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魔法少女が死ぬ前に  作者: 宮塚慶
第2章 戦う意味、戦う決意

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第15話 知らない一面

 抱え込んでしまうドロシーさんに救いの手を差し伸べるなんて言われても、想像もできない相談だった。

 少なくとも今日に至るまで、ドロシーさんはしっかり者のお姉さんだと認識している。俺みたいな若輩者がなんとかしてあげようなんて、おこがましいとさえ感じる。

 ただ、付き合いの長いメアリさんがそう言うからには、気丈に振る舞う彼女の姿は仮面でしかないのだろう。本当の姿を俺はまだ見たことがない。

 消えかかる命の灯火を前にした少女からのお願い。張りつめた空気に肝が冷える。

 と、真剣な眼差しをこちらに向けていたメアリさんがフッと息を吐き出した。


「なんてね」

「えっ?」


 これまで俺に見せることのなかった、緊張から解かれた穏やかな表情を見せるメアリさん。敵意のない彼女の姿に、俺は当惑しっぱなしだ。

 あまりに緩和した様子から、一瞬、ここまで聞かされた話がすべて嘘だったのではないかと感じた。なら俺と二人で話し合いの場を設ける必要なんてないので、そんなはずないと俺は頭を振る。


「私の寿命が尽きるって言っても、何も今日や明日の話じゃない。組織だって心積もりできる期間は用意してくれてる」


 語られた真実は、あくまで俺の想定よりメアリさんの猶予が残されていることだけ。それは安心材料にはなり得なかった。

 別に彼女のタイムリミットが一日だろうが、一ヶ月だろうが、一年だろうが同じことだ。良かったとは思えないし、どうにかしてあげたいという気持ちも変わらない。

 まるで今の言葉で終わりだと言わんばかりに大きく伸びをしたメアリさんを見て、なんと返事をすればいいのか困ってしまう。


「ほら。しけた顔すんなよ、荒城イサト」

「あ、ああ……」


 こんな状況で、はじめて彼女に名前を呼ばれた気がする。

 距離が縮まったと喜ぶ余裕はなかった。


「私はさ」


 今までにない柔和な雰囲気を漂わせて、メアリさんは世間話でもするように軽く話してくれる。


「ウイカのこと、今でも許してない」

「でも、ウイカは」

「まあ聞けって。仕方ないのは分かってる、たとえスザンナの相棒が私だったとして、守れたという保証なんてない。みんなやれることをやって、ああなった。全部は終わったこと」


 俺が彼女を諭すまでもなく、全てを理解していると吐露してくれた。

 ならば、もう少し歩み寄って欲しい。三人の魔法少女、それぞれの力は絶大なのだから、全員で手を取り合えばもっと戦いやすくなるはずなのに。


「それでも私がウイカを許すと、スザンナのことは思い出になってしまうんだよ。過去の出来事として、魔法少女の死は当たり前の中に消えてしまう」


 魔法少女の死という言葉は、今でも受け入れがたい凄みがある。

 俺は思わず口を挟んだ。


「当たり前なんかじゃない。もしもメアリさんの寿命が尽きたって、俺はメアリさんを忘れたりしない」


 当たり前のことだが、死を割り切ることは忘れることなんかじゃない。それだけは自信を持って言える。

 俺の言葉に、メアリさんは意外そうに瞳を揺らした。


「へえ。面白いこと言うじゃん」


 別に面白くはないのだが、彼女は興味深げに口の端を上げる。


「私がウイカを認めなくても、残り時間を思えば大した話じゃない。だから、その話はドロシーにしてあげて」

「メアリさんだって生き残らせてみせるから、そんな言い方するなって」

「はいはい」


 あしらうように言うメアリさんの表情は無邪気で、今までの対応とはまるで異なる。険のない彼女は、小さな身長も相まってか可愛らしく見えた。

 死を間際にして俺に敵対心を向ける意味がないと悟ったのかもしれないが、おかげで以前よりもグッと話しやすくなった気がする。


「ドロシーだって、スザンナの死がウイカのせいじゃないって本当は分かってる。それでも、一番の親友だったあの子がそれを認めてしまうのは残酷なんだ」


 相棒のことを思いながら、メアリさんは視線を遠くへ向ける。


「同時に、皆に分け隔てなく優しかったスザンナの後ろ姿をドロシーは追いかけてる。それはウイカ相手でも例外じゃない」

「ドロシーさん……」


 ウイカを許してスザンナさんの死を過去のことにする恐怖。同時に、スザンナさんのように誰にでも優しくしたいという葛藤。その狭間で、ウイカにどう接するべきかドロシーさんはずっと悩んでいたのだ。

 あれがドロシーさん本来の明るさなのだと無邪気に信じていたのを申し訳なく思う。俺はまだ何も知らなかったんだな。

 メアリさんは、ククッと喉を鳴らした。


「もう一回言うぞ、荒城イサト。しけた顔すんな、あんたならドロシーとだって仲良くできるから」


 席から立ち上がったメアリさんが、テーブルの向こうからこちらに回り込んできて、ポンと俺の背中を叩く。

 彼女にそう言われると、なんだか出来る気がしてきた。


「メアリさんとも、仲良くできる?」

「それは知らない。私はあんたが嫌いだから」

「なんだそれ」


 言いながらも、彼女は以前ほど突っかかってくる雰囲気ではない。なんだか安心して言葉を聞くことが出来る。


「さて、戻ろうか」


 メアリさんはそう言って、部屋の扉に目をやる。俺も首肯した。


「ああ。今日の話は、別にドロシーとすぐに何かしろって意味じゃないから。少しずつ、あの子を支えてあげて」


 やはり、しっかり者のドロシーさんを支えるというのはイマイチぴんと来ない。

 しかし、メアリさんが俺に期待してくれている。背筋を伸ばして俺は彼女の言葉を受け取った。


「やれるだけやってみるよ」

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