何で僕だけ「先ずは静かに」
翌日となって僕はまた森の中に居る。しかしこれまでと違うのは同行者が居る事。師匠と一緒だ。しかし戦闘に入れば僕は一人で最初は戦う事になる。
道中で出会うゴブリンはおらず、まるで嵐の前の静けさの様な状況だ。
「師匠、これってどういうことですか?いや、考えたくないんですけど。」
悪い予感に僕は震える。そこに返って来る師匠からの答えは。
「どうやらゴブリンジェネラル、では無いな。コレはキングじゃろ。どうにも厄介な事になったわい。老体に鞭打ってここまで来てコレか。骨が折れるわい。どうやら自分の身を守るために残りを全て自分の防備に傾けた様じゃな。」
一番聞きたく無かった答えである。今更その事に驚きはしないが、これから僕が突入する地獄にため息が漏れそうになる。
「露払いくらいはやってやろうかの。予定は変更じゃな。我が弟子よ。お前がキングをやるんじゃ。死ぬんじゃないぞ。」
「普通逆じゃ無いですか?僕が回りの掃除で師匠がキングでしょう?」
「これもワシからの試練だと思え。今のお前ならできん事も無い。昨日は帰った後に武具の点検もしたじゃろ。ワシと打ち合ったじゃろ。もう大体の身体の動かし方は把握してある筈じゃ。なら何ら問題は無い。」
ボス戦に備えて昨日は街へと戻ってからも念入りな準備をしてから休んだ。
そしてそこから師匠は僕にキングと対決させても充分に通用すると判断したらしい。
喜んでいいやら、悪いやらである。もう既に称号を取っているしもうボス戦はしなくても良いんじゃないかな?などと思っている今の僕に師匠が助けてくれないと言うのは結構負担だ。
強さが上がっている、強い敵にも通用する、それが師匠の口から聞けて嬉しい事ではあるのだが。それはそれ、コレはこれである。
もっと気楽にボス戦を楽しみたいのだ。しかし師匠からこう言われてしまっては無様な姿は晒せない。余計な緊張が付いて回って来る。ツライ。プレッシャーは要らない。
「ほれ、見えて来たぞ。どうやらあの奥に居るようじゃな。」
そこはかなり大きな口を開けた洞窟。しかも奥はどうにも深いらしい。入り口にはどうやらゴブリンが3匹見張りで立っている。
手には錆びた剣、短槍、太めの棍棒。どうやらこいつらはゴブリンの中でもステータス高めである様子。持っている武器から予想ができた。
僕が今まで倒してきたゴブリンはこんな武器は持っていなかった。素手か、或いは太めの木の棒だ。
そして昨日倒したゴブリンの中に折れてたとは言え、錆びていたとは言え、剣を所持している個体が居て、そいつの攻撃力は他と比べて高かった。
ならばきっとこの3匹もそう言った個体差のあるゴブリンなのだろうと予測ができた。
先ずはこの3匹を始末せねばならない。しかも静かにである。余計な声を上げられて援軍がぞろぞろと洞窟から出てこられると厄介、戦い難くなる事が簡単に想像できる。
「師匠、手伝って貰っても良いですかね?最初は僕が矢で一匹を狙うんで、同時に踏み込んで一体を受け持って欲しいんですよ。」
小声で師匠にそう相談する。これに無言で頷いた師匠は剣を抜き構えて直ぐに走り出せる態勢になってくれた。
僕は木の陰に隠れつつ矢を弓に番えて少しずつ、そして静かに弦を引いた。そして3体の内、右側を狙い撃つ。
風を切って「ひゅ」と矢がゴブリン目掛けて飛んで行く。弓矢は攻撃時に盛大な音を出さずに不意打ちができる所がメリットだろう。
それでも他の敏感な魔物だったりするとこうした攻撃も難なく避けられてしまうと言った事もありそうだが。
今の状況はそうでは無い。ゴブリンは鈍い魔物だ。僕の放った矢は見事に狙ったゴブリンの喉を貫いていた。
(狙いはしたけど、上手く行き過ぎな様な気がする。まあ、いいや!ご都合主義?コッチとしてはドンと来いだよ、有難い事には変わりないしな)
僕は直ぐにその場に弓矢を放って走り出す。剣を抜き放ちながら。僕よりも先に師匠の方が走り出したタイミングは早く、ゴブリンの目の前にまでもう迫っていた。
そして一閃、師匠はゴブリンの首と胴体を切り離す。綺麗な剣の横薙ぎで。
僕も既にゴブリンのすぐ側までその時には接近していた。レベルが上がって相当な走り出しと速度を出せるようになったのだ。
あっと言う間、ゴブリンは悲鳴一つ上げられずに僕らに殺されて地面に転がる。そして一拍置いてから光と変わって消えて行った。
「我が弟子よ。これからどうするつもりじゃ?」
僕が弓矢を回収している時に師匠がこれからの動きの確認を僕へと聞いてくるのだった。




