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お楽しみいただけましたか?



 戦後処理と言ってもやることは地味だ。

 サトリが場所を示し、野薔薇が大気操作で瓦礫を持ち上げ、大鼠が能力を無効にしてから瓦礫を落とす。

 総指揮は教授が取り、セナと幸はその補助だ。



「次は……あの柱の近くに埋まっているな」


「オーケーだ。野薔薇君、ミカン食べたかい?」


「そろそろミカン以外も欲しいんですけど!」


「残念ながら、携帯できる果物には限りがあるんだ。我慢して貰うよ!」



 空腹の限界を果物で誤魔化す野薔薇は、見張りの時から続いてすでに五つめのミカンを頬張っているわけだが、流石に飽きが来たらしい。

 ブーたれつつも教授の指示なら仕方がないのスタンスで、参加者全員を浮かせて目的地へ移動させる。


 セナの仕事はクックからもたらされた果物の管理と供給、及び緊急時の護衛だ。

 『小火』が戦力に数えられた、というわけではないだろう。



(驚いたな。あのサトリが、僕の知らないところで尻尾を捕まれているなんて)



 サトリは全く異論を挟むことなく教授の指示に従っている。

 すでに能力が看破され、いいように使われているようにしか思えない。



「次はこの下だ」


「はいはーい。じゃあ皆さん、少し離れてくださいねー」



 砕けて露出した電灯を踏み越え、三歩後ろへ。

 幸がサトリにミカンを配っている様子を見ていると、大鼠が寄ってきた。



「なあ、セナ」


「……なに?」


「サトリの旦那の能力って圧縮じゃねえのか?」


「見ての通りでしょ」


「ってことは、聖女サマとグルだったってことかよ。ぜんぜん気付かなかったわ」



 どこか感心しているような言い方だ。

 潜在的に『裏切られていた』ことによる負の感情は欠片もない。



「二人も脱落しちまったな」


「みたいだね。僕はその場に居られなかった」


「……そこの幸っていう嬢ちゃんが、聖女サマが引き込んだ新入りだろ?」


「うん。悪い子じゃないよ」


「なら、次は活躍しねぇとな……俺も」



 セナは思わず大鼠を見上げる。

 昨晩とは雰囲気が違って見えた。



「大鼠くーん、無効化頼むよー!」


「お。今行くぜー!」



 瓦礫をひょいと飛び越えて、大男が去っていく。

 その小さな背中を見送りながら、ミカンを一つ取り出して、剥いて一切れ食べた。



(……今回の戦いは……悪くない流れ、だったよな)



 作業光景に視線が向いているだけ。

 頭の中では、つい一時間前の戦闘を思い起こしていた。



(ジャンヌは切らなきゃならなかったから、死んだのはしょうがない。作戦もおおよそ成功だ。誤算だったのは敵の強さと、ベートーヴェンが死んだこと。そして……)



 何度思い返してもわからない。

 気が付いたら目の前で大爆発が巻き起こり、ジャンヌの肉体が死亡して精神が追い出された。

 強烈な痛みと熱気と衝撃。



(ジャンヌはどうして死んだんだ?)



 敵である作務衣女のことはずっと見ていた。

 なにか行動をする予備動作があれば気付くはず。

 だが結局は、爆発を起こされてあのザマだ。



(爆弾女の最後の仕込みだったのか、だとしたらどんな方法だったのか)



 先ほど不死を掘り出したときに作務衣女のバラバラ死体も発見されている。

 気にはなるが、終わった話だ。



「セナ! おいセナ、ちょっと来い!」


「ん?」



 大鼠の馬鹿みたいに大きな声で熟考から引き戻された。

 大鼠だけでなく、サトリも教授もこちらを見つめている。



「いったいどうしたの?」


「いいから来いって! 見つけちまったんだよ!」


「何を」


「黒い女だ!」



 黒い女。

 極めて悪質なイデオを操り、大量の不死を完璧にコントロールし、北部での籠城戦を敢行させた、化け物と呼ぶべきプレイヤー。


 セナは慌てて駆けだして、瓦礫を乗り越え皆の元へ。

 他のメンバーに倣って見下ろすと、あの女が無惨な姿で出土したところだった。

 二名の不死が覆い被さることで崩落からは守られたらしいが、足が完全に潰れている。



「驚くなよセナ。こいつ、まだ生きてる」


「なんだって?」 


「サトリの旦那が確認済み、らしい」



 外見は血だらけの土砂まみれ。

 これではむしろ即死した方が苦しまなかったろう。



「……なんで、僕を呼んだんだ? 今まで通りに処理しちゃえばいいだろ。このプレイヤーは危険だ」


「それがな、サトリがセナを呼べって」


「サトリ?」



 スーツ男はしゃがみ込み、息をしているのかもわからない女を見つめていたが、唐突に口を開いた。



「この女はプレイヤーNo.100のブラック。()()()()()()、だそうだ」


「……は?」


「今回の攻城戦、楽しんでいただけましたか? と言っている」



 見れば女は、口の端を持ち上げて笑っていた。

 勝敗とか、生死とか、悔しさとか、そういうのとは無縁に見えた。



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現在、第5章を執筆中。 投稿日は毎週4日で日曜、火曜、木曜、土曜になります。

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