天割る慮外の一撃
小町に導かれ、大鼠は通路を駆ける。
走っているのは大鼠だけであり、小町は自身を液状化させて大鼠の首もとに巻き付いていた。
「くそ、何でお前がここにいるんだよ!」
「救援を求めたのはジャンヌ班だった気がするんだけどね」
「俺ぁ聞いてねえぞ!?」
「なら、咄嗟のことだったのかもね。今はそんなことより、さっさと窓を蹴破りな」
「なんで……まさか、もうか!?」
「そうさ。作戦が始まるよ。巻き込まれたくなきゃ早くしな」
大鼠は泡を食って左右を見渡す。
運が良いのか、小町の誘導のおかげなのか、屋外が見える板ガラスが視界に入った。
「だがここは二階だぞ!?」
「そこは考えがあるよ。割ったらあたしに捕まって降りな」
「そんなことできんのか!?」
「まあ、たぶん途中でちぎれるから、あとは受け身をこう、わかるだろ?」
「わかりたくないがわかったよ畜生!」
近くに設置されていた立て看板を両手で持ち、勢いよく叩きつけて割る。
響く破砕音がキラキラと耳を彩った。
小町はすぐさま屋外のダクトに腕部分を差し込んで、体を長く伸ばす。
「ええい、ままよ!」
人間命綱にしがみついて、壁沿いに滑り降りる大男。
残念ながらレスキュー隊のような鮮やかさはなく、案の定途中でちぎれて尻から落下する。
「ぐあぁぁあ! いってええぇぇ!」
「ちぎれたあたしの方が痛いさ」
「そういう嘘はもっと苦しんで見せながら言え!」
「はいはい。さあ離れな」
「わかってるっての!」
道ばたで寝こけている人間──おそらくは眠らされた不死能力者だろう──が見えたが、無視して待避する。
同時に、レインボーモール上空に異変が生じたが、大鼠に気にする余裕はなかった。
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「大鼠君の脱出を確認したよ、セナ君!」
待避した囮部隊は、敵の追撃が無いことを確認し、廃ビルの入り口まで待避していた。
近くでは赤いストライプの寝間着の上下と、お揃いのナイトキャップを身につけた少年『アルモアダ』が、眠そうに目を擦っている。
その面倒を見ているのは、命からがら逃げてきたノウンだった。
「よし、準備はいいね、幸」
『それは天下一君に言ってよね~』
セナは無線機を片手に、レインボーモールの空を見る。
野薔薇の大気操作でモールの上に滞空している三名との通信だ。
『俺は準備できてるッスよー! いつでも!』
『野薔薇ちゃんもがんばってまーす!』
「うん。じゃあ頼む。設定は任せるけど、能力はすぐに解除するんだ。目立ちすぎるとどうなるかは、わかるだろ?」
『もちろん、集中砲火とかシャレにならねーッスからね!』
まあ、幸が近くにいるのならそうそう死なないだろうが、それは言う必要のないことだ。
『じゃあ、設定はレインボーモールの倒壊まで! いけっ、フルコピー!』
天下一の能力、フルコピーが起動した。
あっという間に声音が別物に変化する。
『あ、あ、あー……俺様の思い描く最強を、また披露する機会があるとはな!』
「いいから、やってくれ」
『言われなくとも!』
無線の音声に合わせ、不死狩り面々が警戒をする。
ビルの裏に隠れたり、柱に捕まったり。
「さあ、対ショック態勢だ諸君!」
さしものアルモアダも、この時ばかりは教授にしがみついた。
『よし、いくぞ──俺様だけの最強ロボ、発進!』
──レインボーモールの天が割れる。
雲を切り裂き、現れたのは規格外の巨大な両足。
それはゲーム参加者ならば、ほとんどが目にしたことがある威容。
大樹の近くで怪獣と相争った、どこかで見た容姿のスーパーロボット。
戦う必要はない。
サーベルを抜くこともない。
ただ、レインボーモールに両足で着地する。
それだけで、この戦は終結した。
轟音と、爆風と、衝撃波がまき散らされ、立ち並ぶビルの窓が一斉にひび割れた。
全員の前に立ちふさがった教授が、吹き飛んでくる瓦礫を体ですべて止めていく。
たった一度の衝撃はすぐに収まり、セナはゆっくりと目を開く。
ついさっきまで戦場だったはずのモールは、もはや跡形もない。
ガスでも漏れたのか爆発が発生し、一部で火の手が上がる。
とにかく目立つ一計だが、あの時に出せた案はこれしかなかった。
最初の大騒ぎで落下死した、巨大ロボないし巨大怪獣の能力者の死体を探し出し、天下一による模倣で地形ごと粉砕する。
屋内にいる限り防ぐことができない、たった一度の慮外の一撃。
策は成り、不死狩りの面々から安堵の声が漏れた。
同時に通信機が声を出す。
『──こちら、幸。みんなは大丈夫?』
「うん、全員無事だよ」
設定した条件を満たしたからか、天下一のフルコピーの効果が切れる。
全てを叩き潰したロボットは、まるで夢か幻のようにその姿をかき消した。
『ぶはぁ! こちら天下一! イデオが切れたってことは……破壊は達成できたッスよ!』
「こっちでも確認できたよ」
『あー、だからー! 可愛い美少女野薔薇ちゃんが浮かせたから不意打ちになったんですからねー!』
『いたたたた! 髪は! 髪はやめて欲しいんスけど!』
『ふふ、あははは!』
「……三人とも、お疲れさま」
こうして、レインボーモールの戦いは決着した。
被害は、ジャンヌ班二名、教授班一名。
無傷とはいかないまでも、十分すぎる戦果を上げ、不死狩りの勝利で幕を下ろしたのだった。
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現在、第5章を執筆中。 投稿日は毎週4日で日曜、火曜、木曜、土曜になります。




