40. どうかしてるぜ!
落とし前とは【失敗・無礼の責任を取る、或いは取らせる事】である。
何か失敗した覚えは無いけれども、無礼かどうかは落とし前を付けさせる側の裁量次第なので困った困った(笑)。
「落とし前………と言うと?」
「責任、とも言えるか。その子を責めない代わりに監督責任を求める。年端の行かない実力者を自由にさせて流血沙汰、しかも弟が被害者と聞いては見過ごせない。両方とも五体満足で済んだのは不幸中の幸いとしても、一つまかり違えば弟が命を落とす事になっていたかも知れないんだぞ」
耳の痛い話に思えるが事の発端はアルトにある。今回ばかりは俺の所為じゃないぞ! と言いたい所だが、この空気の中でそんな事言える筈も無い。
「その事に関しましては我が主の…」
「知っている。知って、理解した上で……これは一つ貸しにしよう。あんなに見晴らしの良い場所に一緒に居たんだから、知らぬ存ぜぬも通じんが………と言う訳でこの件は解決だ」トントン
机を指先で鳴らす合図で護衛二人が出口の前から退いた。ややこしい事にならなくてホッとしたのも束の間、ベルト氏がとんでもないことを言い出した。
「弟と違って神様なんてビジネス上、必要なだけしか信じちゃいないが、アルトの信じる神とこの街の土地神とやらが別物なくらいは知っている」
「!?」
「噂に名高い神すら遮る超常的な防音結界、がしかし神の耳が遠いように、全能という訳ではなかっただけの事……血筋だからとて幼子に神も大袈裟な事と思ったものだが、あのような形で関わり合いになるとは思ってもみなかった」
「……領主官に対する盗聴は通常よりも重罪ですよ?」
「おや? 自分の才能を過信した失態を棚に上げて罪に問うと? ならそこは先の貸しで相殺すれば、何も問題も無い。そうさ貴様の才能もまだ捨てたものではないのだろう?」
それこそ自分の犯罪行為を棚に上げといて、いちゃもんの様な貸しを速攻で利用しつつ、結果、主人も知り得ないフランの能力が通じないという弱みを握ってしまった。しかも領主関係者が成り行きとはいえ貴族に暴行を働いた事は周知の事実、黙っていたとしても貸しを作ったと思われても仕方のない事。つまりベルト氏の一人勝ちだ。
流石銀行の頭を張るだけの事はある。やられたらやり返す、倍返しか!
それに対してただ何も言えずに静かに頭を下げたフランは無表情を貫いていた。
一方、偶々居合わせたスカーレッドと呼ばれて居合わせたセイン爺さんは偉い人の裏話に面白半分後悔半分といった表情だ。
「本題はこれからだ。弟に要らぬちょっかいを掛けて分不相応な戦いを挑ませた、土地神なる怪物の討伐をそこなエルドワーフ君に頼みたい。引いては神官としてもこの地に長く住むセインには情報を、スカーレッド嬢には彼のサポートを頼みたい」
「我らが主とは異なる神を僭称する獣でしょうからね、微力ながら務めさせて頂きます。それと、元神官です」
「…………? ちょ、え……えええええええええ!!? 私も!?」
土地神とは土着信仰の神々であり言わば異教の邪神と考えられるからかセイン爺さんは乗り気だが、突然の要請に事情聴取だけのつもりだったスカーレッドは面食らってしまう。
「現役の黒級冒険者だから付いて行けと言ったんじゃない、ロックドリルの系列店で何ぞ見繕ってやるのだ」
「お、お言葉ですが彼は確かに強いみたいですが、ちょっと話を聞く限り神格化した獣ってそのまんま神獣ですよね? 霊獣でも金属級案件なのにそれ以上の討伐依頼を10歳の子供になんてどうかしてます!」
「まあ当然の反応だわな」
思わず護衛の片割れがそう呟いた。




