表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして僕らは楽園で出会った。  作者: 北上 柊助


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/21

第二章−別行動−【第四話】

 ────廃都市地帯、その郊外にある住宅街。

 ソイル・ぺルソンは火照った身心を、水筒の水で冷ましながらアスファルトの上を歩いていた。照りつける日差しと生暖かい風は、ソイルの苛立った感情を燃やす薪としては十分であった。

 メディと離れて20分程が経った今、ソイルは依然として成果となる物を見つけられていなかった。加えて、巡る景色が全く変わらず、建つ民家のほとんどが倒壊している様ばかり目に入る、代わり映えの無さに苛立っているのだ。


「……クソ。何もないじゃないか」


 正直、期待をしていた。

 崖の上から見た住宅街は倒壊している建物が大半だったが、自分の見えていない所に残った建物の一つや二つはあると思っていた。

 だが、実際にあるのは崩れた家ばかり。残骸には草木が生えて、一部の場所には背の高い木だって生えていた。青いの下に響き渡る蝉の音は、そんな情景を嫌でも脳に焼き付ける。


「残った民家、民家ねぇ……。もうそんなもの残ってないんじゃないのかぁ?」


 再び水筒に口をつけ、その歩みを緩めていく。

 そうしてふと、電柱から垂れた電線に目がいった。


「電柱がこうなるくらいに時間が経てば……どれだけの文明が死んで、どれだけの文明が興るんだろう」


 推定でも数百年。少なくとも、滅んでからそれ程の年月を重ねたこの都市が今に至るまでの間、世界は、人間はどのようになっているのか。

 そんな疑問がソイルの脳内に過った。

 元来、シャングリラでは外交が無く、外の世界をこれっぽっちも知らないソイルからしたら、その疑問への好奇心こそが歩みを進める理由の一つになっていた。

 加えてもう一つ。シャングリラがどうして外の世界との接触を拒んでいたのか。その疑問も気になってしょうがない。


「今のシャングリラの暦は────『閉暦826年』。少なくとも、シャングリラはできてから800年近くは経過してる。……もしも、外界の年の数え方が同じなら、同じく外の世界も800年は続いている事になるけど……」


 シャングリラはそれ程長い時間を積み重ねてきたにも関わらず、外界との関係を持とうとしなかった。それがどうにも気になる。


「もしも都市を発展させていくのなら、外界との関わりは持った方がいいよな……。でも、シャングリラはそれを持とうとしなかった……どうしてだろう」


 メディの持つ禁書、エリュシオン・マグナを解読すれば解る事かも知れないが、現在はそこまで解読が進んでいる訳でもない。つまるところ、現在時点での真相は自分で考えるしかないのだ。


「もしも、この都市の壊滅した理由と、シャングリラの外界との接触を嫌がる理由が同じなのだとしたら……どうなる?」


 しかし、どちらかの理由が未だはっきりとしないうちは、この仮説は考えようもない。想像を想像で上塗りする考察程、都合の良い解釈が生まれない事はない。


「はっきりとしないなぁ……ピースが少なすぎる」


 考え、首を振ってから道の角を曲がる。

 そうして、疑問を抱えて歩き、暫くが経過して、ふとソイルの目に喜ばしい風景が映った。


「あっ」


 角を曲がったとき、すんなりと見えたその景色はまさに、ソイルの求めていた物だった。


「こいつは、想像以上の代物じゃないか……!?」


 結論、そこにあったのは大きな木造屋敷であった。

 広大な敷地はその全体を鉄製の柵で覆われており、鉄柵内の屋敷外に広がる庭園は手入れされていない為か、芝生であった場所が雑草に侵食されていた。

 しかし、そこに佇む屋敷は持ち主が相当の金持ちで屋敷の整備をこまめに行っていたのか、その屋敷だけは原型をまともに残したままの状態だった。


「お邪魔しまーす……」


 誰も居ないはずだとは分かっていたが、周囲の建物と比べてあまりにも整然としていたその様に、ソイルは鉄柵を恐る恐る開けた。

 錆びた鉄柵が唸る音を上げて、ソイルを迎え入れる。

 何事も無いのを確認し、そのまま本命の屋敷へと足を向けたが、そこでメディの言葉が頭を過った。


『危険だと判断した建物には近寄らず、その建物が危険かどうかを判断するための観察も慎重かつ時間をかけて行うこと』


「……うーん」


 どんどんと屋敷の中へ中へ進んでいきたい好奇心を必死に堪え、まずは敷地内からぐるりと回ることにした。


「やっぱり、庭は特に何も無しって感じだな。池も濁って汚いし……。けど、外観を見るに、どれだけこの屋敷本体だけが大事に作られたか分かる」


 四方、どの面から屋敷を見ても窓は一つも割れていないし、壁に若干のくすみを含んで色褪せているのみで、ヒビの一つも欠けている個所ですら存在していない。


「となると、後は中か」


 ソイルにとっての本命本題。跳ねる気持ちと同居する緊張、それら全てを呑み込んで扉に手をかける。


「……ふぅ」


 軽い深呼吸をして、扉を引いたそこには────


「…………え?」


 驚きの瞬間と。


『バンッッ!』


 無人の都市には似つかない、しかし、確かに銃声が響き渡ったのであった。


◆ ◆ ◆


 ────一方、住宅街東方面をメディは進む。

 背中にはオディギアを背負い、ひたすらに歩く。


「メディ……? ソイルは?」


 そこでオディギアが目を覚ました。


「少し離れたところを歩いているだけですから、心配しなくても大丈夫ですよ」

「そっかぁ……。これはどこに向かってるの?」

「ひとまずは目ぼしい物探しですが、正面の建物から調べようと思っていました」

「正面……あの四角の建物?」

「はい、そうですね」


 ソイルが見ていたのと変わらぬ風景を歩んでいく、メディとオディギア。しかし、その先には、明らか周囲の民家とは違う雰囲気を放つ建物があった。


「恐らくはコンクリート製に見えますが、ビルと同じくらいに耐久性の高い建物だったのでしょうね。かなり原型は留めています」


 民家とは違い、角張った外観。周囲には駐車場らしき場所があり、窓はやはり割れていた。


「何か特別な、公共施設のような物だったのでしょうか。民家にしては雰囲気が違い過ぎますし」

「そうなの?」

「オディギアさんは……そうですね。見たことのない建物ばかりかもしれませんから、それなら雰囲気の違いも分かりづらいかもしれませんね」

「んー! 分かる! 分かるよーだ!」

「……ふふっ。本当に可愛らしいんですから」

「ふんだ! 褒めても何も出ないよ!」


 仲睦まじく、メディとオディギアはその廃墟へと進んでいく。近付く道中、建物を観察してみたが別段危険性は無さそうだった。

 そうして建物の前に立ち、ガラス製の内開きドアを開く。


「ロビー、でしょうか。それにしては余りにも……」


 日差しは廃ビル同様に入って来ておらず、廊下の奥へ奥へと暗闇が走っている。

 長椅子がバラけるように設置されていた。床にはチラシやファイルなどの紙類が散在しており、まるで何かに荒らされたかのような状況だ。


「オフィスや、飲食店だけは荒らされた形跡が無かったのに、どうしてここだけがこんなにも……?」

「ここって、どんな場所なの?」

「恐らく……それは────」


 黒ずんでおり、過去に白かったのであろう壁。受付や、待合室に見えるロビーはさながら……。


「病院、でしょうね」

「びょーいん……? 何それ?」

「簡単に言えば病気や怪我を治すところの事です。……なんですが、少し様子が変というか……」

「変?」

「はい」


 これまでに見てきた建物で、その荒れた様相は人による物ではないと断言できたものであった。しかし、この廃病院ではそれが作為的なものであると断言できた。


「地震や建物の崩壊など、自然的な要因で滅茶苦茶になってしまった場所にはないものが、ここにはあるんです」

「なにそれ?」

「『目的』です」

「目的?」

「例えば、受付カウンターであったはずのあそこです」


 メディはオディギアに分かりやすいように指を差す。


「机の上は、紙類でいっぱいですが……問題は受付机のその奥です」

「奥……あの変な四角が倒れてる所?」


 オディギアの言った変な四角とは、所謂『パソコン』と呼べる物であった。

 そして、カウンター奥のそこには机が、やはり位置のバラされた状態で点在していた。加えて、卓上にあるはずのパソコンは床に転がっており、引き出しも開きっぱなしの状態だ。


「はい。その四角が床に倒れているのもそうですが……何よりも、全ての机の引き出しが開きっぱなしなんです」

 

 引き出しを確認しようと、亀のような足取りで警戒しつつ、カウンター奥へと進んでいく。

 

「ねぇメディ、危ない気がするよ……。ここを進むのはやめておかない?」

「それもそうですが。大丈夫です、周囲に生物の気配はありませんよ」

「なんでそんな事分かるのさぁ……」

「私には、そんな特殊な力があるんです。信じてください、オディギアさん」

「うぅ……ホントだよねぇ……」


 怖がるオディギアをなだめて、開いた引き出しを確認する。

 中にはファイルや、机の主の私物らしき物などがあったが、どれもが色褪せつつも、状態は良い物ばかりであった。

 しかし────


「やっぱり……妙です。どれもが昔の物々であるはずなのに埃を被ってない……」

「うーん? つまり?」

「近い時間、それもかなり。誰かがここに居た……という事になりますね」


 しかし、ロビーに散らかっていた紙類や長椅子らは埃を被っていた。つまり、作為的にここが荒らされているのと、この引き出しを開けられた事は繋がりのない事なのだ。


「疑問が一気に二つも増えましたね……。ですが取り敢えず、本来の目的は目ぼしい物の捜索ですから。早い所成果を見つけて、ソイルさんと合流しましょうか」

「ソイルに会えるなら大賛成! 早く終わらせよ!」


 生物の気配は無くとも、慎重に警戒して病院の奥を進んでいく。

 薄暗い廊下に、コツコツと足音だけが響く。それは、その場にメディとオディギアしか居ないという証拠でもあるように思えた。


「何も見えないよー」

「光が差し込んでいませんからね、オディギアさんは見えにくいかもしれないです」

「メディは見えてるの?」

「はい、見えていますよ」

「……ずるいなー、私もそんなんだったら夜困んないんだけどなー」

「夜は休む時間ですから、しっかり休んでください。そうして、休むのなら夜目が利く必要もないですし」

「ごもっともだけどさー。一日があまりにも短すぎるのが悪いよ。もっとやりたい事だってあるのに」

「子供でそんな事を言うのも珍しいですが……休む時にしっかりと休まないと、いざというときに動けませんよ?」

「それもそっかぁ……」


 メディとオディギアの声が廊下に木霊する中、診察室らしき場所へと入る。

 しかし、診察室はロビー同様に紙類がそこら中に散らばっていた。その様子は、やはり人の手によって行われたもののように見えた。


「引き出しも開けられてる……。この感じなら、これから先の部屋も誰かが居た可能性が高いですね」

「今の探し物もその人が持ってっちゃってたりするのかな」

「可能性としては捨てきれませんね。……進みましょうか」


 診察室を出てから、廊下に繋がる部屋の一つ一つを調べていく。そんな中で、ふと気になる扉が目に入った。


「ここは?」


 これまでスライド式であった扉が、そこだけノブのついた鉄扉になっていた。明らかに重要な物を管理しているようで、鍵もかかっている。

 中に生物の反応が無いのを確認してから、オディギアを廊下へと座らせた。


「え、何々メディ? 何するの?」

「大丈夫ですから、そこに居てください」

「え、あ、うん」


 メディが扉の前に立ってから、一歩、二歩、と距離を空けていく。

 そうして軽く助走のついた辺りで、オディギアはメディのしようとする事を理解した。

 しかし、それに気付いた時には既に遅く……。


「ハァァッ!」


 いくらその相手が満身創痍だったとはいえ、戦闘に長けたファイトロイドの頑丈な装甲すらも砕いたメディの脚力が鉄扉へと向けられる。


「ひぃ……!?」


 鳴り響いた轟音にオディギアが怯むと共に、中心が凹んだ扉がバタリと倒れる。同時に、冷ややかな空気がメディとオディギアの頬を撫でた。


「なな、なんで急に蹴り開けたりなんてしたのさぁ。びっくりしたぁ」

「すみません、オディギアさん。手っ取り早くこの部屋を開ける為に……つい」

「うぅ。別にメディに怪我がないなら良いけど……ホントびっくりしたー」


 メディは再び謝ると、オディギアを背負い直す。そうしてから、強引に開けた部屋へと、警戒を忘れずに入っていく。


「なんか寒いね」

「壁が熱を逃がしやすい素材でできているようですから。辛かったら言ってください」

「はーい」


 薄暗いその部屋は、無数に棚が並んでいた。その上には液体の入ったアンプルや、未開封の箱々がぎっちりと並べられている。


「さしづめ、医薬品管理室でしょうか」

「何それ?」

「病気や怪我に効く薬品を保管しておく所です」

「お、おぉー! それじゃあ、目ぼしい物って奴なんじゃない?!」

「それはそうなのですが、如何せん、薬品には期限があります。大体の物は未開封未使用で4、5年保てばいい方ですから」

「えー……それじゃあ、ここに在る物は皆役に立たないの?」

「そうなりますね。……ですが、全部が全部、無駄な訳ではないかもしれません」

「え? どうして?」

「ここにある薬品。物によっては、どうしてこの都市が滅びたのか、そのきっかけを知る事ができるかも知れないからです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ