第10話 魔法少女が死んだ日
スザンナに誘われてドロシーの茶会に参加し始めると、自然と魔法少女同士のコミュニケーションも増えてくる。
ドロシーやメアリは顔を合わせれば話しかけてくるようになったし、私も自然と他の子に挨拶をするようになっていた。
他人と接するのは思ったより悪くない。いつしかそんなことを感じるようになり、自分の変化に戸惑ってしまう。
そんなある日。
獣魔の出現を検知して、私とスザンナはスペルフィールドへと出撃した。
「スザンナ!」
「だ、大丈夫……!」
その日出会った敵・ウンディーネは水を操る女性型の獣魔だった。素早い行動は捉えること自体が難しく、炎の魔法を基礎とする私とは属性相性も悪い。
攻撃自体はさほど強くないが、手数で押し切られるとこちらは防戦一方。スザンナも覚えたての防御障壁を張って懸命に踏ん張っている。
時間が掛かればそれだけ魔力消費量も増えてしまう。私は一か八か、普段使わない別属性の魔法をイメージした。
だが、そこでウンディーネが動く。こちらが集中を高めようと一瞬目を離した瞬間、巨大な水の砲弾で私の体を弾き飛ばした。
「ぐぅッ……!」
急いで防御するも、バリアごと吹き飛ばされて私とスザンナは場所を分断される。
スザンナの方に向かれると守り切るのが難しくなる。私は炎の魔法を咄嗟に発動して、敵の視線をこちらに集中させた。炎は敵の水を前に雲散霧消する。
魔法少女の多くは、一属性に集中して技を覚える。魔法は想像力を具現化するところから始まるため、一番イメージしやすい形に一極集中した方が戦いやすいのだ。その分、相性の悪い相手を倒す際は相棒に頼る。そのためのバディのシステムだった。
けれど新米のスザンナには得意な魔法がない。ウンディーネにダメージを与える隙は、私自身が作らないといけない。
一応、私は他属性の技も使えるように訓練している。しかし、それでも炎よりイメージに時間がかかる以上、何処かでタイミングを作らないといけなかった。
そうなると、問題はスザンナの安全だ。彼女を守りながらの戦いで、集中する隙を見つけるのは難しい。今なお続く敵の激しい水撃を防御魔法で抑え込みながら、必死に思案する。
「スザンナ! 大丈夫?」
相棒も懸命に敵の攻撃を弾いていた。訓練どおり、攻撃が当たる寸前に一瞬防御壁を生み出し、魔力の消費を抑えながら戦っている。
これだけでも大したものだが、褒めて伸ばすような余裕はない。
「私は大丈夫! ウイカ、何か策はある!?」
こんな状況で、それでもスザンナははにかんで見せた。
安心しろ、と伝えてくれたのだ。今は彼女の心配よりも策を練らなくてはならない。
ウンディーネは体が水で出来ており、生半可な攻撃では倒せない。破壊した部位も、空気中の水素をかき集めて再生してしまう。
相手を凍らせたり、雷を叩きこめば、相性的にもウンディーネは弱るはずだった。しかしそうした属性魔法は得意分野ではないので、時間を作らないと厳しい。
もっと単純に、炎技の火力を上げて相手を蒸発させるのはどうだろう。魔力を限界まで引き出せば相手の水分を奪い取ることができるかもしれない。
それでも、自身の寿命消費を思うと無駄な魔力を使うのは惜しいと感じる。
どれが正解の選択肢か。
しかし、考える猶予は与えられなかった。
「ウイカ、危ない!」
スザンナの叫ぶ声がして、ハッと視線をあげる。
気づけばウンディーネが目の前にいた。しまった、また集中力を欠いて……!
「はやい!」
敵は遠距離攻撃を止め、水圧の拳で直接こちらを殴ってくる。内臓を抉られるほどの激しい一撃に吹き飛ばされ、視界が暗転した。
お腹に直接打撃を喰らい、息ができない。そのまま建物の外壁に叩きつけられて一瞬意識が遠のく。
まずい。こんなことをしている場合じゃないのに。
「が、アァ……」
嗚咽が漏れる。口から鉄の味がした。あばら骨が持っていかれたのか、腹部に鈍痛が走り続けている。
ぐらつく視線を持ち上げると、ウンディーネがスザンナに向けて飛び掛かっていくところが見えた。
「すざ、ん……!」
声がうまく出せない。駄目だ駄目だ駄目だ、私は彼女を守って戦う立場なのに。
痛みに震えながら無理矢理に立ち上がる。視界が赤く染まってよく見えないのが鬱陶しい、目の内側で血管が切れたのかもしれない。
とにかくまずは防御壁。スザンナを援護して、それから……。
「ウイカ! 私は大丈夫だから、思いっきり技を放って!」
彼女が叫ぶ。
スザンナに向けてウンディーネの鋭いパンチが振るわれようとしていた。それを防御壁を多重に展開してガード。相手の重い一撃は何枚かの障壁を破壊したが、彼女の機転により全てを割られることはなく、完璧に防ぎ切っていた。
そうだ。いくら見習いとはいえ、あの子も訓練を受けた魔法少女。
スザンナを守ることばかり考えていた思考を振り払い、私は敵を倒すことに集中する。隙を作ってくれている今のうちに、ありったけを叩き込めれば。
「我が炎を以て悪しき魔を穿て。――地獄の業火」
今の状態で他のイメージを膨らませる集中力はない。ならば、得意の炎を全力で撃ちこむ。辺りを焦土と化すことを選んだ。
ウンディーネがこちらに気づく。まだだ、もっと炎の熱を高めて相手を消し飛ばすほどの力を想像しないと。
「獣魔! 私の方を見なさい!」
スザンナが拙い攻撃魔法でウンディーネを攻撃。大したダメージにはならないが、再び視線を向けさせることに成功する。
ありがとうスザンナ。これでより深く、魔法の拡大ができる。
「ウンディーネを消し去るほどの熱……。私なら、できる……」
想像しろ。このスペルフィールド全土を燃え上がらせるほどの炎を。
体のダメージが思ったよりも深刻なのか、得意の炎魔法すら練り上げるのに時間がかかる。耐え忍ぶスザンナに感謝しながら、私はなんとかイメージを形にしていく。
だが、そこでウンディーネの攻撃手段が変わった。
あまりに早い動作に私は警告を発する余裕すらないまま、その光景を目にする。
「……えっ?」
スザンナも、何が起きたのか分からずに気の抜けた声を漏らしていた。
気がつけば彼女の腹部へ、槍状に尖った水の柱が突き刺さっている。ウンディーネが瞬時に形づくり、そのまま投擲したのだ。
「スザンナ……!」
ぐらりと体が傾き、スザンナはその場に倒れ込む。刺された腹部から一気に血が溢れ、辺りに血だまりを作った。
伏した彼女の瞳がこちらを見る。その中にある生気が急速に失われていくのを、私は肌で感じていた。
――私の行動が遅すぎたせいだ。魔力消費を躊躇わず、もっと素早く魔法を発動できていれば。




