何で俺だけ「狙撃の王者の領域」
俺がライドルに頑張ってねとエールを送ったその三日後にソレは起きた。
プレイヤーが起こした大規模レイド戦である。ゲブガルの時にやった失敗は犯してはいない。複数パーティーがそれぞれ独立で同時にライドルの居る塔へと目指したのだ。
そのパーティー数「10」である。六十名がこの企画に参加した。企画発案者はゲブガルを退けたパーティーとはまた別の最前線組と呼ばれるパーティーだった。
「盾の陰から迂闊に出るなよ!三名のタンクは交互に交代しつつ慎重に進むんだ!」
巨大なタワーシールドを構えた三名の重戦士が、もの凄く頑強そうな鎧を着て一歩一歩慎重に森の中を行く。
その歩みは非常に鈍い。どうやら俊敏性がその鎧の重さで出せないらしく、しかしリーダーの命令通りに確実な歩みで塔への距離を詰めている。
「おい、そっちの方はどうだ?何か攻撃を受けたか?」
「いや!どうにもいつもとは違う!何か仕掛けてくるかもしれない!」
どうやら以前にこの森でやられた事のあるパーティーも参加しているらしく、それぞれのリーダー同士が声を掛け合って連携を取りつつ進んでいる様子だった。
「ねえ、ウチのトコとは別のパーティーは反対側から攻めてるんだよな?そうなるとソッチに攻撃が集中しているんじゃないか?もしかしたら一気に距離を稼げるかも?」
「油断するな。嵐の前の静けさだ。向こうは動き回って回避、とか言ってたが、どうにも俺にはそんな甘っちょろい思い付きで突破できるとは思えねえ。」
気を引き締めろと口にするプレイヤーはどうにもこの件には不安を覚えていた。素早さ、その点でプレイヤーが動き回れば狙撃など当たるはずが無い。
その様な事ができたらこの森は直ぐに突破されて塔まで誰かしらが到達できていたはずだと思うからだ。
彼らのパーティーは塔へのルートに森の中を行く事を選んでいる。木の陰に隠れて休憩を取り、盾を前面に出して仲間を守る。
堅実なルートと堅実な作戦でジリジリと塔への突破を目指したのだ。この森でやられていたプレイヤーはどちらの方角から攻撃が来ていたのかのおおよその目算くらいは取っていた。
そして遠距離、狙撃される範囲から離れた場所の高台から「遠視」のスキル持ちが確認して塔を発見していたのだ。
絶対に此処に居る。狙撃手が。コレに因ってプレイヤーたちはひそかに対抗手段を構築するためにレベル上げ、スキル回収、装備の充実など。
作戦実行のための準備を長く長く着実にしてきていた。
しかしこの戦いに参加したプレイヤーの中に「当たらなければどうと言う事は無い」と言ってのける速度重視の戦闘スキルを揃えた者たちが2パーティー現れた。
そして彼らは森を行かずにその反対側、荒野側から攻めると言って来ていた。これには自殺行為だと周囲から言われていたのだが、このスピードで全弾躱して塔に辿り着く事など余裕だと言って彼らだけ別行動なのだ。
遮蔽物が無い場所から速度だけで全ての狙撃を避け、塔へと到着する。彼らには相当に自分のプレイに自信を持っていた。
コレに最終的に「囮になる」と判断し、残りの8パーティーは森から攻める事になった。
森から攻める側にも速度を特徴としたプレイヤーは居た。しかしそれはどのパーティーでも斥候が役目の者であり、今回の作戦では活躍ができないと見られていた。
森の中では盾の後ろに隠れ、狙撃を凌ぐ。これを作戦の中心にしていたからだ。しかしここで斥候たちにもプライドがあった。
「なあ?俺たちは木の陰に隠れて先行した方が良いんじゃないか?斥候が先を行って塔に向かった方が敵の攻撃の的が分散されるだろ?他のパーティーの斥候役の奴らに声を掛けて部隊にして見ても良いんじゃないか?」
この連合と呼べるものを呼び掛けた最前線組のパーティーに所属する斥候役のプレイヤーがそう提案をする。しかしコレは以前から決めていた事であるようで。
「いや、駄目だ。前にも作戦会議でそれは止めようとなってただろ。ここで一人欠けると小さいながらも動揺が広がる。それは相手の有利にはなっても俺たちの有利にはならない。亀の歩みでも確実に前に進む事だけ考えるんだ。」
このリーダーの考え方がこの時に一番の正解であった。しかしこの時、忍耐、我慢するだけの精神が斥候プレイヤーには無かった。
「随分と静かだ。コレはどう考えても荒野側のプレイヤーたちが攪乱してくれてるおかげだろ?なら俺だけでも一気に狙ってみるからよ。何、木々が邪魔で狙いも定まらないだろ。俺の脚の早さは伊達じゃねえ!」
そう言って盾の陰から飛び出していった斥候プレイヤー。しかし、それは悲しい結末の引き金になるだけだった。




