ジャンヌ班の顔合わせ②
食事の手が止まった面々を見回してから、筋肉男がどこか申し訳なさそうに二の句を継ぐ。
「俺は異能と戦いたいからこのゲームに参加した。だからよ、援護だとか後方支援だとかは嫌なんだ。最前線で殴って蹴って闘いてぇ」
「ですがそれは危険です。遠距離からの攻撃で貴方が倒れれば、我々の役目は全うできなくなってしまいます」
「エゴなのはわかってるけどさ、アンタたちも優勝したいから回りくどく同盟組んでるんだろ? 俺は目的が闘いってだけだよ。だから、やらせてくれるなら文句はねえが、それが駄目だってんなら俺は一抜けさせてもらうぜ。ゲームに参加した意味がねえからな」
「チッ」
セナの舌打ちが悪目立ちする。
だが大鼠はまるで気にした様子もなく、ただジャンヌの返答を待っていた。
「……わかりました。無効化で対処しきれない攻撃や、敵の隙を見つけたら圧縮や小火で援護しますが、それはもちろんいいですよね?」
「エゴ一個通して貰って、さらに協調性もゼロじゃあ役立たずだもんな。前に出してもらえるならそれでいいぜ!」
「あとは、私が出す撤退や突撃などの指示には従ってもらいます。それが譲歩できるラインです」
「あんまり信用されてない? そーいうのは破らねえって、大丈夫だ!」
笑顔に戻った大鼠から右手を差し出され、数秒の間の後にそれを取った。
ジャンヌを含めたこの五名が、ジャンヌ班として北東方面を担当することが決定している。
表面上は、協調性のある大人が多い安定したチームとも見えるだろう。
「聖女サマも食べな、どの飯も旨いぜ。腹が減ってはなんとやらとも言うし、闘う前には適度な食事は必須だ。毒味は俺が全部やっておいたし、安全性もバッチリだぞ」
「そうですね、では頂きましょうか」
食事をよそるために円卓を離れていくジャンヌを見送ると、大鼠は再び皿に盛られた大量の料理を貪り始めた。
「んぐ、んほむほ……んめぇー!」
「汚い」
顔をしかめるセナを気に留める様子はない。口いっぱいに頬張って、ゆっくりと咀嚼してから水で流し込んでいく。
「ぷはー! お上品に食べるような場でもないだろうがよ」
「限度があるでしょ」
「食えるときに食う! 常在戦場ってのはそういうもんだ」
「ゲームだよ? 食わなきゃ死ぬわけでもあるまいし」
「けど、腹は減っただろ?」
大鼠本人は何気なく言った言葉かもしれない。
だが、セナとベートーヴェンの食事の手を止める一言でもあった。
「……言われてみれば、VRゲームでの空きっ腹がゲーム内の飲食で満たされるというのは初めての経験ですな」
「そうだね。食事の概念が実装されてるゲームは多いけど、能力上昇のためのバフアイテムだったり、嗜好品程度の要素で終わったりが多いよ。食事が必須のゲームだと、逆にアクション一つで『食べたこと』になるだけっていうものばかりだし」
「はふ、んぐ、もぐ……んへー、そうなのか?」
「うん。巨大怪獣と戦うハンティングゲームなんかは、戦闘の途中でも空腹になって食事をする必要がでたりする。でも、主目的はあくまでハンティングであって食事じゃないからね。コマンド一つで自動的に食事モーションが始まって、それを邪魔されず最後までこなせれば『食べた』ことになるんだ」
「ほーん。てことは空腹感って普通のVRゲームじゃ感じねえの?」
「いえいえ、現実の肉体が空腹になれば自然とそれを感じることがありますので。もっとも注目するべきは、ゲーム内の食事なのにちゃんと満腹感で満たされる方ですよ」
そんなVRゲームは聞いたことがない、というのがこの場の総意だった。
プレートに持ってきた料理を平らげたセナは、会話に参加してこないサトリへと視線を向ける。
彼はどこか落ち着き無く周囲を見回していた。
「サトリ、どうしたの?」
「……何がだ?」
「食事の手は止まっているし、かといって会話にも入ってこないし」
「おうおう、食べておいた方がいいぞ! 次にいつ食事にありつけるかもわかんねーんだから!」
「まあ、そうだな」
サトリは言われるがままにフォークを動かし、ローストチキンを口に運ぶ。
その間も眉間に皺を寄せ、円卓の周囲をにらみつけていた。
どこか上の空なその様子をしばらくみていたセナは、プレートを手に取る。
「もう少しよそってくる」
「そうしとけ食べ盛り!」
食べるのに夢中な大鼠、話の流れから考え事を始めたベートーヴェン、別のことに気を取られているサトリ。
三名から離れ、セナは決起会の雑踏へと紛れていった。
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