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魔法少女が死ぬ前に  作者: 宮塚慶
第1章 普通の世界を、変える出逢い

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第22話 全部お見通し?

 アザラク・ガードナーを訪問してから、既に数日が過ぎた。

 あれからウイカとは話していない。クラスで会った際に素っ気なく挨拶はするが、休み時間になると彼女はふらっと外に出ていくし、関わらないでと言われた手前、俺もどうしていいか分からなかった。

 俺たちが突然距離を置き始めたので、当然真凛(まりん)幸平こうへいをはじめとしたクラスメイトも何事かという空気になっている。


「イサト。結局、何があったの?」


 昼休み。食事をしながら心配そうに声をかけてきたのは真凛だ。たぶんこの心配は、俺じゃなくてウイカに対してのものだが。


「まあ、ちょっとな……」

「もーう! 二人してそればっかり!」


 二人して、ということはウイカも同じような返事をしたらしい。「別に」とか言ったんだろうな、というのは想像に難くない。

 実際、部隊や魔法を絡めずに現状を説明するのは無理に近い。たとえ話をしようにもうまく表現できるとは思えないし、真凛や幸平になんと言っていいのか分からん。

 ウイカはその辺、上手くやれてるんだろうか。彼女のことなので、うっかり魔法について漏らしたりしていそうだが。

 ……って止め止め。今さら俺が彼女の心配をしてどうする。


 ――でも、好きなんでしょ? ウーちゃんのこと。


 ドロシーさんの言葉が頭に蘇る。

 言われても、自分の気持ちはよく分からなかった。

 たしかに拒絶されるまで、俺はウイカのことを知りたかった。でも、それは魔法に対する興味や憧れが強かったし、あいつが妙に危なっかしくて見ていられない雰囲気を持っていたからだ。

 少なくとも恋愛感情ではない……と、思う。

 大体、俺はセクシーな女性の方が好みだ。ウイカはあまりにもちんちくりんで、並んでいると中学生、下手すれば小学生と一緒にいる気分になる。

 そう。タイプじゃない。

 なんてことを自分の中で何度か考えて、結局結論がよく分からなくなって止めるのを、この数日繰り返していた。


「ウイカちゃんと喧嘩してるなら、あたしが取り持ってあげるからさ!」


 真凛が明るく提案してくれる。


「いや。そういうのじゃ、」

「まあまあ。二人の問題なら二人に任せるべきだよ」


 隣で幸平がそういって真凛を止めてくれた。助かる。

 しかし、他の人はともかく、二人には少しぐらい事情を説明した方が色々と円滑に進むような気がする。そうもいかないのは分かっているんだが。

 現状が平行線すぎて、ついそんなことを考えていた。

 気分が晴れない。ここ最近はずっと憂鬱だ。

 チラりとウイカの方を見る。昼休みの彼女は村瀬むらせユミたちのグループに混ざって弁当を広げていた。最初は向こうでも俺との状況を聞かれていたようだが、気がつくとその話題も出なくなっていた。

 ふと、向こうも俺を一瞥する。視線が一瞬重なって、どちらからともなく目を離す。

 こんなぎこちない牽制をしながら、互いに距離を置くだけの期間。

 居心地が悪い。


「イサト、ちょっといいかい?」


 こんな調子の俺に対して、幸平がふと問いかけてきた。


「なんだ?」

「放課後、時間ある? 男同士、積もる話でもしようよ」

「いや。この件についてなら、二人の問題なら二人に任せるべきじゃないのかよ」


 言い返すと、幸平はフッと笑った。意図の分からない笑みに俺は眉をひそめる。

 男同士の話って、なんだ?


「何々? あたし抜きで何の相談よ」


 突然話題の輪から外されて、真凛も顔をむくれさせている。

 しかし、幸平からこんな提案が出るのは珍しい。厄介事に対して仲裁役やストッパーになるありがたい友人だが、自ら首を突っ込もうとしない思慮深さを持ち合わせている冷静な男というのが、俺の中でのこいつの評価だった。

 とはいえ、吐き出してスッキリしたいのも事実。魔法や部隊については話せないにしても、幸平になら上手く伝えられるかもしれない。


「まあ、いいか。じゃあ放課後な」

「だーかーらー。あたし抜きで何の相談なのよ!」


 〇 〇 〇


 放課後の体育館裏。内緒話なら此処と相場が決まっている。

 俺と幸平は連れ立ってやってくると、周りの目を気にしつつ、体育館の壁にもたれかかるようにして立ち並んだ。

 しかし、何から話したものか。この会合を提案したのは幸平なので、そっちから話題を振ってくれると助かるのだが。いや俺の話なのに他人任せで悪いんだけどさ。

 と思っていると、幸平はかなり意外なところから話を切り込んでくる。


「もうすぐ期末だけど、勉強は進んでるかい?」


 なんだいきなり。

 もっと踏み込んだ話をされると思っていたので、世間話すぎるジャブに面食らう。


「え? いや、あんまり……」

「それはよくないね。僕ら学生の本分は勉強だよ」


 柔和な笑みは崩さず、何やら説教臭いことを言う幸平。

 なんだ? どういう話をするつもりなんだろうか。


「何してるのかは知らないけどさ。イサトがウイカさんと、なにかしてるんだなーっていうのは、見ていれば分かる」

「……すまん。詳しい話はできなくて」

「いいよ。誰にでも秘密はある」


 言いながら、幸平の顔に暗い影が差した気がした。

 秘密。魔法や部隊のことを秘密にするというのは、ウイカとの約束だ。そんなウイカから拒絶された俺は、この契約を律儀に守る必要があるのだろうか。

 幸平なら信頼できるし、いっそ此処で話してしまったらどうなるのだろう。


「もう一度言うけど、僕らは学校に勉強しに来ている。それが僕らの日常。僕らの普通だ」

「普通、か」


 偶然だろうが、急に核心めいた言い方をされてドキりとする。

 ウイカの普通と俺の普通。

 ここまで、ウイカの世界にどう寄り添うかということばかり考えていた。だが俺にだってテストもあるし、終われば夏休みも待っている。俺の日常があるんだ。

 言われるまであまり考えてなかった。


「僕はね、イサト。揉め事や厄介な話には極力踏み入らないタイプだ」

「知ってるよ。それで助かることも多い」

「それなら何より。でも、君は違うだろう?」


 そうなのか? 自分の性格は自分であまり分析できていない。

 違うということは、俺は揉め事に率先して首を突っ込むタイプなのか。そんなはずはないと思うが。


「君は普段素っ気ない癖に、困った人がいたら放っておけない。この前の話も聞いたよ、村瀬さんの」

「え? いや、あれはウイカがどうしてもって言うから」

「じゃあその時、俺は別にいいやって言って、その場から帰れたかい?」


 あの時は結果的に帽子探しを手伝ったが、状況をみれば断る方が難しかったと思う。

 少なくとも率先してやったことじゃない。


「ウイカさんのこともそうだよ。放っておけないから仕方なく、じゃないだろう?」


 おっと、そこで来たか。

 言いながら、幸平の目つきが少し真剣なものになった。本題に入ったらしいことを察して、俺も少し身構える。


「イサトは、なんだかんだ言いながら面倒事に手を貸す良いヤツだと思ってる。だけどこれまでは、嫌々だけど仕方なく、という建前だった」

「建前じゃなくて、本当に仕方ない場面が多いんだって」

「はいはい」


 苦笑して軽く流す幸平。本当なんだぞ。


「でも、さっきも言ったけどウイカさんのことは違うと思う。イサトが誰かの面倒を率先して見ている姿は珍しい」

「そうなのか? 小柳先生に頼まれて仕方なくお世話係をやってるだけだぞ」

「イサト。君は嘘が下手だ、すぐ顔に出る」


 幸平の目が今まで以上にキリッと鋭くなる。これまでの脱力した雰囲気が一変して、会話に緊張感が生まれた。

 思わずゴクりと唾を呑む俺。


「僕は深入りしないから、イサトがそう言った以上、君とウイカさんが親戚であることも一旦納得したけどね」

「お、お前! 気づいてたのか」

「でもその上で。君は彼女のことを気にかけすぎてる」


 幸平はこんなにも鋭いやつだったか。俺は内心をすべて丸裸にされそうでドキドキしていた。

 次にこいつが何を言い出すのか。

 俺自身が自覚していない、俺の真実を言い当てられそうな気迫がある。

 少し間を置いて、幸平は言葉を発した。


「ウイカさんのこと、好きなんだろう?」

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