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ワルオジと面倒な女


  


  



 自分の中の警報器がぶっ壊れるほどの危機を感じる。

 流されてなるものかと反射的にアドルフの腕を解いて振り返り、グッと背伸びをして彼の顔を両手で挟んで引き寄せた。


 こんなに真正面からマジマジと見つめるのは初めて会った時以来。

 アドルフは私の行動に一瞬虚をつかれたように瞠目したけれど、すぐに表情を戻し特に抵抗することもなくされるがままでいてくれている。


 ……しかし、真顔が怖いくらいに整っているな。相変わらず死ぬほど顔が良い。

 同じ距離でこっちも見られていると思うと居た堪れないけれど、これから言うことは大事なことだから目を見て言っておかなくてはならない。

 



「よし、一旦冷静になろう! 落ち着こう!」

「落ち着いているが?」

「どこが!?」



 酔っ払ってんのか! と思うほど今のアドルフはいつものアドルフじゃないでしょうがっ!

 道中で何か良くないキノコでも食べてきちゃったのだろうか。至近距離から私をジッと見つめる目に熱が籠っているような、いないような。

 これじゃイケオジならぬワルオジだ。オジじゃないけど。ちょっと甘く囁かれたくらいでワタワタしてしまう私のことを絶対にチョロいと思っている気がする。



「言っておくけど、私のこと弄んだら殺すからね」

「俺がいつお前を弄んだんだ」

「大事なことだからちゃんと返事して!」

「……わかった」



 物騒な発言に半目になっていたアドルフは、私の剣幕に渋々頷いた。

 なんで渋々なんだよ。即答しろ。



「アドルフが思うほど、私、簡単じゃありませんから」

「そうだな。お前ほど難しい奴は見たことがない」

「こんな鬱々とした森にいると選択肢が私か魔獣かになっちゃう気持ちもわかるけど、もっとまともな女の子は他にたくさんいるんだからね!」

「お前、それを自分で言ってて悲しくならないのか……?」

「大丈夫ですっ!」


 

 

 眉を顰めたままのアドルフは諦めたように深いため息を吐いた。

 その様子に、うむ、と頷き、アドルフの両頬から手を離す。

 よしよし、これでいい。言い聞かせ作戦が効いているぞ。

 思うようにならない面倒な女だという印象を植え付けておけばわざわざ気まぐれに手を出されることもないだろう。

 異世界で早々に男に溺れて身を滅ぼしたくないからね。


 あ、そうだ。

 これも言っておかないと!



「ちなみに、出ていくなって止めたのはアドルフなんだから、もう出て行けって言うのはナシだよ!」

「ああ」

「私を弄んだら殺す」

「何回言うんだよ」

「あと」

「まだあるのか……」



 ある。

 一番大事なやつが!



「私も街にいきたい! 自分だけ行ってズルい!」



 時は満ちた!

 現にアドルフがちょいちょい街へ下りているなら、私のことも連れて行けるはずだ! と腕を引いて強請るとアドルフが顰めていた眉を吊り上げた。



「お前、俺の話を聞いていたか? 出す気はないって言ってんだろうが」

「なんで? もう靴もあるし、ロランさんだってあんなに細くて頼りなさそうなのに街まで手ぶらで帰っていったじゃん」

「ロランを見た目で判断するな。ああ見えて腕は立つし、手ぶらに見えて体の至る所に暗器を隠し持っている」

「え、こわ…」

「とにかくお前はダメだ。しばらくは大人しくしてろ」

「なんで!」



 アドルフはダメの一点張りで、訴えに全く取り合おうとしてくれない。早々に話は終わりだとばかりに私を追い払って水道で手を洗い始めてしまった。

 どうやら夕食の準備をするらしい。今日はなんだろうと手元を覗き込むと赤く熟れたトマトによく似た野菜を洗っていた。

 昨日はなかった新鮮な野菜……って、いやそれも街で買ってきたやつだろが!! やっぱり今日も行ってんじゃん!! ほんとに今までなんの疑問も持たなかったわ!!

 


「じゃあ、大人しくするからしばらくってどのくらい? 冬っていつ来るの? 前に、冬になったら街に連れて行ってくれるって言ってたよね」

「……」

「言ったよね?」

「……」



 調理するアドルフに纏わりついて約束を確認する。

 なんで黙るんだ。もしかして、最初から連れて行ってくれる気はなかったのか? そうなのか?

 


「アドルフが嘘ついた!!」

「……ついてねぇよ」

「じゃあなんで連れていってくれないの!?」

「こっちにも色々と事情があるんだ」

「色々ってなに!!」

「色々は色々だ」

「はあ!?」



 色々で誤魔化せると思うなよ! 

 その場で地団駄を踏むと煩わしそうに「今忙しいからあっちに行ってろ」と背中を押されて寝室へ押し込められた。



 それが!!! 

 好きな女子に対する態度か!!!

 


 出ていくなっていうくせに邪魔者扱いってなに!

 やっぱり私を好きっていうのも嘘なのでは!? 

 ものすごくそんな気がしてきた。だって哀しいかなやっぱり好きになられる心当たりがない!

 ……待てよ? たしかに思わせぶりな態度だったけどアドルフは好きとは明言していなかった。

 きっと私を丸め込むためにその場しのぎの嘘をついたのだ!

 早速純情を弄ばれた! コロス!


 

 寝室でその可能性に行き着いた私は腹を立て、散々枕をボコスコ殴る。一瞬でもときめいた単純な自分が恥ずかしい!


 その後、夕飯も食べずにふて寝してやった。

 




 で、翌朝の今も絶賛喧嘩中というわけだ。


 

 

 

 


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