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お、おいおい……。

 

 

 


「お世話になりました」



 アドルフと視線を合わせないままペコリと頭を下げて、私は外に出るために扉のノブに手を掛けた。

 ロランは男性とはいえ丸腰で街まで帰って行ったのだから、きっと今の時間帯や道によっては私が出歩いてもなんとかなるのだろう。それに急げばまだ彼に追いつけるかもしれないし。

 





「勝手に出るな」



 頭上から落とされる影と低く響く声。

 アドルフの大きくて無骨な手が後ろから伸びてきて、私の手の上から重ねられた。

 そのせいで扉を開こうと力を入れてもビクともしない。

 出て行けと言ったり、出るなと言ったり、なんなんだよ。邪魔するな!



「勝手にじゃないよ。ちゃんと出ていくって言ってるんだから。アドルフも出て行けって言ったじゃん」

「……行く宛があるのか」

「あると思う? でもとりあえず街にいく。そこで仕事を探して自立する。最初からそのつもりだっ、た……し……っ?!」



 ガシッと掴まれていた手を力づくでドアノブから引き剥がされたかと思えば、背後から大きな体が覆い被さってきた。

 そのまま拘束するように胸の前で腕をクロスしてぎゅっと抱きすくめてくるから、思わず呼吸を止める。

 



 え、なにこれ。アドルフ、なにしてんの。

 




「あ、あれ?」

「ダメだ。家からは出さない」

「アドルフ?」


 

 うわ、うわあああ……っ、な、なに、なにが起こってるの?! 

 自分以外の高い体温を背中に感じて心臓があり得ないほどドキドキする。

 しばらく忘れていたけれど、アドルフはイケオジだ。いやオジじゃなかった。イケメンだ。それも、ものすごく。

 本当は、私の好みど真ん中の。



「お前は、どうしていつまでもわからないんだ」

「……」

「いつも俺がどれだけウタを心配していると思う?」

「……」



 えっと、あの。これって、まさか。



「も、もしかして、だけど……」

「なんだ」

「アドルフって、私のこと、すきなの?」

「……」





 ……っっっ、なんか言って!!??

 ここで無言になっちゃダメでしょ! いつもみたいに『調子にのるなよ』って舌打ちするところだからね!?



「待って! 一体私のどこに好きになる要素があるの!?」

「自分で言うか?」

「だって女として認識されるようなこと全然してませんでしたけど!? アドルフの前で大あくびもしてたし、ろくに働かずぐうたら三昧だったんだけど! ダメ女が好きなの?! やばくない?!」

「……」



 やばい趣味の自覚があるのか、本人も不本意なのか知らないが、お返事がない。

 お、おいおい……。それなんなん。それどっちなん。



 アドルフは私に警戒心がないというけれど、何も考えていないようでこれでも気をつけていたのだ。

 無いとは思っていたけど、たとえば万が一の確率でそんな対象に見られたら、私はアドルフに遊ばれて捨てられるのが目に見えている。

 この歳で、しかも右も左もわからない異世界なんかで男に弄ばれるのはキツイって!!


 だから、私は絶対にアドルフを男性として意識しないようにしていた。


 アドルフは口は悪いけど世話好きで料理がうまくて文句言いながらもなんでもいうこと聞いてくれるイケメンなんだぞ。

 外出を制限されても元の世界に帰れなくても、この人がいるならまあいいかって思わせてくるほど包容力があって過保護で心配性なイケメンなんだぞ。


 

 呑気に『三食昼寝とイケメン付きだわー』なんて異世界生活に馴染んでいる場合ではない。

 あえて考えないようにしてたのに、どうしてくれる。

 このままじゃ、好きになってしまうでしょうが!!

 



「ウタ……」

「っ!」



 耳元で名前を呼ぶ声が妙に艶っぽくて背中がぞくりと粟だった。


 こ、これはだめだ! やっぱりこの男は危険だ! 

  

  

  


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