秘策は舞う
「能力無効化ってのは、こうさぁ。一人居りゃ十分だろ? なんで二人も居るんだよってオレは文句を言いたかったわけだ」
崩落し、通行不能になった通路。
その背後から、三人組がこちらを睨みつけている。
敵は全員が両耳に、これ見よがしに耳栓を装着していた。
中央のオレンジ作務衣の女が、存在感を出しながらつらつら文句を吐き続ける。
「そんな天敵中の天敵が、無事突出して分断。出来すぎた話だよなぁ~? いやほんと、戦場で起こるボタンの掛け違いって怖いわ」
この通路の左右には、トイレしかない。
つまり、袋の鼠だ。
守りの要にもなる大鼠は、あの黒女と一騎打ちになっていることだろう。
(不味い……)
「とりあえず、オレがお前等にかける言葉は、あれだ……ご愁傷様」
女の左右にいたプレイヤーが投擲モーションに入る。
直接見ていない他の味方はともかく、セナはその真意を脊髄で理解した。
「水の盾!」
「っ、そんな無茶な!」
そう言いつつも、残りのコーラが溢れ出る。
投げ込まれた十本単位のボールペンが次々と水の盾に飲み込まれ──
「対ショック体勢!」
──炸裂した。
爆発に巻き込まれ、周囲の壁が吹き飛び、瓦礫がまき散らされる。
割れた天井照明の破片がジャンヌの頬を切り裂き、赤い血が滴り落ちた。
唯一、爆発に伴う轟音だけはベートーヴェンが能力で咄嗟に消したらしく、三半規管に影響はない。
「ぐうぅぅぅっ……」
「どうするの? このままじゃ不味いよ」
「ジーニアスさんは、すぐにそこから援護を!」
トイレを指さし指示を出す。
同時に圧縮で洗面台の水道管を破裂させ、武器を大量に生み出して見せた。
「次が来ます、急いで!」
「おーけー、任せて!」
ジーニアスが吹き出す水を指さすと、同時にそれらが意志を持つ。
(触れずに能力を?)
ペットボトルとは比べものにならない量の水の壁が、崩落した瓦礫ごと第二波を包み込み、押し返し始めた。
二度目の爆発はなんとか水が衝撃を抑え、被害の方も飛び散った水塊でびしょ濡れになるにとどまっている。
「くそ、なんだあのスライムはよぉ!」
その威容に面食らったのか、作務衣女と不死二名がジリジリと後退する。
「押し返すよ、全員無事?」
ジーニアスの言葉を受けて、ジャンヌはすかさず目視確認。
ノウンは額から血を流しているが、自力で立っている。
対して、ベートーヴェンは膝を突いたまま動く様子がなかった。
「ベートーヴェンさん!?」
「……お構いなく、戦闘要員ではありませんので」
「あの爆発で鼓膜がやられると隙になります! ノウンさん、ベートーヴェンさんを!」
「なんとか、連れ出してみますよ!」
無限に供給される水のおかげか、敵は通路の包囲を解かざるをえなかったようだ。
巨大なモンスターと化した水塊は、瓦礫もガラスも飲み込みながら進撃していく。
その背後を追うようにして、四人はやっと広い通路へ出ることが出来た。
「あーくそ、まだこんな相性悪いのが居たのかよ!」
「ダメです、何を投げても阻まれます!」
「あぁん? 聞こえねぇよ! ともかくおまえら何とかしろぉ!」
敵の悲鳴が、優勢に転じたことを表してくれており、おかげで多少冷静になれた。
(恐らくあの女が爆弾の能力者だ。放送と同じ声。カメラが無くなったから目視で爆破しにきたか!)
「どうしますか、ここで叩きますか?」
ノウンの提案は確かに有りだ。
ジーニアスの現在の攻撃力ならば、敵に攻撃の隙を与えることなく倒すこともできるし、拘束することもできる。
投擲頼りの爆破では、規模を大きくしすぎると自分を巻き込むことに繋がるため使うことができないはずだ。
「わかりました、このまま倒します。左右のプレイヤーは恐らく不死、まずはあの女性から!」
「りょーかい、じゃ、早速──」
その時。
爆弾女がニヤリと笑ったのだ。
その理由を理解できたのは、ノウンただ一人。
最後尾にいたノウンは、それまで肩を貸していたベートーヴェンをその場に放ると、誰に気付かれることもなく真後ろへ駆け出す。
一目散の逃走。
その直後、不死狩りの背後から、一羽の燕が天井スレスレを通過していった。
不死狩りたちの陣形のど真ん中に、何かが落とされる。
通路は閃光で染まり、コイン爆弾が全てを破壊した。
↓広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると、投稿のモチベーションに繋がります!
さらに『ブックマーク』、『いいね』、『感想』などの応援も、是非よろしくお願いします!
現在、第5章を執筆中。 投稿日は毎週4日で日曜、火曜、木曜、土曜になります。