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少女X



「いったい何なんだ、アレ」



 ビルの屋上から遠目に大通りを見下ろすセナは、不可思議としか言えない例の少女を観察していた。

 相変わらず歩みは遅く、ところどころでドジとも不運ともいえるアクシデントに遭っては悶えている。


 あの言動も行動も、あらゆる点で異物にしか見えない。

 少なくともセナが想像していた"プレイヤー"とはもっと狡賢かったり、ハイエナのようだったり、あるいは神のように絶対的な力を誇示するかという印象だったのだが。



「どうした……? 俺が、潰すか?」



 脳の負担を軽くするためにと、多少の自律行動を行うように命令を下したダイアマイトがそう提案する。

 確かに明らかに戦闘の意志は見えず、少なくとも抵抗らしい抵抗は一切していないのだから、消すこと自体は簡単に見えた。

 とはいえ最序盤に下せる判断かというとそうではない。



「ううん。もし攻撃したのと同じダメージを跳ね返すカウンターだったら、とか。不安要素は山のようにあるよ。それに、もしかしたら後半で利用できる能力かもしれない。そう考えても手を出さない方がいいかな」


「なら……あのまま行かせるのか?」


「せめて能力の発動は見ておきたいんだよね。それに彼女の側で隠れながら進めば、他のプレイヤーが付近にいたとしても発見されるのは彼女だ。僕たちは不意を打って、餌に食いついた獲物を殺せばいい」


「……なるほど」


「この辺りのビルは隣接してるし、屋上の階数も同じくらいだ。上を通って先回りしよう」


「了解、した」



 自分が操り人形にしているロボット相手に、独り言に近い問答を行っているのは周囲にどう見えるのだろうか。

 一応は『ダイアマイト本人の意見』を出すように命令しての会話なのだから、一人芝居じゃあない、はずだけれども。

 それに下手に脳を使うより、脊髄で会話するほうが楽なのだから、合理的でいいじゃないか。


 フェンスがある場合はダイアモンドボディで壊させ、道を作りながら進んでいく。

 多少の物音こそ出るものの、地上までは10階近い高低差があるし、なにより地上では相変わらず少女が情けない悲鳴を上げていた。

 だからこそ早々バレるようなことは無いはずだ。

 などと『無根拠ながらもちゃんと注意を払っている』と自分に言い聞かせながら、セナはまたひとつビルからビルへ飛び移る。

 上空を優雅に飛んでいる燕が、少々憎らしく目に映るのは如何ともし難い。



「ああぁ~……」



 今度は制服の端を停車自転車のハンドルに引っ掛けて諸共転倒しているターゲットに、何度目かのため息が出てしまう。

 


(あんなの見続けたら気が抜けちゃうよ)



 能力に絶対の自信を持っており、ピエロの如き振る舞いで油断させる作戦かもしれない……と、最初は考慮に入れていた。

 だけど、そのドジで生まれる隙が、あまりにもヒドい。

 すぐに立ち上がれないとか、周囲の確認ができないとか、致命的以外の言葉でどうやって表現できるのか。



(ちょっと、警戒しすぎてるかな。さっきは焦って逃げちゃったけど、ダイアマイトに殺させても良かったかも)



 すでにセナの中での彼女の危険度と評価は羽虫未満まで下落していた。

 さっきはダイアマイトに利用価値という最もらしさで説いたものの、機会があれば前言撤回することになるだろう。



「……おい、あれ」



 先行していたダイアマイトが、少女よりもさらに先の地上部を指さす。

 隣へ立ったセナが目をこらすが、この先の路地へ入っていく人影がやっと見えた程度で、性別の判別すらできていない。

 運良く、道路の反対側ではなくこちら側の路地だ。



「ダイアマイト、四つ先のビルの屋上から標的を確認。それが終わったら僕の前を警戒しながら進んで、階段で降りて標的を探すよ」


「おう」


「できればあの子も巻き込んで……今度こそ能力を見極めてやる」



 セナは大樹到着前にもう一波乱を起こすことを決め、思考する。

 

 どうやって相手の能力を知るか。


 ダイアマイトをどう使うか。


 そして、少女をどのように巻き込むか──。



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