戦いが終わって
戦いには勝ったが、それで終わりではない。
なにせ相手は不死の軍団なのだから、瓦礫の下でも生存している。
アルモアダが構えていた廃ビルを仮拠点として、埋まった不死者を一人一人始末する作業が残っていた。
「というわけでだね、サトリ君。君の能力で不死者の居場所は割り出せないのかね?」
レインボーモールの最後を見守ったサトリはというと、まさに今、教授からの質問責めに耐えかねている真っ最中だ。
「私のイデオは圧縮だ。見ていたのだから知っているだろう?」
「ハッハッハッハ! 隠しておきたい気持ちはわかるけれどもね、流石に私にその言い訳は苦しすぎるだろう!」
「……」
「君も必死だったのはわかるさ! だからお咎めとか、誰かに言いふらしたりなどはしないとも! ただ、場所がわかるなら協力して欲しい、それだけだ。モール全部の瓦礫を浮かせていたら、幾ら時間があっても足りないし、野薔薇君も激務でぶっ倒れるだろうからねぇ!」
「……チッ」
ここで嘘をつき続けられる訳がない。
緊急事態だからと、教授を介して情報のやりとりをしてしまったのだから。
結局は不死を取りこぼす危険と天秤に掛けても、協力しないという選択は無かった。
「イデオ名は明かさない。だが、確かに私には居場所が分かる」
「それは非常に助かるね!」
「同行させていいのは、瓦礫を持ち上げる野薔薇、能力を封じる大鼠、あとはセナだけだ」
「なるほど! 野薔薇君はともかく、その二人は君の能力を知っているということかな?」
「好きに解釈しろ。話は終わりだ。さっさと始めるぞ」
「はっはっはっはっは! なんと悲しい! こういう話の切られ方ばっかりだよ!」
全く悪びれもなく悲しげでもない反応に、サトリは心中で舌を打った。
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「うーん、大納言の旦那ぁ。オイラはどうすればいいと思う?」
「何がじゃ」
「幸ちゃんに野薔薇ちゃん、教授ちゃんも居るわけで。オイラどの子を射止めればいいのかなぁ!?」
「お前んごたー気色悪かやつん相談に乗る義理はなか」
「そう言わず! ほら、純朴が服とおっぱいつけて歩く雰囲気良い子の幸ちゃん! 元気でパワフルでちょっとトゲもある現代JK野薔薇ちゃん! 笑う角にはミステリアスな白衣のぺったん教授ちゃん! 旦那は誰が好き!?」
「……小町の姐さんは?」
「あの人はちょっと苦手だからナー」
「あそこんセナって娘は?」
「あの子はまだ女の子に見れないナー」
「いっぺん死ね」
「なんでかねー!? 可愛いがねー!? モテたい思うのは罪かねー!?」
ナッツと大納言による実りゼロの会話が、廃ビルの一階に響いていた。
作戦に参加した面子のうちのほとんどは教授に待機を命じられており、思い思いのスタイルで休息を取っている。
もちろんその場には幸や野薔薇、小町も居るわけで。
「ちょっとぶん殴ってくる」
「せ、セナ落ち着いてぇ!」
喜色満面、青筋全開のセナは、幸が引きずられる覚悟でしがみつくことで制止させられていた。
「ああいうのは一発かまさないと理解しないんだよ」
「いやいやいや、救援にきてくれた人でしょ!?」
「それとこれとは話が別」
「軽口に全部反応してたらキリ無いよー!」
「……」
セナの表情は一瞬で、嫌悪感と嘔吐感がない交ぜになったものに変貌する。
まるで己の寝間着が父親の靴下と一緒に洗濯されたことを知った思春期女子高生の如し。
「すんっごい顔してる……そんなに嫌だったの?」
「嫌だね」
「セナって思ったより沸点低いんだねぇ」
結局、制止を振り切り立ち上がろうとしたところで、すでに小町が彼らの元へ向かっていることに気づく。
「オイラこんな非モテいやだ~ オイラこんな非モテいやだ~」
「そうかい。モテたいのかい」
「モチのロンでモッテモテ……げぇ!? 小町の姐さん!?」
「この場で土下座するか、歯を食いしばるか、どっちか選びな」
小町の手は堅く握られており、言葉の圧には有言実行の凄みがあった。
もちろんその表情は極上の笑みを形作っている。
怒りが臨界を突破すると、すべからく広角が持ち上がるものらしい。
「そ、それは、どっちを選んでもダサさ一直線非モテ一直線じゃないかぁ!」
「すでに生き様全てがダサいから安心しなよ」
「存在全否定!?」
「小町の姐さん、こいつん頭は大丈夫か?」
「すでに手遅れだね」
「せめて手は尽くして!?」
「どうするんだい。アタシはどっちでも構わないけどね」
いつの間にか、部屋中の視線はナッツに集中しており、どちらに転んでも公開処刑。
だが、その程度で怯むような変態ではなかった。
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現在、第5章を執筆中。 投稿日は毎週4日で日曜、火曜、木曜、土曜になります。




