29.山崎と育築
「その結果、呪いはどうなりましたか?」
祖母がそう聞くと、山崎の表情が再び恐怖に変わった。
「結果は、ご存知の通り……です。
桜庭は呪われて、更に強い呪いが朝倉に。
化物に……睨まれて………反されて…。」
「化物?」
「水…大きな水……山のような塊……。
1つの……大きな目………たくさん……の…小さな…目…。」
さっきまで饒舌に朝倉の感情のまま話していた山崎が、急に口籠ってしまった。
文章と言うより単語を話している感じだ。祖母は山崎の話に目処をつけたようだ。
「まぁ、こんな所かしらね。
朝倉さんは水の玉について何かある?」
「えっと、特には…。私の場合はただ見ていただけです。害を加えられる事はありませんでした。
あれは…本当に居たんですね……。」
「どう言うこと?」
「過去の夢とは言え実際の記憶かどうかははっきりしないので、一部は夢特有の脚色みたいなものかと思ってて…。」
「夢、まぁそれもそうか。非現実的なものではあるわよね。」
「非現実的………そう言えば、室内で降った雨も幻だったんでしょうか。」
朝倉がそう言った時、静かだった山崎が突然喋り出した。
「雨。そう雨!また雨に阻まれた!積年の怨みを叶えるべくあの日…………なけなしの力を使ったんだ。
最後の最後の力だった。16年前に果たせなかった桜庭の血脈を、呪いなんかに頼らず自らの手で絶ち切ってやろうと!
なのにまた雨だった……。」
(なけなしの力?16年前?そんな前に何があった…雨……水………水辺…………まさか!!!!)
「………なけなしの力で何をしたの。」
祖母は静かな怒りを込めて山崎へ問い掛けた。
「殺してやったさ。あの日、外回りからの帰り道。ぺしゃんこにしてやろうと思った。そうした……筈だった。
また雨だったんだ…死んだけど……死んでない…。
また…また俺の望みは叶わない…。」
(………ゃなかった…………事故じゃなかった!!!
彼奴が……彼奴がカナちゃん殺したんだ!!!
なのによくも……よくも……)
驚きと怒りと悲しみで逆に少し落ち着いてしまった。それは私だけでは無かったらしい。
祖母を筆頭に、父、伯母、母、義伯父と順に見回すと皆血の気が引くほど手を握りしめていた。
必死に堪えているのだ………彼奴を殺さないために。
「フゥー…。………じゃあ16年前は何したの。」
「16年前……そうだよあれだよ!!あれが成功してたらこんな事になってねぇんだ!!!俺の子孫の癖に最後に日和りやがってこの間抜け野郎がよ!!!
あんなチビ殺すのに力の殆どを使った挙げ句殺せなかった。そればかりか気付かれやがった!
間抜け!!間抜け間抜け間抜け間抜け間抜け!!!」
(私が溺れた時の話だ……。水に足を取られたと思ってた。水の中は怖くなかった…。"守られてる"って感じてた。私を引き上げたカナちゃん怖い顔で遠くを見つめてた。……彼奴がいたんだ。
私を溺れさせたのは彼奴?私を殺せなくて、残った力でカナちゃんを殺した…………化物だ……。)
「お前が!!娘をあの川で溺れさせたのか…。
あの時奏多は俺に言ったんだ……『守んなきゃ』って。
何の事か聞いたら、『兄さんの不注意だって事にしとく』って……言ったんだ。
奏多はずっと知ってたんだな………ずっと一人で…。」
ダァァァァァァン!
父が悔しげに、憎々しげに振り上げた拳は……壁を砕くのに充分な威力を持っていた。
「はっ、溺れただと!?
隆延もそうだったが、この家は1人以外全員間抜けなのか?…いや…各代で1人……か…。
隆延の兄貴も親父も爺も皆賢かった。中々手を出せなくてやきもきしてた…。
隆延は本当に間抜けだった。今のお前らみたいにな!」
「なんだと?」
山崎の言葉…いやもうずっと朝倉育築だった。
育築の人格が山崎樹を飲み込んだのか、山崎自身が受け入れて共生してるのか……。
そんな育築は父と伯母を指して嘲笑った。




