86.5 奏多
目まぐるしい変化に食らいつく奏多は………。
結希の意識がない。
渦を見て目を回したようだ。
結希は時々こんな風にうっかりする事がある。
フラフラ立ってるのも危ないので、
体を寝かせようと思い肩に触れた時だった。
すごく……嫌な感じがした。
何が、とはわからないが嫌な感じだった。
今はもう感じない。本当に一瞬だったんだ。
初めてじゃない気がする。前にも……あった。
いつ?……わからない。
取り敢えず結希だ。
結希はただ目を回しているだけ…なんだよな?
それか水神様が結希だけに語りかける時の姿なのか。
様子を見て……いいんだろうか。
嫌な感じの正体も掴めない。
………どのみち何も出来ない、か。
本来の目的通り結希を寝かせた。
…まだ目を回している。いやマジで。比喩じゃなくて。
これを女の子に、姪に…言うことじゃないんだけど、
ものすごくマヌケな顔なんだ……。
違う意味でも起こした方が良いかもしれない。
こういうのは父に任せるに限る。
睡眠の邪魔をして嫌われるのは1人で充分だからね。
「父さん、結希がなかなか起きないんだ。
いつも父さんが起こすの担当してたろ?
昔みたいに起こしてやってよ……。」
「お前が起こせばいいだろう。
俺だって孫に睨まれるのは嫌なんだぞ?
お前も陽人も志乃も菖蒲さんも、
睨まれたくないからと俺に押し付けて……。
流石に気付いてるんだからな!」
なんだ、バレてたのか……。
でも理由はそれだけじゃない。
「父さんが起こす方が結希は早く起きるんだよ。
よっぽど起き抜けの拳骨が嫌らしい。だから頼むよ。」
「……………拳骨もしたくてしてるわけじゃ…。
あれはあの子が遅刻ギリギリまでは寝てるからだな、
そんな「ほらほらほらほらー」……ったく。」
あくまでも自然に、通常通りに。
父にはもう、桜庭の力は殆ど残っていない。
言わずとも察するという生前の鋭さはもう無い筈だ。
これが水神様が回復した要因だろう。
与えた力を回収するために池に眠らせる。
本人はおそらく気付いていない。
気付かなくて、いい。
「いつまで目を回したままでいるんだ!?
結希……結希。いい加減起きろ!」
「さすがにマヌケだよ?早く起きな…。」
声をかけて早々に、結希は目が覚めた。
だけど何か様子がおかしいな…。どうしたんだろう。
「お……はよ…………?」
喋り辛そうにしている。何かあったんだろうか。
父も違和感があったのか結希に話しかける。
辿々しくて、上手く言葉を発せない感じだ。
「マ…ヌケ……とか抜…か…したバカは…覚え……とけ。」
き、聞かれていた。それはもう強烈に謝るしかない!!
でもやっぱり言葉が辿々しい。
言葉だけじゃない。体も、ピクリとも動かない。
体力が落ちて話せなくなっていた父に似ている。
まさか何かされたんだろうか。
嫌な感じ………。
あの嫌な感じが結希に何か悪影響を与えたのか?
そう思っていると、父が大声で結希を呼んでいた。
「ん?」
また、何か考え込んでいたんだろう。
黙り込んでて心配したが意識はちゃんとあるようだ。
だけど僕達じゃ正しい判断がつかない。
水神様…、水神様はどこにいる?……あそこか。
遠くにいる水神様に向かって結希の異変を知らせる。
すると………。
〖なぜ奪われているのだ!!!〗
何をかはわからないけど、水神様はそう言った。
水神様が近づいてきて何か術をかけたお陰か、
結希はしっかり話せるようになり水神様にこう言った。
「もう送ってあげて。」
「ここは危ない。」
「こんな場所に2人を置いておけない。」
送って…。結希は……、そう言った。
死者である僕達に対して使う意味としては、
然るべき場所。所謂、死後の世界。常世。
そこへ送るように言った。危険だからと。
そんな…、そんな危険な場所に、
結希を置いて逝くなんて出来ない!
僕達が危険なら結希も危険だ。
いっそ、儀式は中止したっていいんだ。
そう思った時だった。
水神様が、僕達に結界を張ると言った。
結希に対して誓いまで立てて、絶対に守ると言った。
それを聞いて納得したのか僕達に話しかけてきた。
『答えはうんだけ。水神様に従え。』
本当にそれだけ。時間が無いのか説明は水神様に投げていた。
シュン………キーーーン
水神様と結希が少し話した後、結界が張られた。
──じゃ…いっ……ます。かえれ……ように。──
ノイズが走ったような声が、頭に響いてきた。
これは結希、なんだろうか?
内容はハッキリ聞こえなかったけど、
願いを…、祈りを込めた言葉だと感じたんだ……。
結希は欠片の神様達と少し話した後、
水神様に合図を送っていた。
いよいよ役割を果たしにいくんだと思った。
どうか無事で…頼むから戻って来てくれ………。
そう思った時、水神様が話しかけてきた。
〖この空間では自由に話して構わない。
だが、頼むからここから出ないでくれ。
結希との誓いなのだ。〗
そう言う水神様に、結希が丸投げした説明を求めた。




