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思惑の裏に思惑を隠す



(……そういうことか)



 そんな中で、セナは得心いったように心中でひとりごちる。

 はたして、他に何人のプレイヤーが瞬時に理解しただろうか。



「これはゲームだ。だというのに我々は腹が減る! 当たり前に空腹を抱き、当たり前に摂食する。本来、この機能はデスゲームには不要なシステム、そうだろう?」



 以前、ジャンヌ班の中でも話題になったことだ。

 空腹は戦略性を生む。



「だというのにわざわざ実装されている。そして今回、戦闘中にドレッド君がイデオ使用不能に陥った!」



 ただ空腹の苦しみを味わい、何かのバッドステータスが付く。

 その程度で考えていたが、事態はもっと深刻だったということだ。



「私はこう解釈した。つまり、イデオの発動あるいは持続には固有のエネルギーを消耗するのだ。その必要エネルギーこそカロリーであり、空腹はエネルギー切れのサインなのだよ!」



 そう考えれば、やけに食料品店が多いことにも納得がいく。

 ゲーム開始時の大破壊で全ての食料がダメになれば、能力を使用せず隠れていた者だけが後半戦でもイデオを使えるという、あべこべが起こってしまう。

 それは最強能力バトルという趣旨を外れるため、運営も避けたかったのだろう。



「ドレッド君だけではない。野薔薇君も、そしてこの私も、戦闘終了後にイデオを使い続けガス欠になることは確認済みだ。とはいえ証言者が全て私の班員というのも納得しづらいだろう。今空腹の者は、是非試してみて欲しい。意見が合えば、それが正しい認識として共有できる!」



 腹が減れば食べるのは人間としては当然であり、疑問はわきにくい。

 気付いた者が利用できる、ある種の隠し要素の一つなのだ。



「……私も、イデオが発動できない。教授の推測はおそらく正しい」



 真っ先に同意したのはサトリだ。

 どこか観念したかのように、目を閉じながら首を振る。



「おお、それは良かった! 他にはいないかな?」



 教授は嬉しそうに頷いているが、ドレッドだけはサトリをにらみつけている。

 それはそうだろう。

 今回の戦闘において、サトリは一度も圧縮を使用していない。

 ドレッド視点では、教授との密談があったとしか思えないはずだ。



(あいつ、圧縮が使えないことにして乗り切るつもりか)



 当然、全てを知っているセナの目線だとこういう結論になる。

 とはいえ、サトリが能力詐称をしていたとバレると、間接的にセナにも飛び火する危険があるので痛し痒しだ。



(だけど、これは……失言だったな)



 さきほど素直に空腹を訴えてしまったのは明確に失敗だ。

 セナも大してイデオを使用しているわけではない。

 あれでは、『自分のイデオは小火ではない』と宣言したようなものだった。



「……僕も、イデオが使えない。激戦だったからね」



 仕方なしに、教授の思惑に乗ることにする。

 正しかろうかそうじゃなかろうが、教授がこの情報を不死狩りで共有し、定着させようとしているのは明らかだ。

 ここで協力することで、すくなくとも小町班にイデオ詐称が伝わらないようにしておいたほうがいい。

 証人という立ち位置に入っておけば、教授も悪いようにはできないだろう。



「うむうむ、やはり私の推論は正しかったようだ!」


「……」



 ドレッドの視線がセナにも向くが、知らぬ存ぜぬで押し通す。

 下手な反応をして余計に怪しまれたくはない。



「というわけでだ。今後、拠点にする場所はなるべく食料品が備蓄されている場所にするように。メンバーの数を考慮し、食料の確保に乗り出すのも戦略の一つだとも! この事実を知らぬプレイヤーに有利を取ろうじゃないか!」



 仰々しく両手を広げる教授に、特別な反応は返されない。

 その場のプレイヤーは皆、それぞれが考え込んでいた。

 この情報アドバンテージをどう使うかを。



「私からの重大情報は以上だとも! さあ、あとは事後処理の時間だ。私とサトリ君、セナ君、大鼠君は一緒に行動し、不死能力者の後始末。余力のある小町班は、騒ぎを聞きつけてやってくるであろうプレイヤーへの警戒と対処だ。クック君には、簡単な食事を用意してもらえると助かる。呼ばれなかった者は独自判断で休憩するなり、小町班に協力するなりして欲しい」


「調理器具がないから、この場での料理は難しいかな。果物でもいいかい?」


「ああ、そこは構わないさ。ひとまず急場を凌ぎたいだけだとも。もしも他プレイヤーに襲われたときに、空腹組がお荷物になるのは避けたいからね!」


「了解したよ。用意しておく」


「それでは諸君、各自行動開始だ!」



 教授による宣言で、それぞれが動き出す。

 ご指名とあらばセナは教授につかないわけにはいかない。



「幸、一緒に来て」


「いいの? アタシ、呼ばれてないけど」


「構わないさ。文句付けられたら僕から反論するし」


「……ん、わかった」



 先に起立した幸に手を引かれ、セナも立ち上がる。

 サトリはもちろんだが、教授も警戒しなければならない相手なのは変わりない。



(ここからが正念場だな)



 戦後処理のその後に思考を向けながら、セナは幸の手を引いて教授の元へと向かった。


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現在、第5章を執筆中。 投稿日は毎週4日で日曜、火曜、木曜、土曜になります。

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