338.5 ②
〔祓詞の導く先で、神々の沙汰を待ちなさい。
導き手の手を借りて、全ての柵を断ち切りなさい。
己に存在する柵を…。
己が遺してしまった柵を…。
全てを断ち切り、終わりの時を迎えなさい。〕
怨霊化を何とか抑えつけて、
この場を安全な場所へと戻すこと…。それだけだった。
返答がない以上、こちらで何かを指示するしかない。
指示を聞くのか…聞けるのかは別として、
はみ出した思念体もまるごと何とかしないといけない存在なのだから。
既に最初の祝詞で場を清められている。
反応が良くないのはそのせいなのもあるだろう。
だが思念体が自ら池の中にある本体へと戻らなければ、
こちらはこちらとして個別で殺さねばならない。
そのまま放置しておくと、
また別の害ある存在になりかねないからだ。
そんな心配をしていると、少しだけ動きがあった。
池の中の本体が呼び戻しているのか、
存在が希薄になってきたのだ。
私が何かをする必要がないのならそれでいい。
池から引き上げた後に結希を呼びつけて、
形式上だけでも触れさせれば充分だろう。
どうせ柵など捨てられはしないだろうし、
結希が無理して何かをする必要もないのだ。
そこら辺は高天原で、神々が何とかして下さる。
では宮司に祝詞を再開させ、
高天原へ送る前の禊を始めよう。
なるようになれ…と、祈るばかりだな……。
順調に進んでいる…と思う。
私の力で抑えられているし、後は高天原への道を開くだけ。
1つだけ、水神が気掛かりだった…。
結希の隣にいる水神へと目を向けてみた時の事。
何かの気配がしたと言うわけではないが、
水神の様子がおかしく感じたのだ。
考えている事は何となくわかる。
隆延の末路を考えればそれは当然だろうと思うし、
神として悔しい思いがあると言うのも良くわかる。
ただ…それが水神本人の感情なのか、
怨霊化した隆延の“気”に当てられての事かがわからない。
それを見るまでは、
少しだけ手を貸して貰おうと思っていた。
結希を私の側に連れてきて欲しい…。
本当にそれだけだったのだが、この様子を見て考えを改めた。
状況的に私は声を出せないのだが、
結希には私の視線で何とか察して貰おう。
最悪の事態すら想像してしまいそうな程に何かを堪え忍ぶ様子は、
触れないでおいく方がいいかもしれない…。
そして何とか結希を私の方へと呼びつけて、
その手を隆延本体へ…触れさせたのだ。
いつの間にか消えていた、朝倉の呪い。
私は何とか、間に合った…ようだ…。




