「デートでも本は選べるでしょう」


 澪が先に歩き出す。


 俺も隣へ並んだ。


 いつもの距離。


 肩は触れない。


 人通りの多い場所で、澪から腕を絡めてくることもない。


 服装以外は。


 普段と何も変わらなかった。


 ◇


 本屋で二冊。


 雑貨店で、澪が見つけた小さな栞を一つ購入した。


 昼食のあとには、駅ビルのカフェへ入った。


 澪の前にはプリン。


 俺の前にはコーヒー。


「一口食べる?」


 澪が聞く。


「いいの?」


「一口だけよ」


「じゃあ」


 澪がスプーンでプリンをすくう。


 こちらへ差し出しかけて。


 途中で止まった。


「自分で持って」


「食べさせてくれるのかと思った」


「人がいるでしょう!」


「二人なら?」


「……そのとき考える」


 スプーンを受け取る。


 一口だけ食べる。


「美味しい?」


「うん」


「でしょう」


 澪が満足そうに頷く。


 店の窓に、俺たちの姿が映っていた。


 肩も。


 細い腰も。


 組んだ脚も。


 短いスカートの裾から覗く、白い太ももの内側の柔らかな曲線まで、澪は一度も隠そうとしない。


 それが今日の自分にとって自然だから。


 ◇


 カフェを出たあと、駅ビルのゲームコーナーへ寄った。


 澪が入口で足を止める。


「ここに入るの?」


「嫌?」


「嫌ではないけど。あまり来たことがないだけ」


「じゃあ少しだけ」


 中へ入る。


 音が大きい。


 光る筐体が並んでいる。


 澪は落ち着かない様子で周りを見た。


「透」


「ん?」


「何をするの?」


「写真」


 奥に並んでいるプリクラ機を指さす。


「二人で?」


「他に誰がいる?」


「そうだけど」


「嫌ならやめる」


「嫌とは言ってないでしょう」


 澪が先にプリクラ機へ向かう。


「撮るわよ」


「うん」


 料金を入れ、背景を選ぶ。


 澪は青を選んだ。


「服に合うから」


「考えてるな」


「普通でしょう」


 撮影用の空間へ入る。


 薄いカーテンが閉まった。


 外の音が少し遠くなる。


 画面に、俺と澪が映った。


 並んではいる。


 でも、間には少し隙間がある。


 教室や街中で並ぶときと同じ距離だった。


『撮影を始めるよ!』


 明るい音声。


 画面に数字が出る。


 三。


 澪が俺を見る。


 二。


 澪が一歩近づいた。


 一。


 両腕が俺の腕へ絡む。


 肩が触れる。


 頬まで寄せてくる。


 その瞬間、澪の胸が俺の腕に柔らかく押し当たった。薄い布越しに、弾力のある感触が伝わり、温かい体温が肌を伝って染み込んでくる。


 白い光が瞬いた。


 一枚目。


 撮影が終わった瞬間、澪は腕を離した。


「次はどうする?」


 さっきまでと同じ距離から聞いてくる。


「任せる」


「一番困る答えね」


 画面が次の撮影を告げる。


 三。


 澪の表情が柔らかくなる。


 二。


 俺の正面へ回る。


 一。


 澪の腕が、俺の首へ回った。


 額が触れそうな距離。


 俺は澪の細いウエストへ手を添える。


 指の下で、薄い布を通して、くびれた腰の柔らかな肉感が沈み込む。


 同時に、澪の胸が俺の胸板に正面から密着し、豊かな膨らみが押し潰されるように形を変えた。


 布越しでもわかる、熱を帯びた弾力が、二人の間のわずかな隙間を埋め尽くす。


 白い光。


 二枚目。


 澪がすぐに離れる。


 自分の肩にかかった髪を整えた。


「今の、目を閉じてなかった?」


「たぶん大丈夫」


「失敗してたら撮り直すわよ」


「分かった」


 三枚目の案内が始まる。


 画面には、全身を入れるように表示されていた。


 三。


 澪が身体を斜めに向ける。


 二。


 片腕を俺の肩へ回す。


 一。


 澪が片膝を曲げ、膝から下を俺の脚へ軽く絡めた。


 身体ごと預けるように近づく。


 俺は倒れないよう、服に覆われた背中へ手を添えた。


 澪の太ももが、俺の脚に絡みつき、短いスカートの裾がわずかにめくれ上がる。


 柔らかい腿の内側が、俺の太ももに密着し、熱と弾力が直接伝わってくる。


 同時に、胸が脇腹に押し当たり、腰のくびれが俺の手のひらに深く沈み込んだ。


 澪は気にした様子もない。


 俺を見上げて笑っていた。


 白い光が瞬く。


 三枚目。


 光が消える。


 澪は脚を下ろし、俺から一歩離れた。


「終わり?」


「あと一枚」


「結構多いのね」


「疲れた?」


「写真を撮っただけでしょう」


 最後のカウントダウン。


 三。


 澪が俺の隣へ戻る。


 二。


 今度は俺の背中へ腕を回す。


 一。


 背中へ回した腕を強め、俺の肩へ顎を乗せた。


 写真の枠へ二人で収まるように、身体をぴったり寄せてくる。


 澪の胸が、俺の背中に柔らかく押し潰される。


 豊かな膨らみが布を通して背中全体に広がり、体温と弾力が、まるで吸い付くように密着した。


 腰も、ヒップの丸みまでが俺の尻に押し当たり、短いスカートの布越しに、柔らかな肉感が押しつけられてくる。


 澪は、それが写真を撮るときの普通の距離だと信じている。


 白い光。


 最後の一枚が撮られた。


『撮影終了! 外で待ってね!』


 音声が流れる。


 澪はすぐに身体を離した。


「行きましょう」


「うん」


 カーテンを開ける。


 外へ出た澪は、もう俺の腕にも触れなかった。


 ◇


 撮影の合図。


 それが、二つ目の条件だった。


 写真を撮る瞬間だけ。


 そこが街中でも。


 人のいる施設でも。


 澪にとっては、完全に二人きりの場所になる。


 二人きりなら自然だと思う距離まで、ためらわず近づく。


 撮影が終われば、距離感も元へ戻る。


 一枚目が終われば離れ。


 次の数字が出れば、また近づく。


 澪は、その繰り返しに何も感じない。


 俺も何も教えない。


 少しして、機械から同じ写真が印刷されたシールが二枚出てきた。


 澪と一緒に覗き込む。


 俺の腕へ両腕を絡め、頬を寄せている澪。胸が柔らかく押し当たっている姿が、はっきりと残っていた。


 首へ腕を回し、俺に抱かれている澪。正面から密着した胸の形が、布の上からでもわかる。


 短いスカートから伸びた脚を、俺の脚へ絡めている澪。


 太ももが絡みついた瞬間の、柔らかな肉感までが写真に残っている。


 身体を隙間なく寄せ、俺の肩へ顎を乗せて笑っている澪。


 背中に押し潰された胸と、尻の丸みが、密着の深さを物語っていた。


 写真の中には。


 今日の服も。


 撮影した瞬間の距離も。


 全部残っていた。


「澪」


「何?」


「近くない?」


「恋人同士で撮った写真でしょう」


「そうだけど」


「何よ。普通の写真じゃない」


 澪は本気で不思議そうだった。


「一枚、もらっていい?」


「二枚あるんだから、最初からそのつもりでしょう」


 片方を渡される。


 財布へしまう。


 澪は自分の写真を、鞄の内ポケットへ大事そうに入れた。


「なくさないでよ」


「澪も」


「私はなくさないわよ」


「本当に?」


「信用ないわね」


 澪が少し笑う。


 ゲームコーナーを出る。


 人の多い通路。


 澪はいつもの距離で、俺の隣を歩いている。


 大胆な服装を少しも気にしないまま。


 鞄の中には、俺へ身体を絡めた写真が入っている。


 でも。


 澪にとっては。


 今日着る服を選んだのも。


 写真の中で俺へ近づいたのも。


 全部。


 自分の自然な判断だった。


「透」


「ん?」


「次はどこへ行くの?」


「澪が行きたいところ」


「また私に決めさせるの?」


「嫌?」


「嫌ではないけど」


 澪が少し考える。


「少し歩きたい」


「分かった」


 二人で歩き出す。


 澪にとって。


 今日は。


 どこにもおかしなところのない。


 普通のデートだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。