何で俺だけ「現れたソレは」
ここで手が尽きたのか、プレイヤーからの攻撃が止む。散々派手な威力満載のスキルや魔法をぶっ放していれば息切れも早い。
もうこの三人を倒す手段が尽きたのだろう。攻撃が止むほんの少し前に放たれていた最後の攻撃たちはそれぞれ一段も二段も派手なモノではあったのだが、ゲブガルの障壁を抜く事は叶わないでいた。
「いや、マジで運営、バランス間違ってない?ミャウちゃんも、マイちゃんも、ゲブガルも、全員かなりの強さだよね?プレイヤー、レベル上限解放しても無理じゃない?これ?」
どう予想してもこの三人をプレイヤーたちが倒せるビジョンが浮かばない俺。
しかしここで、このタイミングで来た。曇っていた空から、その黒く染まっていた雲を引き裂くように光の玉がゆっくりと降りて来たのだ。
どうやら運営はこう言った妙に凝った、そして演出が古典的なイベントを好むらしい。
コレにマイちゃんがこの光の玉に魔法を放った。ミャウちゃんがどうやらマイちゃんへと指示を出したらしい。光の玉に魔法は着弾、派手な爆発をするのだが。
「なんともないよねー。運営がやりたかった演出だもの。ここでせっかくの光の玉が出てきて何が起きるのかって時に、さっきの攻撃で消滅とかありえないしなぁ。」
この映像を見ているだろう他のプレイヤーたちの視線はその光の玉に釘付けになっているはず。そんな俺も光の玉を注視していた。
そんな注目がどんどん集まるそれがコロッセオの中央に降り立った時に変化が起きた。
その光の玉がまばゆく光って姿形を変えて、誰の頭の中にもあるだろうスタンダードな文字通り「天使」の姿に変わったのだ。
『神の使徒たちよ。今のままでは奴ら魔族には勝てないだろう。今一時だけではあるが、我が力をお前たちに貸す。さあ、この力を以て奴らを撃退せよ。』
そう言った天使は手を空へと向けたと思うと中空に剣が出現。それを握った天使は再び光り輝いた。
その光は八人へと吸収され、プレイヤーたちの体は同じく光り輝き始める。
「チープな演出だなー。でもまあ、コレでプレイヤーが魔族へと対抗するなら、どんな力が必要なのか?って言うヒントを出せた訳だ。レベル上限解放もコレと同時にするんだろうなあ?」
コレにちょっとの間だけ困惑しているプレイヤーたち。しかし次の瞬間に再びゲブガルへと攻撃をし始めた。どうにもステータスが全て全快した模様だ。
そしてさっきの光のせいだろう。そのそれぞれの攻撃には微かな光を纏っていた。
それがゲブガルの障壁に当たると先程とは打って変わって「ビシリ」と嫌な音が微かに混じる。
これはさっきまで通用していなかったプレイヤーの攻撃が通じている証拠だった。
「いやー、コレでプレイヤーはメインストーリーを進める上で、この力を求めてまたあっちこっち冒険を繰り広げるって言う形になるのかぁ。なるほどなあ。」
多分コレはさっきの「天使」の力なんだろう。それが無いとプレイヤーが魔族に勝つのはベリーハードだよ、と言いたかった訳だ。
そしてプレイヤーたちは攻略を進めるうえでこの「天使の力」を追い求めないとそう簡単には先には進めない、と。
まあ多分だが、この力とやらを見つけるのにも、得るのにも、相当に難しいんだろうが。
そうで無いと、それもそれでバランスが悪いのだ。そう、今はまだ必死に耐えてはいるのだが、ゲブガルの障壁が既にもうこの短い時間でボロボロにされてしまっていた。さっきまでは罅一つ入れられていなかったのに、今はビッキビキである。
と、ここで気付いたが、この場にさっきまで居た天使はもう消えていた。どうやらいつまでも降臨してはいられないと言った事なんだろう。プレイヤーにほんのちょっとだけ力を貸すだけ貸して、後はさっさと引っ込むと。
「まあ、あんまり説教染みた説明とか萎えるしな。この力がどう言ったモノなのかー?とか。どういった場所で取得しやすいとか?そんなの一々話してたら正直冷めるよなー。」
こう言った追加要素は自身の手で散々探し回って、そして努力して、見事ゲットするのが面白いのだ。
取得する為のクエストなどでは、この力がどんなモノであるとかの説明がその時になって「鍵」として必要になったりして、そうやって自然と知る事になるはずだ。ここで一々全容を説明されたら面白くもなんともない。
「おー、マイちゃんが魔法で反撃したけど、結構持ち堪えてるぞ?最初の時とは段違いだな。」
防御の方もどうやら強化が著しいようだ。マイちゃんの魔法一発でガタガタだったプレイヤーたちは今回のパワーアップで体勢の崩れ方が半分以下になっている様子に見られた。
「かなり強力だなあ。もっとこっちもパワーアップって言う面は考えないと簡単にやられちゃう?でもこれ以上は俺の封印がもう一段階解放されないと何ができるかも未知数だしなぁ。」
ポイント稼ぎにより一層力を入れないと、直ぐにこのままではプレイヤーに「魔王」がやられてしまう。
俺は何か良い案は無いかと頭を悩ませながら、配信映像を見守った。