ここは敵の腹の中
「そこの角を曲がってすぐです!」
「よし、やってやるぜ!」
細い廊下を曲がるとメインストリートが見えた。
そこでは、例の黒い女が吹き抜けから階下を見下ろす。
そして三名の取り巻きが陣取っていた。
(予知よりも一人多い?)
「捕らえた! 無効に──」
音はしっかりと消しており、大鼠の声も味方にしか届いていない。
だというのに、取り巻きのうち一名は最初からこの廊下を見張っていたらしく、接近はすぐにバレてしまった。
黒女を守るように、プレイヤーが肉の壁を瞬時に構成する。
「めんどくせぇ、無効にするからやってくれ!」
「では、私とジーニアスさんで倒しましょう」
「りょーかい。いくよ」
大鼠が能力無効化を使用する。
とはいえ、消せるのは一名だけだ。
相手が全員不死能力者とも限らないため、ジャンヌ……セナは意図的に能力の発動を遅らせた。
ジーニアスの背負うリュックサックから、コーラが空中へ飛び出して刃物と化す。
円月輪の切れ味はすでに大樹前で証明済みだ。
一呼吸で二十近いカッターが射出され、スクラムを組んだ肉壁がズタズタに切り裂かれた。
「能力反射などは居られないようですな」
「そうなると話は早いですね」
一人は不死を無効化されて脱落したのだろう、バラバラになったまま静止する。
だが、残り二人は細切れになり、腕や首を失っても前進する足が止まらない。
「あれじゃあもうゾンビだね」
「きもちわりぃ!」
「ならば、これでどうでしょう」
控えていたジャンヌが、歩く肉片に指をさす。
初めての他者のイデオの使用だが問題なく発動し、隣同士の肉がくっつき、まとまり、圧縮され固まった。
あっという間に合い挽き肉となったソレを、驚くべき速度で突っ込んだ大鼠が蹴り上げ階下へと落下させる。
「大鼠さん、突出しすぎです!」
だが残念ながら、その声は届かない。
「むう、私の消音結界の外へ出てしまいました。大鼠様に声が届いておりません」
「もう接敵しているのですから、すぐに解除して──」
その時、進行方向が光った。
「何が」かは不明だ。
だが、「どうして」かはわかる。
炸裂し、吹き飛ぶ瓦礫。
崩落する天井。
衝撃が全身に叩きつけられ、進もうとしていた体が押し戻される。
突如、通路出入り口にて発生した強烈な爆発により、ジャンヌたちと大鼠は分断されてしまったのだ。
~~~~~~~~~~
消音の範囲外に出たことで、荒々しい足音がターゲットへと届く。
「お前が大将か!」
「……新たな侵入者、ですか」
「悪いがもう能力は使えねえ。さあ、かかってきな!」
啖呵を切る肉体派の言葉に、絶体絶命であるはずの黒女は眉一つ動かさない。
その反応に大鼠から笑顔が消える。
「嫌に冷静だな」
「やはり頭が足りませんね。貴方が考えなしに突出したのが悪いのですよ」
女の言葉に応えるように、大鼠の背後で振動と崩落音が響いた。
咄嗟に振り返った彼の目に映ったのは、瓦礫の山。
「な、なんだぁ!?」
「全然爆発音がしませんでしたね、そういう能力者が居るのでしょうか。まあ、どちらにせよ同じ事です」
「何が起こった!?」
「見てわかりませんか? ちょっと通路が崩落しただけですよ」
消音のせいで肝心の音はしなくとも、土煙と風が大鼠の肌を撫でた。
そこでようやく理解に至る。
「天井を爆破したのか!」
「狭い通路には、あらかじめ塞げるように爆弾化が施されていました。これで不死者の天敵とは分断された」
「っ、だが! お前を倒せば外のやつらが復活する! いや、今こうして抑えているだけでも十分だろ! お前の不利にゃ変わりねぇ!」
「そうでしょうか? まあ、そう思っているのならばいいでしょう」
「悪いが、女子供だろうが殴り殺すぜ。そういうゲームなんだ」
大鼠は拳を固め、なにかしらの武術めいた構えをとる。
それを見た小黒はため息混じりにスーツの懐に手を入れた。
胸部に装着されたホルスターから、警棒が引き抜かれる。
「悪いですが、筋肉ダルマだろうが殴り殺します。そういうゲームなので」
「やってみろ!」
飛びかかる大鼠を迎え撃つ形で、両者の格闘戦が幕を開けた。
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現在、第5章を執筆中。 投稿日は毎週4日で日曜、火曜、木曜、土曜になります。




