意趣返し
「正直に言えば、あれだけの奇策が打てる相手ならもっと追いつめても良かったとも思っています。とはいえ負けは負け。たった三名しか脱落させられなかったのは残念ではありますが、こればかりは作戦立案者を誉めねばなりません。よくやりました……などと言っている」
その言葉を聞いて、どんな感情が浮かぶのが正しいのだろう。
ねぎらいの言葉を聞いたことによる喜び?
強敵に参ったを言わせたことによる優越感?
「サトリ」
「どうした」
「勝つことが目的だったのか。それとも、勝つこと以外に目的があったのかを聞いてくれ」
「いいだろう。ほら、聞こえていただろう? 回答をよこせ」
女の反応は薄い。
一方でサトリの眉間の皺は増えるばかりだ。
「この女は、趣味と実益をかねていたと言っている。勝つことは目的ではない」
「趣味とは何だ」
「こいつの趣味は、人間の悲鳴を聞くことだ」
この場に亀裂でも入ったような、ピシリという音が聞こえた気がした。
「……教授」
「なんだい、セナ君」
「天下一を呼んでもらっていいかな。あとは、この女のイデオを食らったことがある他のメンバーも」
セナに去来したのは、怒りだ。
サトリも、教授も、野薔薇も……この女と戦った者の悉くが顔を怒りで染め上げていた。
「もちろんだとも。きっとドレッド君も同じ気持ちになるはずさ。野薔薇君、お使いいいかな?」
「いいですよ。私がそうしたいから素直に連れてきてあげます!」
瓦礫を下ろした野薔薇があっという間に飛び去る。
目を丸くしておろおろとしている幸と大鼠をよそに、サトリは声を投げかけ始めた。
「貴様は不死のプレイヤーたちを良く纏めていたな。それは貴様の能力を利用してのことか?」
「……」
「なるほど、次だ。お前は自らを盛り上げ役と述べたが、それは愉快犯ということか? それともそれが目的だったのか?」
「……」
「不死プレイヤーの悲鳴は心地よかったか?」
「……」
「お前は運営の仕込みか?」
「……」
「最後の質問だ。もしもお前が一般プレイヤーと同じ立場で参加したとして、今回の副賞……『運営が可能な範囲でなんでも願いを叶える』権利を得た場合、何を願う?」
「……」
「そうか、よくわかった」
質問を終えたサトリはゆっくりと歩み出ると、靴で女の頭を踏みつけた。
止める者は居ない。
「サトリ君、どんな回答が得られたんだい?」
「お前たちの想像通りだ」
セナの握る拳にも無意識のうちに力が籠もっていた。
全ての謎は解けたも同然だ。
なぜ、空腹が影響すると知っていたのか。
なぜ、不死プレイヤーばかりを狙って集められたのか。
なぜ、不死プレイヤーたちにここまでの忠誠を誓わせることができたのか。
(こいつは、運営側のプレイヤー……。ゲームの盛り上げ役)
自分も一発蹴ってやろうかと悩んでいると、野薔薇たちが風に乗って戻ってきたところだった。
共に降りてきたのはドレッド、天下一、そしてノウン。
「連れてきましたよ。来たいと言ったので、ノウンさんも一緒に」
「同行失礼します。一目見ておきたくて」
「構わないとも。流石にもう抵抗しないとは思うが、何かあったら無効化頼むよ大鼠君」
「お、おう」
どこか異様な雰囲気を感じ取ったのだろうか、天下一は恐る恐るといった具合だ。
「えっとぉ~……俺のイデオが必要って聞いてきたんスけど」
「うん、そうだよ。ちょっとコイツになってほしいんだ」
「……え、なんで?」
「いいから、早く」
有無を言わせるつもりは毛頭無い。
すこしおびえた様子を見せていたが、天下一は素直に従った。
「んじゃ、解除条件は……『セナちゃんがストップと言ったら』でいいッスかね」
「それでいいよ」
「んじゃ失礼して……。フルコピー!」
天下一の姿がドロリと溶け、再構築される。
その場に現れたのは無傷の真っ黒い女。
ブラックその人だ。
「──変身完了しました。それで、この次はどうすれば?」
「ああ、簡単だよ。この女にイデオを使え」
「構いませんが、何を奪いますか?」
「当然、全部だ!」
黒い女がサトリの足の下で身じろぎする。
その顔は影になっていて見ることはできないし、見る必要もない。
泣こうが喚こうが、やめるつもりは毛頭無いのだから。
「では、『思い描いた対象の五感を操作する能力』、発動します」
「……ん、んぅ……!」
「さようなら」
天下一は突き出した右手を握りしめ、最悪のイデオを発動した。
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現在、第5章を執筆中。 投稿日は毎週4日で日曜、火曜、木曜、土曜になります。