何で俺だけ「撃破、激震、走る」
ゲブガルが撃退された事は瞬く間に広がった。どうやら掲示板へと即座にその情報が流れたらしい。いや、流されたと言うべきだ。
攻め入ってきた攻略組がゲブガルを退けた事を間を置かずに掲示板に情報を流した様だった。
俺はこれを翌日の仕事の昼休み中に知った。お祭り騒ぎ、と言って良いのだろう。かの拠点にはプレイヤーたちが殺到。人がゴミの様だ状態になった。
それもそうだろう。初期の頃にゲブガルへと「戦争」を仕掛けたプレイヤーたちがこぞって集まったのだ。
倒せない、そう思っていた四天王へと挑んだ者がいて、そして見事この場所から追い出したと言うのだからそれを祝いに来ない、訳が無い。
この情報はゲーム内の隅々まで拡散、その分だけプレイヤーたちが集まる事になっている。
そうなると局地的密集となる。それこそ限界を超えた、と言わざるを得ない程の。
人が「おしくらまんじゅう」をしていて過去に見られていた電車内の満員120パーセントを超える勢いだ。
もちろんそんな事になると「鍵」を探すどころじゃ無くなる訳で。俺の意図していなかった展開で少々の時間稼ぎにもなっている。
「うわぁ・・・何だろ?こいつら何がしたんだろうか?こんなにギュウギュウ詰め、何がしたいの?何を目的としてここにこれほどに集まるの?馬鹿なの?」
俺は無料で見れるゲーム内配信を視聴していた。今は多くのプレイヤーがこの状況を生実況していたりするので探せばすぐに見つかった。
そしてこの感想を持ったのだ。こんな状況に陥ったらこの拠点に隠されている「鍵」など見つけられる様な状況じゃ無い。
それをこいつらは分かっているのだろうか?と考えてしまう。しかしどうやら「鍵」の事を考えて横から掠め取ってやろうと画策しているような動きを見せるプレイヤーはちらほら見えた。
「ああ、そっか。倒したプレイヤー「だけ」が得られるんじゃないようだな。関係無い奴が見つけたらそいつの物になるって言う。・・・地獄を見るぞ、この仕様・・・」
四天王を倒した者に権利がある訳では無く、見つけた者が得ると言う仕組みの様子だ。とは言え、本当にそう言った仕様なのかは俺には分からない。
何せ俺は魔王であってプレイヤーでは無い。そこら辺のプレイヤーの取得物権利に関する事は一切知らないからだ。
「まあ暫くはまだこのお祭り騒ぎは収まりそうにないからな。あと一日くらいはそこまで深刻に気にしないで良いか。」
昼休みが終わって再び仕事に戻る。そして今日も仕事を早め早めで進ませてノルマを充分に達成しておいてまたしても早上がりで家に戻る。
「さて、ログインしたし、ミャウちゃんは今日も出張しているから居ないんだよなあ。目の保養が。まあ仕方が無いよね?」
今の所マイちゃんの所の拠点は未だに「変態」が来ているらしく、ミャウちゃんはそれらの対処に気が抜けないらしい。
少しだけ話を聞いてみた所によると、どうやらミャウちゃんの張る罠に少しづつ対応してきていると言う。
このペースで行くと最奥、マイちゃんが守っていたボス部屋にあと四日程で到達されかねないと言う事らしい。
俺はそれを聞いて突破されたら即帰還をミャウちゃんに命令しておいた。無理に戦う必要も無ければ、そいつらに姿を見せる必要も無いと。
「俺の予想よりも「変態」の対応力が高い件について。まあ、変態ってそう言うモノだよな。そいつらマイちゃんに再び会おうと必死で進んでるんだと思うんだけど。・・・あー、いなかった時の落胆が目に浮かぶわ。無駄に浪費したエネルギーを逆に怒りとかに変えられると厄介になったりするかもな。」
可愛さ余って憎さ百倍、とは言うが、その逆転したエネルギーをマイちゃんへと向けられたらと考えたら、ただ事では済まなくなりそうだ。
その怒りパワーで今度こそマイちゃんがプレイヤーたちに倒されてしまわないかと心配ができてしまった。
「そうなったら全力でマイちゃんには逃げ隠れて貰おうか・・・」
そんな事を思ってその日は僅かにまた溜っていたポイントを魔王へと全て振り込んでログアウトした。




